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アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン

ソウルミュージックの半分は、ゴスペルでできている!

どうも、安部スナヲです。

アメリカン・ユートピア」に次いで、またまた価値観変わっちゃうレベルの音楽映画を観て来ました。

1972年1月13、14日。ロスアンゼルスのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会にて、あるソウルシンガーによる伝説的なゴスペルライブレコーディングが行われました。

その音源は2枚組のLPとして発売され、300万枚以上のセールスを記録。ゴスペルアルバムとしては史上最大のヒットとなりました。

そのソウルシンガーとは、何を隠そうあの「ソウルの女王」とか「レディソウル」と呼ばれるアレサ・フランクリン。


いきなり余談ですが「ARETHA」は「アレサ」ではなく「アリーサ」と発音しなければ、ピーター・バラカン氏に叱られます。

あの人はアルファベットをカタカタ読みすることが、よっぽど許せないようです。

しかしながら、これは日本人がアルファベットを読めるようになったからこその表記・発音であり、そうでなければ、室町末期〜安土桃山時代の人がキリスト教の神父を意味する「パードレ」を、なんとなくのヒアリングだけでバテレン(伴天連)と呼んでた時の知性に戻ってしまうような気がするのですが‥。

さて、ハナシをアレサに戻します。。。。

バテレンのハナシが出て来たのは、単なる偶然ですが、このライブは「アメイジング・グレイス」といタイトルが示すように、ライブというよりもキリスト教の礼拝といった方が正しいです。

【この一体感こそゴスペル】

ゴスペルというのは、アフリカ系アメリカ人によるキリスト教の福音音楽。では「福音」とは何か?めっちゃ平たくいうと、「信じるものは救われる」というあの教えかなぁ?と理解してます。アバウトに。

著名な牧師、C.L.フランクリンを父に持つアレサは、幼少期から強い信仰を抱き、教会でゴスペルを歌って来ました。

そしてソウルシンガーとして人気者になってからも、自らのルーツであるゴスペルのアルバムをちゃんと作りたいと思っていました。

そこで実現したのが本作での教会ライブです。

バックをつとめるのは、コーネル・デュプリー(ギター)、チャック・レイニー(ベース)、ケニー・ルーパー(オルガン)、パンチョ・モラレス(パーカッション)、バーナード・パーディー(ドラム)

そして、聖歌隊「サザン・カリフォルニア・コミュニティ・クワイア」です。

ライブレコーディングにこだわった理由は、ゴスペルというのは教会に信者たちがたくさんいて、みんなで声を出し、手を叩き、足を踏み鳴らして、神様を讃えるのがあるべき姿なので、その空気を丸ごと記録してこそ本当のゴスペルアルバムだと、アレサは考えたからです。

その思いの通り、本作ではライブが進み、熱を帯びて行くに連れ、演者と観客の間に垣根がなくなっていく様子が、ありありと記録されています。

まるで別々の個体が、熱溶解されてひとつになって行くような、途轍もない一体感に圧倒されます。

またライブ中、実父であるC.L.フランクリン師が壇上にあがり、娘のアレサを激励します。

その中にとても印象的なエピソードがありました。

ある旧知の教会仲間が、すっかりソウルシンガーとしてビッグになったアレサに「教会に戻って来て欲しい」という、その思いをC.L.フランクリン師に投げかけました。そこで彼は「アレサは一度も教会を離れたことはないさ」と返したというのです。

如何に「ソウルの女王」と呼ばれようと、キリストへの信仰、仲間への思いは変わらないことを、このゴスペルライブで、信者や観客の前で堂々と言い放って見せた、感動的な一幕でした。

【M.ゲイ、C.キングも神への歌に】

本作で歌われるのが神様を讃える曲であることは一貫していますが、すべてがオーセンティックな讃美歌ばかりというワケではありません。

例えば、第一夜、司会進行役のジェームズ・クリーブランドの名調子を経て、白いドレスを纏い、厳かにステージに登場したアレサがピアノを弾きながら歌った一曲目はマーヴィン・ゲイの「 Wholly Holly」です。

やはりキリストへの熱い信仰を歌ったこの曲は、マーヴィン・ゲイの歴史的名盤として名高い「What's Going On」に収録されています。

そのアルバムが発表されたのが71年なので、当時としてはリアルタイムのポップソングでもありました。

マーヴィン・ゲイが歌うとエッチな曲に聴こえますが、本作のライブでアレサが歌うこの曲は神聖そのもの。第一声から有無を言わせられず、涙腺が崩壊します。

そしてキャロル・キングの、もはやスタンダードとなっている大名曲「You've Got a Friend」は、「Precious Lord Take My Hand」というゴスペルソングとメドレー形式で、歌詞の「友達(Friend )」の部分に「…と主(and Jesus)」が付け加えられ、讃美歌として歌われています。

【監督シドニー・ポラックの懺悔】

ところで、何故この感動的な映画が、本番から50年近く経った今になってやっと公開されたのでしょうか。

実はこのライブ、音源と同じ時期に、映像作品としても発表される筈でした。

ところが監督のシドニー・ポラック、やっちゃったんです(・_・;

映像を撮影する際、カットの始めと終わりを示すカチンコを何故か使用しなかったんです。

それが故に、映像に音を合わせることが、でけへんやないかぁ!という不足の事態に陥ってしまい、せっかく撮った映画がお蔵入りになってしまったのです。とほほ。。。

それを現在のテクノロジーを駆使することにより、膨大な映像ソースと音源ソースを長い年月をかけてシンクロさせ、漸く完成!晴れて公開に漕ぎつけたのが、今というワケです。

シドニー・ポラック氏は何よりもそのことを懺悔しなければいけませんよね。

ま、彼の罪を救ったのは主ではなく最新のテクノロジーでしたということですね。この件に関しては。

ちなみに彼は2008年、天に召されています。

エーメン。。。



私はゴスペルライブをちゃんと観たことはなかったのですが、本作を観て、黒人のR&Bが何故「ソウルミュージック」と呼ばれるのかを身をもって知らされたような気持ちになりました。

ゴスペルは、その精神性だけでなく、リズムや即興性やコール&レスポンスなどの歌唱形態もソウルミュージックの主成分であることがよくわかりました。

そしてソウル=魂とはイエス・キリストに捧げ、救われるもの。

その切実な祈りを持つ人たちが集うからこそ、この熱気とエナジーが生まれるのだと。

ところで、客席でノリノリの様子が何回も映されていたこの人は、キリストというより、単にアレサのファンなんやろうなと思って見てたな。




出典:

映画「アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン」公式サイト

マーヴィン・ゲイの幻のライヴと、「ホーリー・ホーリー」をすぐにカヴァーしたアレサ・フランクリン

映画.com

49年間未公開のままだった、ソウル史上最高のライヴ・ドキュメンタリー『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』5月公開

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