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岩波ホールについての至極個人的な思い出

ミニシアターの草分けである神保町の岩波ホールが今年(2022年)の7月で閉館する。

僕はあまり映画を観ないので特にミニシアターについて何か言えるようなものは何も持っていないのだけど、岩波ホールに関しては一つ個人的なエピソードがあるので、その供養(?)のために書いておきたい。


独身の頃に住んでいたマンションは、岩波ホールの初代総支配人であった高野悦子さんのものだった。ヴィンテージマンション、と形容するのは少し憚られるレベルの古びたマンションの広い1LDKで、いわゆる分譲賃貸として貸し出されていたものだった。

その部屋は古すぎて、かつ内装も特にリノベーションしていないこともあり借り手がつかなかったようで、付近の相場にしてはだいぶ安い価格で貸し出されていた。

おかげで20代でお金のなかった僕でも分不相応に広い家を借りることができたのに加え、オーナーがあの高野悦子さんだと知ってなんとなく嬉しい気持ちになったのを憶えている。

契約時の重要事項説明の際に高野さんもご同席いただけるという話を不動産屋から聞き、僕は前日に菓子折りを準備していたのだけど、すでにその頃には高野さんは体調を崩されていたのか(どうかはわからないけれど)、直前で同席が難しいという連絡が届き、お会いすることは叶わなかった。

その後何年かして、結婚を機に別の部屋に新居を構えてしばらくしてから、高野さんのご逝去の報を聞いて何とも言えない無念な気分になったものだ。

僕と岩波ホールとの関係はある意味それだけであって、時代の移り変わりや、ミニシアター文化の盛衰を嘆くような権利を自分が持ち合わせているとは思っていない。

熱心な映画ファンというわけではないし、ふだんから足繁く通っていたわけでもない。

ただそういうことがあったということだけ、今日は記しておきたい気分になったので書きました。

SUIT SELECTの脇を抜けて、横目に上映作品の展示を見ながら、岩が波のように配置された壁をすり抜けて地下鉄に向かうとき、時間があれば観るんだけどなあ、なんていつも思っていた。結局あまり行けなかったなあ。


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