「バッファロー'66」
90'sミニシアター系のダークホース。
どうも、安部スナヲです。
今ではもう、大手が配給する映画とミニシアター系の映画に殆どちがいがなくなってしまいましたが、かつてミニシアター系といえば、例えばハリウッド映画のような超娯楽大作とは明らかにちがった、独特の味わいがありました。
作風は様々ですが、低予算のインディー映画が多いこともあってか、映像演出が何処かいびつだったり、何かが極端だったり、ストーリーや設定も超娯楽大作みたいにわかりやすくなくて、掴みどころのない作品が多かったように思います。
時代に応じて何度かブームがあったようですが、個人的に強く印象に残っているのは、やはり私自身が20代だった1990年末期から2000年代にかけてのミニシアター系ブームです。
代表的なのは「トレインスポッティング」と「アメリ」です。
それまでのミニシアター系ではあり得ない興行成績を上げたというこの2作は、実際、ミニシアターどころか、普段それほど映画を観てないと思われる人たちまでもが挙って観ていて、所謂トレンドになっていました。
だからというワケではありませんが、私が思うにこの2作は、ミニシアター系としては出来過ぎています。
特に映像演出的な部分においてはとてもスタイリッシュで、革新的といってもいいくらいです。
私にとってミニシアター系というのは、もっとチープでいなたい感じなんです。
…といったところで先日、これこそがミニシアター系の鑑と思っている映画をリバイバル上映で観ました。
ヴィンセント・ギャロの「バッファロー'66」です。
前述2作と比べるとマニアックな印象ですが、60〜70年代のアメリカンカルチャーやファッションが反映されている感じもかっこ良くて、コアなファンも多い作品です。
ストーリーは刑務所を出所し、故郷のバッファローへ戻ろうとする男・ビリーが、両親に見栄を張りたいというだけの理由で、ある場所にたまたま居合わせた女・レイラを拉致し、嫁さんの「なりすまし」を強要します。
はじめはいやんいやんと抵抗してたレイラですが、ビリーのいう通りに振る舞う内に「あれ?私この人好きかも」となり、そういうことならとツンデレ癇癪持ちのビリーの方も段々心を開いて行く…あらましそんな感じです。
私は本作をD V Dでしか観たことがありませんが、今回、あらためて劇場で観て、どのような点にミニシアター系の醍醐味を味わい、楽しんだかをお伝えして行きたいと思います。
【ギャロって何ギャロ?】
あのバスキアとバンドを組んでいたというヴィンセント・ギャロはミュージシャンでもあり、フジロックにも出演しています。
さらには絵画、ストリートパフォーマンス、バイクレースと正に多芸多才。
そんなギャロが初めて監督した映画がこの「バッファロー'66」です。
本作では監督だけではなく、脚本も音楽も出がけています。
そして薄々勘づいてるとは思いますが主演もこの人です。
このように本作はヴィンセント・ギャロという人個人のある意味偏った厭世観や美学が貫徹されているからこそ生み出された世界。
その偏りが商業性を踏まえた超娯楽大作にはない独特な魅力を放っています。
【ビリー&レイラの夫婦漫才】
本作はギャロ扮するビリーとクリスティーナ・リッチ扮するレイラのシュールな人情コメデ…いや、コント漫才と呼んでもいいかも知れません。
ビリーはレイラに対して常に激しくキレながらツッコミを入れます。
だけど理不尽なのはいつもビリーの方です。
つまりビリーはツッコミと見せかけて実はボケなんです。
この強引なボケがイニシアティブを握ったまま対話をリードして行くスタイルは、あの80年代の漫才ブームの時のやすきよ、ツービート、B&Bあたりに原型を見ますが、ギャロが影響を受けてるワケねーわな。なんじゃそりゃ。
【リバーサルフィルムの味わい】
本作は映像も特徴的で、質感としては「俺たちに明日はない」とか「真夜中のカウボーイ」といったアメリカンニューシネマ調にも見えますが、それらよりさらに彩度が低く、コントラストを強調したクールなトーンになっています。そしてそこに乗っかるフィルム特有のザラついた粒状感がたまりません。
本作はリバーサルフィルムで撮影されています。
細かな説明は端折りますが、ネガフィルムよりも扱いが困難で、あまり劇場公開用映画の撮影には使われないようです。
ギャロがそれにこだわった理由は、彼が初めてみた60年代のサッカードキュメンタリーがリバーサルフィルムで撮影されたものであり、彼にとってバッファローの街に最もフィットするからだそうです。
【小津安二郎?的な?】
食卓での会話において、別々の方向に固定したカメラで撮った画像を、カットバックさせながら見せるシーンがあります。
この撮影方法そのものは小津安二郎へのオマージュなんだと思いますが、これがとにかく不自然で気持ち悪くて、ハッキリ言ってダサいんです。
普通の映画なら製作に関わる他の人たちから許容されないと思うのですが、こういった監督のエゴで押し切りました感もミニシアター的で楽しいです。
今回、私が本作を観たシネ・リーブル梅田はテアトルシネマグループの劇場で、4つのスクリーンからなる、いわばミニシアター系シネコンといった体をなした映画館です。
ちょうどこの記事で取り上げた90年代末期からのミニシアター系ブームの最中に出来た劇場なので、自然とあの頃の感覚が蘇りました。
ポップコーンとコーラを傍らにIMAXで観るマッドマックスやスターウォーズも大好きですが、マッタリと揺蕩う感情を持て余すような心地良さが、あの頃のミニシアター系にはあるんだなー。
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