ビジネス・エコシステムの全貌

 ビジネス・エコシステムという言葉が注目を集めている。デジタル市場の誕生と同時に様々な企業が結びつきながら経済圏を形成し、急成長を遂げた米国企業に着目したのが始まりである。日本では技術やノウハウを独占的に管理することが一般的であるから馴染みがないのかもしれない。しかし、国境は時代の流れとともに確実に薄くなり、こうした協業をしながらデジタルの急速な変化に対応する必要がでてきている。
 ビジネス・エコシステムは企業関連系のあり方に対する考え方、ビジネス・モデルの考え方に分類されるものであると考えられる。
 エコシステムは自立した、相互に関連する組織の協調を促進する。

エコシステム概念における構成要素

 エコシステム概念の構成要素について、モデュール構造によって説明される。

モデュール化とは、大きな全体システムを明示的に定義されたインターフェースによって、相互依存性が明確に定義された下位に分解して、下位システムを独立的に設計することを可能にする手法。

 つまり、一つの製品やサービスを作る際に、取り外し可能な部品の集合体として制作するものである。また、モジュール間を結びつける接合部分をインターフェイスと呼ぶ。このインターフェイスの規格の汎用性がどの程度かによって、モジュールの市場規模が決定する。
 例えば、USBは申請こそ必要であるが無料であり、様々な事業者が採用している。その結果、USBに関する製品の市場規模は巨大であるといえよう。一方で、米Apple社の提供するライトニングケーブルは米Apple社の認証を取り、またライセンス料を支払わなければならない。結果、必然的に取扱事業者は絞られる。
 モジュール(部品)とインターフェース(接合部分)に焦点を当てることで、産業構造および製品/サービスの構造を理解することができる。

参考)
 国領二郎『オープン・ネットワーク経営―企業戦略の新潮流 (Strategy & Management)』
 国領二郎『オープン・アーキテクチャ戦略―ネットワーク時代の協働モデル』
 立本博文『プラットフォーム企業のグローバル戦略 -- オープン標準の戦略的活用とビジネス・エコシステム』


エコシステム概念における連携構造

 エコシステム概念における連携構造について、補完財の同時消費について説明される。ここでは、消費者の消費行動に少し目を向けたい。消費者は何かを消費する時、単一の商品のみを消費しているだろうか。それは違う。消費者は自らが組み合わせを見つけて複数の商品を同時に消費し、価値を高めているのではないか。

補完財とは同時に消費することで双方の価値が高まる財のこと。

 例えば、昔CMで話題となった「つけパンVSひたパン」というキャンペーンがある。スープとパンを同時に消費することで価値を高めるというものである。

 「つけパン」「ひたパン」とは、スープのトップブランド「クノール」が提案する朝食のスタイル。
 「つけパン」…短冊上に切ったトーストをスープにつけながら食べること
 「ひたパン」…サイコロ上に切ったトーストをスープにひたし、スプーンですくいながら食べること。 
 Source: 味の素

 
 最近でいえば、ドコモ・バイクシェアのUber eats配達員向け専用プラン(現在は終了)がこれに当たる。基本的な業務フローは以下の通り。

1.飲食店から飲食物をピックアップ
2.自転車などの乗り物を用いて移動
3.注文者に配達
4.終了。継続する場合は、1に戻る。

 配達業務である以上、移動が必要となり最も気軽に安く調達できる乗り物として自転車は有効な候補となる。そのため、レンタサイクルを特別プランで提供することは有効な戦略と言える。
 状況を整理すると、配達員は「Uber eatsのシステム」と「ドコモ・バイクシェア」を同時消費しているのである。

 最後にエコシステムにおける参加者同士の関係性について、商品やサービスを中心として緩く結びついた関係である。

参考)
 DIAMONDO社『エコシステム経済の経営戦略 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文』


エコシステム概念に対するアプローチ

 エコシステム概念に対するアプローチについて、リーダー企業の有無により大きく2つに分類される。

所属アプローチ
 エコシステムを形成する参加者が、主導的な役割を果たす企業と、これに許諾を得た比較的小規模な補完財提供業者であるとする、コア企業を必要とするプローチ

構造アプローチ
 エコシステムを形成する参加者同士が、連携の方法や方向性について互いに合意している関係性であり、コア企業を不要とするアプローチ


所属アプローチ
 所属アプローチでは、主導的な役割を果たす企業が補完財を組み合わせて製品として顧客へ提供するエコシステムが基本となる。これは顧客が選択するというよりは、メーカーが提供する商品の内部的な構造として様々なモジュールが組み合わせているという見方が良いだろう。つまり、この場合、メーカーは作りたい商品に必要なモジュールの提供業社(補完財提供業社)を探しだし、自社の技術や商品と組み合わせていく、オーケストレーションが重要となる。

構造アプローチ

 構造アプローチでは、主導的な役割を果たす企業が存在しない。あるエコシステムにおいて、その方針などに共感した企業が自由に参加し離脱する。そのため、エコシステムの発展はエコシステム参加者へ依存しているため、エコシステムの発展や衰退を予測しながら自社の戦略を決定しなければならない。


エコシステム概念における特殊事情

 エコシステムには、やや特殊な市場原理が存在している。ただ、特殊と言ってもエコシステム概念は旧来より存在しており、新しいものではない。当てはまる市場が少なく、特別に留意し、注意深く観察する必要がある。
 それは、ネットワーク外部性、である。基本的には、顧客が増えれば増えるほど、価値が増大するという法則だ。また、ネットワーク外部性は直接効果と間接効果に分けられる。厳密には、行列に並んでる人が多いほど買いたくなる心理なども含まれるが、これについては記述しない。

直接効果…上記に記した通り、顧客数の増大に比例して、価値の高まる効果
間接効果…顧客数の増大に比例して、補完財の提供数が増大し、価値が高まる効果

 直接効果については、コミュニケーション関係のサービス、によって、観察することができる。コミュニケーション関係のサービス、はFacebook、Twitter、LINE、などが当てはまる。これらは顧客同士は同一のサービスを利用してコミュニケーションを行うことで価値を発揮する。実際、上記サービスは同一サービスの利用者が少なければ意味をなさない。誰も使っていないLINEを使う意味があるだろか。LINEをインストールしたキッカケに誰かが使っているから、というのがなかっただろうか。つまりは、そういうことである。
 間接効果については、スマートフォンケースの流通量によって観察することができる。よくスマートフォンケースのシェアというとOSで比較されることが多いが、端末別に見るとiPhoneシリーズの流通量は世界的に1位であることは容易に想像できる。その結果、個々のAndroid端末に対して専用のケースを作るよりも、世界中に利用者に使われているiPhoneのケースを作った方がビジネス的には良い、ということになる。専用品であるから潜在顧客の数は重大な問題である。

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