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移民と難民の違い

冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

さて今日は移民と難民の違いについて書いてみたいと思います。これについて話をしなければいけないと思ったのは Twitter で「移民を入れたパリの街」という動画を見たからです。

RTが7300回を超えていて、「いいね」を押している人も1万人を超えています。そしてこれをさらにリツイートした日本カイラギという他のアカウントの人の投稿は5000回のリツイートになっています。ここでは以下のように書いています。

「移民を入れた時は仕事があるが、職を失った時すぐ仕事が見つかるだろうか。無職になっても祖国に帰りたくない彼らは、どうやって生きようとするか。明日がない外国人が日本人に何をするか。岸田総理は、移民を入れた後の事をちゃんと考えているのか。」

https://twitter.com/nipponkairagi/status/1462583452411174916

しかし実はこの動画は現在のパリの様子ではありません。2015年から16年にかけてアフガンやスーダンの被災者が大量にヨーロッパに押し寄せたいわゆる欧州難民危機といわれる時の動画なのです。

しかし、残念ながらこの動画に対する皆さんのコメントを見ると、まず「移民と難民は違う」という認識がないようです。

端的に言ってしまうと、移民は労働者やその家族です。一方で難民は被災者です。被災者なわけですから簡単に追い返すわけにもいかず、フランスでも何ヶ月も路上で生活をすることになっていたわけですね。移民ならビザが切れたら出国しなければなりません。

ホスト国の方からの目線で見てみると、移民はホスト国が主体的に、利益になるから受け入れるわけです。戦略的に意図的に受け入れるわけですね。受け入れるかどうかはホスト国が決めることができるので、必要ないと思ったらもうそれ以上受け入れるのはやめることができます。

一方で難民の方は、ホスト国から見ると負担やコストになってしまう人達です。しかし被災者ですから人道的に受け入れるしかありません。受け入れを拒否することは人道的にかなり問題があることになってしまいます。

日本の皆さんも東日本大震災の時のことを覚えていらっしゃると思いますが、あの時も東北地方の被災者の方が大量に関東地方に避難をされていましたよね。その時に例えば埼玉県知事が「被災者の立ち入り禁止」と決定したり、あるいは埼玉県に避難している被災者を、東北の建物も全て津波に流されて放射能に汚染されている被災地に強制的に送り返すようなことがあったらこれは人道的に許されないでしょう。

震災の被災者が難民と呼ばれないのは、ただ単純に被災地と避難地の間に国境がないというだけの理由によります。もし東北と関東の間に国境があれば、彼らは被災者ではなく難民と呼ばれて、難民として関東地方で生活を立て直すことになったでしょう。

しかし今回岸田内閣が受け入れを拡大しているのはそうした難民ではなく、特定技能2号という熟練労働者です。ですので今回の政策がこの動画に写っているようなことになる可能性はありません。

最初に引用した投稿についてはもう一つ指摘しておかなければならないことがあります。

彼らは難民ではなく熟練労働者なので、日本で仕事がなくなったらホームレスになってこのような暮らしをする必要はありません。日本で仕事はないのなら仕事を求めてもっといい国に移動していくでしょう。また被災者ではないので帰りたければ帰るべき場所もあります。繰り返しますが、難民と移民は全く違うので、難民を受け入れたパリのようになることは今回の熟練労働者の受け入れ拡大では起きません。

このような誤解が生まれる理由の一つには英語の「migrant」という単語の幅の広さがあります。例えば欧州難民危機も日本語では欧州移民危機と呼ばれることは全くありませんが、英語では European Migrant Crisis と呼ばれることも少なくありません。ウィキペディアでもそうです。また人間以外にも使うことができ、例えば渡り鳥も Migrant Birds と呼ばれます。

ですので、冒頭に紹介した動画もマイグラントという言葉が使われることもありますが、それは今回岸田政権が受け入れ拡大をしようとしている移民のことではなく、帰る場所ない被災者である難民を意味しています。

以上、簡単ですが移民と難民の違いについて書いてみました。特定技能2号の受け入れ拡大によって日本がホームレスまみれになってしまうようなイメージを持たれてしまうと、日本語教師という仕事自体も悪の手先のように思われてしまいますよね。そうした誤解を避けるためにも皆さんの周りにそうした誤解を持っている方がいらっしゃいましたら、是非、社会のためにも日本語教師という業界のためにも、正しい情報を共有していただければと思います。

そして冒険は続く。

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【参考資料】
むらログ: 国益のための多様性
http://mongolia.seesaa.net/article/483944091.html

European migrant crisis - Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/European_migrant_crisis

2015年欧州難民危機 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/2015%E5%B9%B4%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E9%9B%A3%E6%B0%91%E5%8D%B1%E6%A9%9F

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