見出し画像

災害時の緊急日本語教育支援

冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

【苦い思い出】

さて、 僕がエジプトのカイロ日本文化センターで働いていた時に、シリアで内戦が始まり、出張したこともある日本語教育機関での苦境を耳にしておきながら、実際には何の支援もできなかったという苦い記憶があります。

ただそれを今思い起こすと、主な原因はインターネット越しの支援に限界があったからなんですよね。 先生方ともろくに連絡が取れず、生きているのかすらわからないという状況でした。仮に先生方と連絡が取れたとしても、先生方に何かがあった時に学習者の側がオンラインでの勉強に慣れていないので、手の打ちようもなかったでしょう。

でも今なら決定的に変わったことがあります。それは学習者の側がオンライン授業に慣れているということです。

今の状況なら、例えば特定の地域で災害レベルに病気などが蔓延してしまって、先生方が日本語の授業を続けられなくなってしまったような場合でも、被災していない地域の教師がオンラインで直接そのクラスの学習者を緊急的に支援することができるのではないでしょうか。

【オンライン予約システムを使おう】

個人でできることとしては、例えば自分が支援できる時間だけを決めて、その時間をオンライン予約システムの Calendly などに入力して SNS などにシェアすることが考えられるでしょう。公開された場所でシェアをすると誰でも申し込みはできるので、例えば若い女性の教員だったりした場合は「その被災地域の日本語教育の支援にしか応じない」ということは明記しておいた方がいいかもしれませんね。また、オンラインでどのような支援ができるかとか、自分の使用できる言語なども書いておくといいと思います。

そして、支援が必要な被災地の教師はそのオンライン予約システムを通じて申し込み、 ズームのリンクなどを支援者に伝えます。もちろんズームのリンクはいつも使っているものでもいいですし、逆にホストの権限などの問題が心配になったら支援者の方が自分のアカウントのズームのリンクを被災地の教師に知らせるというパターンでもいいでしょう。その場合は被災地の教師が自分の学習者にそのズームのリンクを伝えればいいと思います。被災者の教師自身が病気に感染したり被災してしまっている場合は、そのクラスの学級委員のような学習者1名の連絡先を伝えるだけでもクラス全体の支援につなげることができるでしょう。

もし災害の規模が大きくて、大勢の教師が支援を求めている時は、誰かコーディネーターのような人が Google サイトなどを立ち上げて、支援できる先生方の Calendly のページを埋め込むといいと思います。無料サイトも無料のオンライン予約システムもたくさんありますが、 Google サイトなら Calendly の埋め込みに対応しているので、ひとつのサイトで多くの支援者の情報をまとめることができるでしょう。

【活動例】

支援者がオンラインでどのような活動を行うかはその人の強みによって違うと思います。ただ、多くの場合はボランティアで行うことになると思いますから、あまり準備のいるようなものは現実的ではないでしょう。また、多様なレベルの学習者がいることが想像されますから、柔軟に対応する必要があると思います。その意味では日本の国内で地域の外国人を支援しているボランティアの皆さんの経験はかなり活きてくるかもしれません。

被災地の学習者が全て平等にこうしたオンラインの支援を受けられるかどうかは分からないということも考慮しておく必要があります。つまり被災地側の先生が行なっていた授業をそのまま引き継いで進めてしまっていいのかどうかは分かりません。

これらの条件を考慮すると、例えば僕だったら自律学習のようなパターンを採用するのではないかと思います。

まず最初に昨日までどんな勉強したかをクラスの全員で共有します。 一週間に1度だったらこの一週間でどんな日本語を勉強したかというようなことですね。これはもちろん教科書を使って勉強したようなパターンでもいいですし、日本語のアニメを見たとか、日本人とソーシャルメディアでコミュニケーションしたとかそういうことでもいいと思います。

次にこの時間でどんなことをしたいかを共有してもらいます。一人で何かやりたい人もいるでしょうし、グループを作って複数の人が会話の練習をしたい場合もあるでしょう。

会話の練習がしたい場合はトピックを決めなければいけないのですが、以前以下のブログで書いたような形で、何を話したいかのアイデアを出してもらって投票するというようなこともオンラインでは簡単にできます。

むらログ: 集団での迅速な意思決定方法
http://mongolia.seesaa.net/article/479682896.html

そして時間が来たら、そのズームの時間内にどんなことをしたのかを学習者の皆さんから共有してもらいます。もちろんクラス全員で一つのグループを作って会話をしていたような場合はここは必要ないかもしれませんね。 ただ一般的には人間は多様なので、いくつかのグループに分かれたり一人で勉強したりする人が出てくるのが普通だと思います。その場合はお互いに行っていたことを共有すると「こんな勉強方法もあるのか」「こんな教材もあるのか」といったような新しい知識の共有されていくので、学習者の学習スキルもどんどん上がっていきます。

そして最後に、次の授業までに自分でどんな日本語の勉強をしたいかも共有します。これはもちろんその日の最初に話し合ったことと対を成していて、その予定が実際にできたかどうかがその次の授業で共有されるわけですね。

このようなパターンなら、支援する側もそれほど準備が必要なわけでもなく、被災地側の学習者も日本語学習を無理なく継続していくことが可能なのではないかと思います。

今すぐこのような支援が必要な状況であるとは思っていませんが、コロナのような病気の場合は地震や津波のような物理的な破壊を伴う災害ではないので、通信インフラはダメージを受けていない可能性が高いですよね。その場合はこうしたオンラインでの日本語教育支援が十分に可能なのではないかと思います。

そして冒険は続く。

【ブログ更新情報のメールでのお知らせ】
「むらログ」更新情報のメール通知を希望される方は、こちらでご登録ください。
https://groups.google.com/g/muralog/about

【参考資料】
むらログ: シリアの日本語教育 悠久の砂塵の街で働いてみませんか?
http://mongolia.seesaa.net/article/169949472.html

むらログ: 集団での迅速な意思決定方法
http://mongolia.seesaa.net/article/479682896.html

【コメントはソーシャル・メディア上の記事別ページヘどうぞ!】
https://twitter.com/Midogonpapa/status/1387172498530209796
https://www.facebook.com/murakami.yoshifumi/posts/10224842649275542


【『冒険家メソッド』と電子書籍「むらログ」シリーズを購入して海外にルーツを持つ子どもたちを支援しよう!】
2014年以降のこのブログの内容はKindle本にもまとめられています。2021年中にこちらの本をご購入になると、その収益は全額が「海外にルーツを持つ子どもと若者のための日本語教育・学習支援事業」を実施しているNPO法人YSCグローバル・スクールに寄贈されます。ココ出版の『冒険家メソッド』は初版の本体価格の5%が同センターに寄贈されます。
https://amzn.to/2RiNThw

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?