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【学会誌】微細印刷エレクトロニクス

こんにちは。
日本設計工学会誌『設計工学』2020年9月号に掲載されていた比較的新しい印刷方法についてメモしておきたいと思います。

参考にした記事のタイトルは『微細印刷エレクトロニクス』で、著者は産総研の日下さんという方です。

反転オフセット印刷

微細印刷のための工法として紹介されているのが、反転オフセット印刷です。
調べても多くは出てこないので、比較的新しい工法のようです。
日本印刷学会の総説が見つかりました。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/nig/50/6/50_484/_pdf/-char/ja

インクジェット印刷やスクリーン印刷、グラビア印刷と比べると膜厚の安定性が良いようです。
その特徴を生かして、エレクトロニクス分野での利用が検討されています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/photogrst/77/2/77_58/_pdf

反転オフセット印刷と普通のオフセット印刷

オフセット印刷という工法自体は一般的に用いられていて、”最も利用される”と表現する人もいるようです。

反転と普通の違いは、目的のパターンが凹側か凸側かの違いにあります。
以下、2つのプロセスのイメージ図を見つけたので貼り付けます。

(普通の)オフセット印刷
(参考:https://odahara.jp/guide/printing_method/)


反転オフセット印刷
(参考:https://www.jstage.jst.go.jp/article/nig/50/6/50_484/_pdf/-char/ja)

普通のオフセット印刷印刷は凸部のインクをワークへ転写するのに対して、反転オフセット印刷は凸部を使って印刷したくない部分を除去した後、残ったインク(凹部と同じパターン)をワークへ転写する技術です。

普通のオフセット印刷の場合、インクの凝集破壊対策が課題となるようです。
これに対して、反転オフセット印刷はワークへ転写するタイミングでは、インクがある程度乾燥しているので、凝集破壊が起きにくく印刷制度が高くなる点がメリットになるみたいです。

普通のオフセット印刷でも出来そうですが、非パターン部に水があるので半乾燥状態での転写は難しいのかもしれないです。

パターニングの数理モデル

転写によるパターニングの際、不要部分と必要部分の境界線ではインクの破断が起こりますが、日本設計工学会誌の記事では、ここの数理モデルが掲載されていました。
(ただし、モデル化は業界的にもまだまだ改善が必要な領域のようです)

$$
\begin{equation*}
U_{total,s}=U_{s}+U_{a}=\frac{Gd^{2}h}{l}+w_{a}l
\end{equation*}
$$

ここで、

$$
\begin{align*}
& U_{total,s}:膜のエネルギー \\
& U_{s}:エッジに生じる歪みエネルギー Gε_{s}^{2}hl \\
& U_{a}:付着エネルギー w_{a}l \\
& G:ずり弾性率\\
& h:インクの厚み\\
& d:インクが持ち上げられた距離(転写元から離れた距離)\\
& l:エッジの剥離幅 \\
&  (引きちぎれるときに転写元/転写先のどちらにも触れていない範囲) \\
& w_{a}:付着エネルギー\\
& ε_{s}:せん断ひずみ d/l \\
\end{align*}
$$

エネルギー最小原理から、

$$
ε_{s}=(\frac{w_{a}}{Gh})^2
$$

と考えると、膜の破断の条件は以下のようになります。

$$
ε_{s} > ε_{s}^{crit}
$$

ここで、$${ε^{crit}}$$は膜の破壊歪みであり、ランプの式に従い、男性限界内で破断が起こるとすると以下の様に表せる。

$$
ε_{s}^{crit} \approx \frac{Φ}{1-Φ}\frac{F_{ct,p}}{Gr^{2}}
$$

$$
\begin{align*}
& Φ:体積分率 \\
& F_{ct,p}:接線方向の(インクに含まれる)粒子間の付着力 \\
& r:粒子半径 \\
\end{align*}
$$

これらから、切れやすさの指標B[無次元]が導き出される。

$$
\begin{align*}
B &= (\frac{ε_{s}^{crit}}{ε_{s}})^{2} \\
  & \approx \frac{Φ}{1-Φ})^{2}\frac{F^{2}_{ct,p}h}{4w_{a}Gr^{4}}
\end{align*}
$$

つまり、以下のことが言えます。

  • 膜厚が薄いほうが切れやすい

  • 粒子が大きいほうが切れやすい

  • 粒子間力が弱いほうが切れやすい

  • 転写元とインクの付着力が大きいほど切れやすい

感覚的にはイメージできることが数理モデルとしても表現されています。

ただし、インクと転写先との付着力と転写元との付着力がともに大きいと凝集破壊になってしまうなど、このモデルだけでは表現できていない部分があるので、この辺も含めて改良が必要なのだろうと思います。

品質に影響する要因

理屈的には上記モデルでパターニングの現象を説明することが出来そうですが、その他に版に押し付けたときの転写元表面(日本設計工学会誌の記事ではシリコーンゴム)の変形が想定されます。

押し付け圧が強すぎると、版の凸部周辺が変形してしまうため、パターニングズレが起こってしまう可能性があります。
特に、非対称なパターンでは左右で変形の仕方が異なるので、印刷精度が低下してしまうことが懸念されており、対策が必要になります。

思ったこと

印刷の工法は電子部品業界でも重要な技術になっていますが、素人が少し調べただけでは新しい技術は見つかりにくく、ある程度でき上っている分野に見えると思います。

設備的にはまだまだ改良の余地があるのかもしれませんが、革新的なプロセスが発明されることは少ないのではないでしょうか。

今回知った反転オフセット印刷も革新的とまでは言えませんが、まだまだ進化の余地があるということを知ることができました。

何となくですが、手を動かしながら改良を加えていく分野のような気がして、個人的には好みかもしれないと感じました。

仕事で担当することが出来れば深くまで検討してみたいと思います。

今日は以上です。

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