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最新のプラズマ溶射ガン

こんにちは。
表面技術2022年5月号の溶射特集の中で、『溶射装置の最新動向』という記事が気になって読んでみたので、覚えておきたいことをメモしておきたいと思います。

著者は、溶射装置の最大手といわれるエリコンジャパンの方なので、営業含めた記事だと思います。
それでも、最大手ということは現時点での実用化された最新技術の勉強になるかと思います。

タイトには溶射装置の最新動向とありますが、主に、というか9割方プラズマ溶射ガンの紹介です。
溶射技術全体でみると、コールドスプレー等の比較的新しい手法が開発されていますが、現時点ではプラズマ溶射が主流ということです。

プラズマ溶射ガンの特徴

溶射で用いられるプラズマは、電極間の直流アークを用いてガスを電離させて生成されます。
アークが直接プラズマになるというよりは、カソード(電極)とアノード(ノズル)の間でアークを発生させ、それを導通路として低電圧で大電流な直流電流を流し続けることで、熱プラズマを発生させるそうです。

溶射ガンの構造は下記サイトのプラズマ溶射の絵が分かりやすいともいました。

なんとなくアーク=プラズマだと思っていたんですが、そういうわけじゃないんですね。

また、ノズルを冷却することによるサーマルピンチ効果で細くなったプラズマによって、高速で粒子を噴出することができるようです。

そんなに課題がありそうに書かれていませんが、従来型のプラズマ溶射ガンの場合、ノズルの中でアークの位置が安定しないので、吐出されるガスや粒子の温度や速度にバラツキが生じると書かれています。
確かに、そこがバラつくと膜質への影響も懸念されるので、アークはできるだけ安定してほしいですね。

3電極式カスケード型プラズマ溶射ガン

従来構造の課題であるアークの安定化に対して、3電極式カスケード型プラズマ溶射ガンが開発されたそうです。

カスケードってたまに聞くけどどういう意味なんでしょうか?
調べたらIT用語集の一番上の文章がしっくりきました。

カスケードとは、何段も連なった小さな滝のこと。転じて、同じものがいくつも数珠つなぎに連結された構造や、連鎖的あるいは段階的に物事が生じる様子を表す。
下記サイト

3電極式カスケード型プラズマ溶射ガンでは、細いカソード3本とカスケード型アノードを使うことで、アークの位置を安定化させています。

細い3本のカソードにすることで、3つのアークが反発しあい、ノズル内の半径方向に安定化します。
カスケード型アノードにすることで、軸方向のアークの動きが抑制されて安定化します。

更に、ノズル内径を大きくすることで、ノズル内の均熱範囲が広くとれるので、熱的にも安定する範囲を広げることができるようです。

それでも定格電力は単電極式と同等ということなので、良いことづくめな感じがします。

ただ、欠点としては、配線が増えることでハンドリング性が悪化することです。(狭小部などで不利)
電極は細くしてもそのためのケーブルのサイズはそれほど変わらず、3本必要なためです。

ケーブルとコネクタの形を工夫すれば何とでもなる気がしますが、まだ技術的上手くいっていないのかもしれません。

この課題に対応するために、電極は1つだけど、アノードをカスケード型にした簡易型も販売しているようです。

こちらで何とかなるなら、安上がりでいいですが、3電極でより安定することが分かっているようなら、今後の開発に期待ですね。

回転式の溶射ガン

自動車などのエンジンのシリンダーブロックへの溶射に対応するために回転式溶射ガンが開発されたようです。

シリンダーブロックが全くイメージできなかったので調べてみたら、円柱型の凹構造があるんですね。

その凹部の側面に溶射するために、回転式が必要だったようです。

回転式の場合、生産性を律速するのは回転速度のようです。
回転速度が遅いと、局所的に熱負荷が大きくなってしまうので、粒子の噴出量を大きくできないというのが問題だったようです。

技術的にどうやったのかは記載されていませんが、高速回転タイプを開発することで生産性を2倍以上にできたと書いてあります。

エリコンジャパンは外資系のようなので、記事に書くには本社側の許可を取るのが大変なんじゃないかと妄想しています。

最新の溶射システム

溶射システムの最新動向に関しては、詳しいことは記載されていません。
IoTやインダストリー4.0に対応したスマート化と、産業用ロボットと組み合わせた全自動システムのようなものが紹介されています。

この辺りは、溶射装置に限らず、これまで人が手作業でやっていた部分を自動化するという点で、大きな流れに乗っているような感じがします。

感想

プラズマ溶射ガンに関して基本的な構造と理屈を知ることができたのは良かったです。
これから溶射に関する知見が必要になるときは、装置側の特徴や制約も含めて調査や考察ができるといいなと思います。

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