【#NIKKEI】ファスト映画をどう視るべきか、単なる違法行為か、グレーゾーンのイノベーションか。

 引用した記事の内容は、YouTube上で「ファスト映画」を公開したとして、初の逮捕者が出たというもの。詳しくは後述するが、ファスト映画とは、映画本編を静止画として切り取り、これにナレーションをつけ、10分前後に編集されたものを指す。簡単に、映画のハイライトシーンを集めた紙芝居、とイメージいただければと思う。
 当然のことだが、著作権関係の権利侵害に該当するとして問題となる。映像を入手することも、勝手に編集することも、これを公開することも、権利侵害である。


ファスト映画とは

 同じ内容になるが、ファスト映画とは、映画本編を静止画として切り取り、これにナレーションをつけ、10分前後に編集されたものを指す。簡単に、映画のハイライトシーンを集めた紙芝居、とイメージいただければと思う。また、興味深いのは、一つのジャンルとして確立され、組織的にファスト映画を制作する者まで登場し、産業としての性格を持ち合わせている点だ。権利侵害を前提するものの、これをイノベーションと呼ぶのではないだろうか。アイデアがあって、ある程度軌道に乗ってマニュアル化すれば、クラウドソーシングが簡単に可能である。
 世論として、大きく3パターンの意見があるように思う。一つ目は、結末だけを効率良く認識するのは本来の映画の楽しみ方とは違う、というもの。二つ目は、広告効果あるというもの。実際、このファスト映画をキッカケととして動画配信サービスへの加入を決めた人もいるようだ。三つ目は、価値があるものとして認め、ファスト映画を公式に共存していく方向で考えていくというもの。
 こうまとめると、一概に断罪するのではなく、映画の別形態としてライト層向けの作品として、確立方法も選択肢の一つとなるのではないか。確かに、本来の楽しみ方とは違うのかもしれないが、新しい楽しみ方として認められても良いと思う。

イノベーションの実装プロセス

 軽くイノベーションの実装プロセスについて説明させていただく。ただし、イノベーションの基本形であり、スケールするにはドミナントデザインなどの様々な要素があることにご留意いただきたい。
 今回は、ゲーム実況、を例に解説させていただく。ゲーム実況とは、ゲームをプレイする映像と実況の音声で構成される映像を、動画として投稿またはライブ配信することである。
 第一段階として、技術、を挙げる。まず、新しい何かができるような技術の誕生を発端とする。今回の例で言えば、配信サイトやゲーム画面の記録技術である。
 第二段階として、産業、を挙げる。前項の「技術」を用い、配信サイトに動画を投稿する、ゲーム実況者が登場する。登場期はゲームが好きな人の趣味の範囲で行われていた。後に広告収入が様々なサイトで実装され、産業としての性格を持ち合わせるようになった。ただ、当然のことながら、著作権に抵触する可能性があり、いわゆる正当なビジネスとは程遠いものである。しかし、あるゲームで広告効果が認められたことを受け、様々なゲーム関係会社でガイドラインが制定されるようになった。このような、新技術を発端として誕生したゲーム実況は、当初はグレーゾーンであったが、昨今はルール化され、産業として成立するようになったのである。
 最終段階として、市場および文化、をあげる。市場とは、実況者側が既存
技術を用いて勝手に配信し収益化するのではなく、企業側(ゲーム会社)が積極的に実況者に働きかけて行うビジネス、と考えている。新しいゲームの先行プレイを企業案件として提供し、集客を募るのも一例だろう。さらに、PS4においては、基本機能として配信機能を備えており、文化と言って良いレベルでゲーム実況が浸透してきていると言えるだろう。
 このように、ゲーム実況は著作権侵害に関し、グレーゾーンとされながらも、その価値を認められ、ルール化されたことによって一産業として成立するようになった。

参考)ソニーグループ G&NSセグメントにおける経営成績

 参考までにソニーにおけるゲーム関係のセグメントにおける経営成績を引用した。基本的にはPS4の本体の販売、オンラインプレイなどのサブスクリプション(プレステーション プラス)、で構成される。ザックリとFY14ーFY17はPS4およびPS4Proの普及に関するものと理解できよう。では、FY18以降の利益率の伸び、はなんであろうか。IR資料には、「プレステーション プラス(有料のオンラインサービス、オンラインプレイが可能になる他、一部のソフトがプレイ可能になる)」の加入者が増えた、としか記載がない。
 私はこの要因に、ゲーム実況が関係しているように思う。当初はニコニコ動画が中心であったように思う。2013年頃より、ニコニコ動画でのゲーム実況を残す場としてYouTubeが利用されるようになり、ジャンルとしての人気は一般に広まるようになったように思う。昨今、PS4でゲーム内機能を利用した配信している実況者は多い印象である。YouTubeで探す場合、特に最新ではないが人気ゲームのタイトルで検索していただきフィルタをライブに設定していただきたい。PS4で配信している初心者実況者が誰かいるはずだ。

考究

 前提として、映画などのコンテンツは、経験財、である。経験財とは、消費することで品質などを評価できる商品のことである。例えば、食品がこれにあたる。基本的に味は食べて見なければ分からない。この観点から考えると、ファスト映画は結末まで分かるという点で、人によっては消費と同等物にあたり、買わなくなる、という問題がある。
 次に、マーケティング視点に基づく問題点である。大きく3点あるように思う。第一に、映画は基本的に直接課金型の課金形態、をとっている点だ。広告のための作品なのか、価値提供の対価を持てる作品なのか、という点だ。この辺りのことは正直詳しくないのだが、産業の性格として、作品に誇りを持ち、芸術性などの評価の対価としてお金をいただく形態をとっているのではないか。第二に、ブランド・エクイエティ(顧客によるブランドイメージ)の毀損、である。ファスト映画制作者は広告収入を目的としているため、サムネイルの画像・キャッチコピー、ナレーションなどは制作者の裁量に委ねられ、元々の映画制作者の制作意図は無視される。第三に、結末まで解説するのは、消費に相当する可能性がある、という点だ。場合によっては消費に該当する。
 他の事例として、書籍の解説・要約動画がある。これは、書籍に書いてある内容とほぼ同じ内容をアニメーションなどを用いて解説・要約する動画である。これは、ほぼ同じ表現を用いて要点を切り取って制作されるため、ファスト映画同様に買わなくて済むようになる。当然、人によっては、解説動画を見て書籍を購入する人もいるだろうが、そんなに多くはないだろう。
 冒頭に紹介した通り、産業として成立するような需要はあるように思うが、無許可で大作映画の映像を使って制作するというスタイルは基本的にはグレー(実質、黙認)、権利元によってはアウト、というのが実情だろう。これから先、単に消滅するのか、別のカタチで残っていくのか興味深い。


#日経COMEMO  #NIKKEI

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