見出し画像

「孤狼の血 LEVEL2」

あなたもオオカミに変わりますか?


どうも、安部スナヲです。

往年の東映ヤクザ映画的な装いではありながら、どちらかといえばノワールサスペンス?と思いきや、人情劇のように泣かせにかかるという側面もあり、何だかとても貪欲な映画だなーというのが、前作「孤狼の血」(2018)の印象でした。

画像1

そして今作「LEVEL2」では、それにサイコスリラーとバトルアクションの要素も加わってるので、もうギガビックマックセットとか特選フィレステーキシャトーブリアン1200gくらいのボリュームです。

あまりに高カロリーで濃厚で特盛り。
もうゲップが止まりません。

とにかくエンタメ映画として今の日本で実現可能なことは全力でやっているという気概に溢れています。

どこを切っても旨味だらけですが、今回は私が特に心を射抜かれたポイントを紹介していきます。

【怪物・ウエバヤシ】


何といってもこれ!

失礼ながら私はこれまで鈴木亮平さんに、体育会系好漢俳優という薄味な印象しか抱いていませんでした。

ところが本作を劇場で観てからずーーーーーっと、彼の演じた上林成浩が頭から離れません。映画を観終わって2日以上経った今でもあんまり離れてません。何とかしてください。

画像2

だいたいサイコパスが身長186cmもある屈強な男って、もうそれだけでムリっす。ひ弱なサイコパスでもソコソコ怖いのに。

本作の彼は人間ではありません。破壊神、あるいは1作目のターミネーターのような殺人マシーンです。

「なんもかんもブッ壊れりゃあええんじゃ」

というように、彼はのべつくまなく、極めて残虐なやり方で暴行、拷問、殺戮を繰り広げます。

目的も思想もありません。話し合いとか、一切通じません。

しかし、彼がそのように残虐非道になってしまったバックボーンには、幼少期の悲惨な経験があります。

彼は在日コリアンであり、おそらく被爆2世。二重の差別を受け、残飯を恵んでもらうくらい、どん底の貧困。その上、アル中暴漢の父に何度も殺されそうなめに遭わされ、それを見ていた母も助けてはくれませんでした。

そしてまだ少年の頃に、ある凶行に及びました。己の身を守る為、仕方なく…

【チンタへのシンパシー】


そんな上林のもとに、やはり在日コリアンの若者チンタ(村上虹郎が)現れます。

画像3

チンタは、主人公•日岡(松坂桃李)に遣わされた「エス」=スパイです。

日岡は、上林が服役中にムショで「世話になった」看守の妹が殺害された事件の為、広島県警本部に呼ばれて捜査にあたっていましたが、決定的な証拠を掴めないでいました。

そこで日岡は自分の恋人・真緒(西野七瀬)の弟で、普段から何かと面倒を見てるチンタを、こともあろうに悪魔の巣窟みたいな上林組に潜入させるんですよ!ね、酷い奴でしょ?ちょっと人格疑うわ。。。

画像5

(C)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会

それはさて置き、上林はチンタに不信感を抱くと同時に同胞として強いシンパシーを感じています。

劇中の上林はチンタにだけは、愛ある眼差しを向けているように私には感じたのです。 

画像6

なのに嗜虐的に追い詰めることしかできない。

そこがどうしようもなく切なかったです。

特に上林が子供の頃にご飯をもらってた韓国食堂でのシーン。

上林から日岡の家族を調べるよう命じられていたチンタは、「日岡に家族はいない」と報告します。

あらかた日岡を庇って嘘をついているんだろうと、激昂した上林はチンタを蹴り付けながらこういいます。

「何の為に極道になった?残飯恵んでもらうしか、どうしようも出来んからじゃなあのか?」

と、この台詞から、明らかに自分の過去とチンタを重ね合わせていることがわかります。

【孤狼の監督・白石和彌】


私は白石和彌監督の「日本で一番悪い奴ら」(2016)が大好きで、繰り返し観ています。

画像7

(C)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会 

北海道警察の元警部が、ヤクザとの癒着に絡むクスリと銃の罪で逮捕され有罪となった「稲葉事件」というモチーフを、コミカルなタッチで描いたこの映画には、70年代の日本映画や、例えばショーケンや松田優作が活躍していたドラマの鼻息荒い感じが再現されていて、ヒジョーに胸がときめくんです。

「孤狼の血」の1作目にもそういった趣向性は顕著で、オープニングの敢えて粗い画質の「東映三角マーク荒波ザッパ~ン」や、もろに「仁義なき戦い」や「県警対組織暴力」といった深作欣二作品を模したナレーションや諸々の演出は、所謂「東映実録モノ」への回帰意図が明らかです。

1974年生まれの白石監督は私と一歳ちがいなので、あくまで原体験的な部分ですが、同じような感覚を持っていると思うのです。

私自身、10代の頃にリアルタイムで観られたヤクザモノといえば「極道の妻たち」からVシネへの流れをくむ作風であり、後追いで観た「仁義なき戦い」シリーズのリアルで血なまぐさい世界から受けた衝撃は今でも消えていませんし、永遠の憧れでもあります。

なので白石映画における、これら往年作品への剥き出しなオマージュはそれだけで楽しいです。

しかし、このオマージュはルックの部分だけではなく、寧ろ精神性の部分が重要なのです。

今は過激描写や残酷描写が何でもかんでも「不謹慎」で片付けられてしまい、尖った映画が作りづらい時代。

これについては下記リンク、2014年「凶悪」の頃のインタビューにて、昔と今を比べつつ、エンタメにおける社会性の反映がどうあるべきかについて、ご自身の信念をハッキリと語っておられます。


さらに今作についてのこちらのインタビュー記事では、「仁義なき戦い」の脚本家・笠原和夫さんが、

「ヤクザを掘れば掘るほど、在日と被差別部落に行き着く。逆にそこを描かずヤクザは描けない」


と言っていたことについて触れ。

「そうした問題意識を入れるのは、今の作り手としての誠意だと思ったんです。」


と語っています。

白石監督は若松孝二の助監督を長くやっていた経験もあり、そういう意味では丁稚修行から日本のアングラ映画の技術と精神を継承している監督といえます。

ニホンオオカミはどうやらまだ絶滅していないようです。


出典

孤狼の血 LEVEL2 : 作品情報 - 映画.com


孤狼の血 : 作品情報 - 映画.com


映画『孤狼の血 LEVEL2』公式サイト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?