見出し画像

「スパークス・ブラザーズ」すべての敗者にもやり方がある。

どうも、安部スナヲです。

映画界きっての音楽ジャンキーであるエドガー・ライト初の音楽ドキュメンタリーは、何とスパークス。

何しろ「ラストナイト・イン・ソーホー(2021)」への慕情をまだ保っているだけに、ひとしおのワクワク感を抱きつつ観て来ました。

【スパークスと私】

劇中、テレビでスパークスを見たジョン・レノンがリンゴ・スターに電話をかけて「マーク・ボランとヒトラーが歌ってる!」みたいなことを言ったというクダリがあり、うまいこと言うやん!と膝を打ちました。

画像1

一応説明しておきますと、マーク・ボラン風が弟のラッセル(ヴォーカル)でヒトラー風が兄のロン(キーボード)です。

時代を追うごとに進化を遂げ続けて来た彼らですが、レノンがテレビで見た70年代はルックスだけでなく音楽性も、アメリカ人ながら、それこそTレックスやロキシー・ミュージックに代表されるグラム・ロックに括られていました。

私もそうなんですが、特に日本でスパークスを知る多くの人は、彼らを概ねグラム・ロックのバンドと認識し、代表作といえば「キモノマイハウス(1974)」を思い浮かべるのではないかと思われます。

このアルバムは、布袋寅泰がフェイバリットにあげていたり、「70年代名盤ランキング」的な企画ならだいたい100位以内には入ってるよね?という感じの、ロック通のアルバムという位置づけにあります。

私もこのアルバムは、オゲレツなクィーン、或いはゴドレイ&クレームがいた頃の10CCにも通じるオペラ調ヘンテコポップみたいな感じがツボであり、割と好んで聴きます。

が、ぶっちゃけますと私、このアルバム以外のスパークスをほとんど知りません。

さらにぶっちゃけますと、この映画もエドガー・ライトが監督だから観に行きましたが、スパークスに対しては「まだやってはったんや?」と思ったくらいで、これまでの経歴にもさほど興味はありませんでした。

しかしながらこの映画、ミュージシャンのドキュメンタリー映画としてはマーティン・スコセッシ監督のいくつかの作品に次ぐフェイバリットになりました。新境地という意味では最高傑作かも知れません。

【観るスパークス】

画像2

この映画がドキュメンタリー映画として型破りであることは、はじまって数分で証明されます。

まず、オープニングのタイトルバックからジングル的に流れる「ファンファーレ」

スパークスにそういう曲があるのかと思っていたら「この映画のファンファ~レ♪」と歌っている。ふむふむ、なかなかウィットに富んで楽しい!

次いでベックやらレッチリのフリーやらのインタビューのダイジェストと、テレビ番組の司会者が「スパークス!」と紹介する映像が、これぞエドガー・ライトというリズミカルな編集で矢継ぎ早にたたみかけて来ます。

そのグルーヴ感をキープしたまま、ロンとラッセルへの一問一答形式のイントロデュース。

その中でも…

「出会いは?」「だから兄弟だ!」
「性的傾向は?」「やや欲情的だ」


などの体系的なネタフリ→オチの構成が実に痛快😂

それらの演出を繋ぐアニメーションやコラージュアートを駆使したシークェンスも、何だかモダンで全部カッコいい。

まるでスパークスの音楽に呼応するかのような演出の数々。流石はエドガー・ライト、やるやんけ!

こういうのは映画監督としてどんなに実力があっても、根っからのスパークス愛がないと出来ないのだろなと感じました。

終始散りばめられたユーモアも含め、エドガー・ライトは彼らの音楽にあるエキセントリックな世界をそのまま映像演出に反映しようとしたのだと思います。

正に「観るスパークス」です。

画像3


【change】

ミュージシャンとしていちばんカッコいいのは、アルバムごとにファンの予想を裏切り続けるような変化を見せられる人だと思っています。

例えば本作でスパークスに影響を受けたミュージシャンの要として登場するベックなどはその象徴でありながら、デビュー当時から「この人のやることが最先端」というポジションをずっとキープしている、選ばれし者です。

画像4

しかし、当たり前ですが良い音楽を作っている人全員がベックのようになれるワケではなく、それには安定した評価や商業的成果も得られなければなりません。

その点、スパークス50年のキャリアは波瀾に満ちていますが、彼らは雨が降ろうが槍が降ろうが創作に関しては一度たりとも妥協しなかったということが、この映画を観ればよくわかります。

劇中、インタビューで涙を流しながらそのことを語っていた女性は、おそらくクリスティ・ハイドン(元スパークスのパーカッショニスト)だと思いますが、彼らは80年後半から90年にかけて、仕事がなくてもう食べて行けないという状況の中でも、ずっと曲を作り続けていました。

しかも、理解されてもされなくても、常に新しいことへの挑戦を怠りませんでした。

そのイノベーションマインドが受け継がれ、ベックのようなミュージシャンが生まれたのだとすると、彼らの放ったスパーク=火花による引火は、時に大爆発を起こすということ。

最後に「change」という曲のリンクを貼ります。これは2018年ライブなのでこの時、ロンは73歳、ラッセルは70歳です。

「every loser's is gonna have his way」という歌詞は「すべての敗者にもやり方がある」という意味になるのでしょうか?

ま、私はそう受け取りました。




出典:

映画「スパークス・ブラザーズ」公式劇場パンフレット


映画「スパークス・ブラザーズ」公式サイト


スパークス・ブラザーズ : 作品情報 - 映画.com


スパークス、エドガー・ライト監督によるドキュメンタリー映画の全米公開が6月に決定 | Daily News | Billboard JAPAN


ベック(BECK)が新作アルバム『ハイパーライフ』リリース、前作『カラーズ』から約2年 - ファッションプレス



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?