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PDF=文書ファイル? いいえ、安心で安全な「情報コンテナ」です

デジタル請求書や領収書のフォーマットとして使われるなど、日常業務でよくやり取りされるPDF。「一度作成したら修正や変更ができない」と思われがちですが、実は大きな誤解です。

今回はそんな知っているようで知らないPDFとAdobe Acrobatについて、米アドビ本社でAdobe Document Cloudのプロダクトマーケティングディレクターを務める、アドビ歴25年の山本晶子(やまもと・あきこ)さんに教えてもらいました。

<プロフィール>
山本晶子:1999年、アドビ株式会社入社。Adobe Premiereを2年間担当した後、Adobe Acrobatの担当者になりプロダクトマネジメントにも携わる。現在は、米アドビ本社デジタルメディア事業部でAdobe Document Cloudのプロダクトマーケティングディレクターを務めている。


そもそもPDF/Acrobatとは何なのか?

——最近、Adobe AcrobatやPDFのテレビCMをよく見かけるようになりました。PDFは電子サインで契約したり、校正や編集を行ったり、いろいろな活用法があるそうですが「PDFってそもそも1度作った文書は変更できないはずでは?」「Adobe AcrobatってPDFのリーダーなのに、電子サインや校正作業ができるの?」とたくさんの疑問が湧いてきます。PDFとAdobe Acrobatについて1から教えてください!

わかりました。PDFもAdobe Acrobatも日常業務でよく使用しているはずなのに、実は知られていないことが多いんです。

PDFは「Portable Document Format」の略です。使っている機種やOSなどの環境に左右されずに持ち運べ、どこでもいつでも同じ状態で文書を閲覧できるフォーマットという意味を込めました。

そしてPDFを読むために生まれた無償のリーダーが、Adobe Acrobatです。


PDFは単なる文書ファイルではなくて「情報コンテナ」

PDFに関する疑問でよくあるのが「PDFの文書は変更できない」という誤解で、いまも大変多くの人が「PDFは固まっている文書ファイル」と認識していらっしゃるようです。

しかし、PDFは画面上に見えているレイアウトがすべてではありません。一見するとただの文書ファイルに見えるかもしれませんが、実はPDFは多層なレイヤーで構成されていて、目に見えるテキストレイヤーや画像レイヤー、そしてレイアウトレイヤーなどが重なっています。

さらにPDFには、メタデータのレイヤーやセキュリティレイヤーといった重要な情報も含まれています。つまり多層な「情報のコンテナ」になっているのです。

これによってPDFを安心で安全に利活用できるのですが、目で見た感じではわかりません。でも「PDFは実はさまざまな情報を包括して、それをフラットかつ小さくして共有している」と覚えておいてください。

——多くの情報が含まれていることで、どのようなメリットがあるのでしょうか。

ありとあらゆるメタデータが入っていることで、視覚障害のある方でもPDFの内容を確認できます。「この文書は縦書きで、ここに表があって、ここはグラフィックで……」という情報が入っているからこそ、音声読み上げソフトでスムーズに内容を読み上げられるのです。

ちなみにPDFでは、文書のアクセシビリティをより向上できるよう、昨年アクセシビリティチェック機能を搭載しました。

もう1つ別の例を挙げてみましょう。たとえばPDFの中に含まれている情報を一部抜き出して活用したい場合がありますよね。「発表資料にあるPDFのこのデータと、あっちのデータを抜き出して再編集したい」といったとき、いちいちコピー&ペーストを繰り返していたら大変です。

Adobe Acrobatを使えば、表などをExcelに変換して再活用できますが、こういうことが可能なのは構造化されたデータがPDFに含まれているからです。

——えっ、PDF文書ってそんな使い方もできるんですか!?

そうなんです。複数人で文書を共有して書き込んだり修正したりすることもできますし、データや情報をいろいろな形で活用することもできますよ。

もし修正や再利用を防ぎたい、全公開したくないなど、文書セキュリティを高めたい場合は、パスワード保護や証明書による文書保護、機密情報の墨消しなどセキュリティ設定をかけられます。これもPDFがセキュリティレイヤーを含んでいるからできることです。

それ以外にも、動画ファイルや音声、画像などあらゆるフォーマットの素材をPDFの中に入れて持ち運ぶことが可能です。もし元の動画や音声ファイルとして利用したければ、元のファイル形式に戻してください。建築業界では、設計図やCADファイルや写真、文書、施行中の動画などさまざまな情報をPDFにファイリングしているそうです。

まさにPDFは、あらゆる情報のコンテナなんです。

PDFを見るだけでなく多彩な機能を活用できるAdobe Acrobat

——いままでPDFファイルは「閲覧するもの」と思っていたのですが、とても仕事に役立つんですね!

PDFはAdobe Acrobatがあると、より踏み込んだ活用ができますよ。先ほどお話ししたように「PDFの再活用もしてもらいたいけど、セキュリティもしっかり対策したい」というのであればAdobe Acrobatが必要です。

——実はAdobe Acrobatもよくわからないんです。無償版と有償版があって、さらに「Adobe Document Cloud」というのもあって、何がどう違うのか……。

まず無償版は「Adobe Acrobat Reader」と呼ばれる閲覧用ソフトですね。PDFファイルを見るだけであれば料金は一切必要なく利用できますし、最近はちょっとしたコメントもできるようになっています。

対して、先ほどから話に出ているAdobe Acrobatは、閲覧に加えてさまざまなPDF活用を可能にするアプリです。PDF文書を作れることを始め、セキュリティを設定したり、ほかの人に参加してもらって文書をレビューしたり、簡単な電子サインを入れたりできます。

——Adobe Document Cloudとは何でしょうか?

実はAdobe Document Cloudには2つの意味があります。

1つは、アドビが提供するクラウドストレージサービス名としてのAdobe Document Cloudです。Adobe AcrobatでつくったPDF文書を複数人で共有する場合、自動的にAdobe Document CloudにPDFがアップロードされて共有できます。ただ、ユーザーはSharePointやOneDrive、Googleドライブなどさまざまなストレージを使っているので、今後はほかのストレージにも対応するかもしれません。

もう1つは「ソリューション群」としてのAdobe Document Cloudです。このソリューション群は企業向けで、Adobe Acrobat、高度な電子サイン機能の「Adobe Acrobat Sign」、スキャンアプリの「Adobe Scan」、それにAdobe AcrobatのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)が含まれており、ドキュメントを軸にしたDXを実現するサポートをします。

——Adobe Acrobatは仕事でどう役立つのでしょうか?

おそらく多くの人がまだご存じないAdobe Acrobatのメリットが「マルチデバイス対応」だと思います。

サブスク版のAdobe Acrobat Proでは、PCだけでなくスマホやタブレットにも対応しているので、オフィスのPCで作成したPDFに自宅からタブレットを使用してレビューやコメント、校正を入れたり、PDF文書を再編集・結合して共有したりと、自宅でもオフィスでも作業を継続して利用できるんです。デスクトップアプリよりもモバイルアプリに慣れている若い人にも馴染みやすいという特徴があります。


他社のビジネスツールともコラボレーション、プラットフォームとして成長するPDF/Adobe Acrobat

——知れば知るほどPDFとAdobe Acrobatは便利なものなんですね。海外と日本で活用の違いなどはあるのでしょうか?

米国との比較でいうと、日本企業はクラウドに対してやはり消極的な傾向があります。米国は国土が広いので、もともと電話会議などバーチャルで働くことに慣れているのですが、日本は紙で印刷したり、対面を重んじたりするところが残っていると思います。逆にいえば、日本では紙でもしっかり業務が回り、ルールも徹底して守るという良い面もあるのですが。

ただ社会は大きく変化しています。その1つが脱炭素社会の実現で、CO2排出量を減らすために紙への依存をなくそうという動きです。PDFはその活動に大きく貢献できるでしょう。

いま、多くの企業であらゆる業務のデジタル化が加速しています。例えば銀行も支店やATMを統廃合してデジタル化へ舵を切っていますよね。ある調査では「文書処理の失敗や煩雑さゆえに顧客の20%を失うリスクがある」という結果が出ていますが、実際に銀行口座を開こうとして書類の準備や作成に嫌気が差し「もういいや」とドロップアップするケースも珍しくありません。

あるイギリスの銀行では、全社を挙げて1年で業務の電子化に踏み切り、現在はドキュメントソリューションのAdobe Document Cloudを活用した結果、店舗へ来店しなくてもオンラインで確実に口座開設ができるようになりました。その背景には「デジタル化が進まないとZ世代の若い顧客を獲得できない」という危機感があったのですが、その結果、ドロップアウトする率が激減したそうです。

またペーパーレスを進めて環境先進企業になることで、市場価値が上がるということもあります。

——今後のAdobe Acrobat、PDFの展望を教えてください。

PDFはISOに準拠し仕様をオープンにしているので、さまざまなPDF作成ツールがあります。ですがPDFは高度な情報コンテナであり、仕様に完全に基づいたPDF文書を作成するのはとても難しいんです。

対してアドビのAdobe Acrobatは、膨大なエンジニアが開発に従事しており完全なPDF文書を作成できる唯一のツール。ぜひAdobe Acrobatを活用いただきたいですね。

またAdobe Acrobat/PDFについては、単なる文書ファイルではなくコラボレーションツールとして使っていただければ嬉しいです。ビジネスドキュメントはつくるだけで終わりではなく、必ずプロセスが発生します。

草稿の起案や、確認、公開、過去の文書データの活用、編集など、さまざまなプロセスがある上、関わる人も多いですよね。

Adobe Acrobatでドキュメントを起案して「何月何日何時までに確認してください」と連絡してその設定をしておくだけで、未確認の人にはアラートを出すこともできますし、特定の人に対して提案するなどコラボレーションのプラットフォームになります。もちろんそうした作業はモバイルでも可能なので、柔軟で働きやすい環境になるでしょう。

さらにいえば、アドビとマイクロソフトは強固なパートナーシップ関係にあり、オフィス業務で欠かせないMicrosoft TeamsやMicrosoft 365とアドビ製品との連携も進んでいます。今後もマイクロソフト製品との高度な連携を発表していきますし、その他のサービスについてもユーザーの利用動向に合わせて対応していきたいと考えています。ぜひAdobe Acrobatを日常業務で活用してください。

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