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国益のための多様性

冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

これはちょうど一週間前に毎朝 Twitter で行なっている音声配信スペースで話したことなんですが、これはちゃんと記録にも残るブログにも書いておきたいと思いまして、同じ内容なのですがここに記しておきたいと思います。

端的に言うと、同質的な社会よりも多様性のある社会の方が強いということです。

多様性を高めると言うと、まだ日本では「障害者やマイノリティなどの弱者を優しく受け入れましょう」というような博愛的な慈善活動と受け止めている人がまだまだ少なくないようです。「ポリコレ」というイメージを持っている人も少なくないでしょう。しかし海外の例えばカナダでは、多様性は国力の源泉であり、障害者やマイノリティのためだけのものではなく自分たち自身の社会の利益のための投資であるという意識が非常に強いです。

これは、理念としては僕がカナダに住んでいた時からずっと伝え続けてきましたが、先日読んだ『多様性の科学』という本に、実証的なデータとしてたくさんの研究結果が載っていましたので、ここではいくつかこの本から引用してみたいと思います。

「アメリカの経済学者チャド・スパーバーの調査によれば、司法業務、保健サービス業務、金融業務において、職員の人種的多様性が平均から1標準偏差上がっただけで、 25%以上生産性が高まった」

「コンサルティング会社のマッキンゼーがドイツとイギリスの企業を対象に行った分析では、経営陣の人種および性別の多様性の豊かさが上位4分の1に入っている企業は、下位4分の1の企業に比べて自己資本利益率が 66%も高いという結果が出た。同様のアメリカの企業では実に100%高かった。」

「米コロンビア・ビジネス・スクールのキャサリン・フィリップス教授は、被験者を特定のグループに分け、複数の殺人事件を解決するという課題を与えた。各グループには、証拠やアリバイ、目撃者の証言や容疑者のリストなどさまざまな資料が提示された。グループの半数は4人の友人で構成され、残りの半数は友人3人とまったくの他人――社会的背景も視点も異なる人物――が1人だ。本書をここまで読んだ方はもうおわかりだと思うが、結果は他人を含めたグループのほうが高い成績を上げた。彼らの正解率は 75%。友人ばかりのグループは 54%にとどまった。ちなみに個人で取り組んだ場合の正解率は 44%だった。」

「アメリカ移民が起業家になる確率は、国内で生まれた人と比べて2倍高いという結果も出ている。アメリカ移民は同国の人口の 13%だが、同国の起業家の 27・5%にものぼる。またハーバード・ビジネス・スクールによる調査では、移民が創業した企業は成長が速く、存続期間も長いという結果が出ている。さらに別の調査では、2006~2012年にアメリカで創業されたIT・工学関連企業のおよそ4分の1において、共同創業者の少なくとも1人が移民だという。これはアメリカだけに限った話ではない。グローバル・アントレプレナーシップ・モニターが2012年に公表したデータによると、調査対象となった 69 カ国の大多数で、移民の起業家の数が自国出身の起業家を上回っており、高成長ベンチャー企業において特にその傾向が強いという結果も出ている。」


この本にはこの他にもたくさんの実例や研究が紹介されていますが、移民を受け入れるとどうして経済が成長するのかについてはこのような背景も書かれています。

「移民は新天地で新たな文化を経験し、それに順応していく。その中でビジネスのアイデアや何かしらの技術に出くわしても、彼らはそれを不変のものだとは思わない。変化させたり、修正したり、何かと組み合わせたりすることができると考える。古い慣習や思い込みを、新たな観点から見て疑問を挟むことができる。いわば「第三者のマインドセット」(アウトサイダー・マインドセット)を持っている。」

「移民にはもう1つ、融合のイノベーションとは切っても切り離せない強みがある。2つの文化の中で暮らし、多様な経験をしている彼らは、広い視野でアイデアを組み合わせることができる。彼らは「アイデアのセックス」をもたらす架け橋だ。」


昨年の外務省の資料では現在日本で有効なパスポートを持っている人は2771万人だそうです。 これは日本の人口1億2583万で割るとわずか22%にしか過ぎません。カナダではほぼ100%に近かったのではないかと記憶しています。 このような状況ですから、留学生や技能実習生などが急に日本に増えて戸惑いや不安を感じている人が多いのは、全く不自然なことではありません。

しかし本日ご紹介した本のデータを見ても、日本の多様性が高まることは、むしろ日本という共同体を豊かにしてくれるのです。

日本が留学生や外国人労働者を多く受け入れることは、博愛主義でもポリコレでもなく(もちろんそういう考えの人が多様性を支持するのも大歓迎ですが)、むしろ日本の利益にかなうのです。日本を強くすると言ってもいいでしょう。僕はこういう言い方はあまり好きではありませんが、保守的な人の好む表現を使うとすれば日本の国益のためといってもいいのです。(もちろん国益は他の国の国益と排他的な関係にある必要もありません)

そして、こうした外国人を日本に受け入れるときに必要なのが日本語教育です。この役割を担っているのは言うまでもなく私たち日本語教師です。

Twitter の日本語教師チャットなどでも「日本語教師の地位の向上」とか「認知度の向上」ということがよく話題に上ります。そのためには、日本語教育が博愛主義による慈善活動だと主張していてはかなり初歩的なところで限度があるでしょう。なぜならパスポートも持っていないような人たちにとっては、外国人の利益など全く縁もゆかりもない話だからです。

しかし、本日ご紹介したような実証的なデータを示して、これは外国人のためだけではなく、日本という共同体全体の利益になるのだと主張することができれば、日本語教師という仕事が社会に必要であるということも分かってもらえるのではないかと思います。

そして冒険は続く。

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外務省「令和2年の旅券(パスポート)統計」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_008970.html

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