見出し画像

はなのように 1

いつも笑っている人

「るるはいつも笑ってるなぁ」

 るるとは愛称のようなもので、それを使うひとは二人しかいなかった。

「そうですかねぇ」
答える私はやはり笑顔だ。

「あとね、犬みたい」
二人は後に夫妻となる二人で、入学当初からよく声をかけてくれた。

「そうですかね…」
犬みたいというのはどうだろうか。

「犬のリーダーみたい」「リーダーだけど群れがないな…」「でも猫じゃないんだよなぁ」
漫才かな?

「猫ってのは森屋みたいなやつだろう、あれはなんか…姫のような猫?だからな。」
その、姫のような猫に、火のつくような酒を出したのは誰か。
 「森屋さんにイタズラして、引っ掻かれてますからねぇ。ダメージ受けてるの貴方じゃないですか」 
 酒豪の森屋さんの限界を見てみたい、そう言ってアルコール度数の高いものを500のペットボトルで持ち込んだ飲み会で、彼等はウワバミを見た、と青い顔で帰ってきた。

「じゃあね、るる、あとでね。」

 馨さんと奥田さんは呼び止めるだけ呼び止め、用件もなく去っていった。
(いつも笑ってる…) 
「当然。」

私がここへ来る以前になにがあったか、ここ以外にはどんなか、知らないひとばかりのところ、使わない策はない。
笑顔。 
感情的にならない。それがここへ来て、一番に決めたこと、恋愛もしない、学業を好きなだけやるのだ。

邪魔の入らないように、好きにいきたい。
「この顔だけは外さない」
まるで能面を被るかのように、決めたことを知られなくてもいいのだから。
2
講義を選択するときには目一杯とった。忙しいとか遊びたいとかは一切考えていなかった。
興味のあることは重ならない限りは、入れていった。
 同期生と同じになるものは、専科ぐらいではあるが、専科だけで1日終わることもあるので、大概一緒にいることになる。
 三ヶ月もすれば脱落してきたり、会わなくなったりしていた。
 それでも今までも誰かと学校へいくこともなかったし、食事も一人で平気だったし、特別問題ないと思っていた。
 でも、ひとつ誤算だったのは、笑顔が絶えないと言うことは、多少の無理も通るのではないかと、思わせる節があるということだった。

「代返できない?」
「無理」
「ノートお願い、貸して」
「お断りしますね」

会話だけ聞いていればなんとも無愛想だが、終始笑顔だ。
 するとなんというか、人は寄らないのではないかと思っていた自分に反して、それでもなんとかかんとか頼まれるのである。面倒なのと、なぜ無償でやらねばならない理由はないと、それなりに対価を取るようにした。金銭ではなく。そんなこんなで、一年過ぎる頃には、「存在」が出来上がってしまった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?