サブスクリプションの成功

 ここ数年で急激に認知度を上げた価格設定がサブスクリプションである。私たちが普段目にするものの多くは成功体験によって占領される傾向があり、失敗例が展開されることは少ない。
 そこで、本記事では、サブスクリプションの成功事例・失敗事例の双方を取り上げることにより、その成功要因について考察する。


サブスクリプションとは

 事前に定額を支払うことで、一定期間内のサービスが使い放題になる価格設定、である。伝統的には定額制のサービスが当てはまる。例えば、Apple Musicは月額980円を支払うことで、世界中のサービス対象楽曲が聴き放題になるサービスである。


生産コストの性質について

 基本的に財(商品)は2つに分類することができる。一つが情報財、もう一つが非情報財(とりわけ物財)である。
 

情報財

最初の1単位を生産するコストは膨大である可能性があるが、
追加の1単位を生産するコストは概ね無料である。

 映像や音楽などのデジタル財や知識(教育サービスや出版)の生産には確かに膨大なコストがかかるが、再生産はほぼ無料である。前者は、PCで様々なファイルが数秒で複製できることをイメージいただきたい。後者は、知識を獲得するための学習に膨大な時間的コスト・金銭的コストを支払うが、それをアウトプットする際にかかるコストは無料であることをイメージいただきたい。一度考えた雑談のネタはコストをかけずに様々な場面で流用可能であるのも、この法則によるものである。
 全てのデジタル財、パソコンやスマートフォン上で利用できる財には当てはまると考えて良い。

非情報財
 これは情報財以外の財、とりわけ物財が当てはまる。食品や衣類から家電まで、様々である。これは、一般的なイメージの中にあるコスト構造をもっており、最初の1単位に支払う開発コストは膨大で、かつ追加の1単位を生産コストも変わらず発生する。


導出される結論

使い放題型の価格設定になるのだから、再生産量(提供量)に対してコストの発生しない情報財は成功しやすく、コストの発生する非情報財は失敗しやすい。

 コスト構造を財の属性に合わせて2つのタイプに区分することで、上記の結論を導出した。
 ただし、情報財、音楽配信サービスや映像配信サービス、のサブスクリプションについては、成功していることが周知の事実であろうから、本記事では非情報財について例を挙げ考察していく。


事例紹介:AOKI(撤退)とレナウン(概ね成功)のスーツ

 AOKIとレナウンによって提供されたスーツのサブスクリプションサービスについて比較することにより、非情報財の活路を考察する。

AOKI(suitsbox)
 ・サイズ情報・スタイリング希望
 ・コース選択(7,800 / 15,800 / 24,800円、いずれも税抜)
 ・交換サイクル:1ヶ月で1着。商品はユーザー間で使い回し。

レナウン
 ・スタイリングに関する相談が可能
 ・コース選択(4,800円から6,800円 / 5,800円から9,800円)
 ・交換サイクル:6ヶ月で2または3着。春夏と秋冬で交換し、1年間の合計は4着または6着。使用済みのスーツは季節ごとの返却時に一時保管され、個人での使い回し。また、2年おきに新品に交換。

 やはり注目したいのは再生産コストで、両者のコスト構造は正反対である。
 AOKIのサービスは、会員間での使い回し(シェアリング)のサービスである。そのため、商品のストック数はやや少なめと考えられる。再生産コストは、再生産コストと物流コストである。再生産コストは概ねクリーニング代と推測されるが、1ヶ月という短い交換期間を許容している当該サービスにおいては、様々な種類のスーツをストックしなければならず、会員間の使い回しによるコスト低減を殺している可能性がある。また、物流コストも膨大である。個人宅に最大1ヶ月に1回の配送を行うというのは、やや高いと言えるだろう。
 レナウンのサービスは、会員個人に対して新品を提供し、使い回すというものである。そのため、新品のスーツは会員数の2倍から3倍、必要であり、初期コストはやや高いと言える。しかし、再生産コストが圧倒的に安い。再生産サイクルを半年と長くし、かつスーツ自体は固定されるから、クリーニング代と物流コストが半年に1回、保管コスト、である。
 もしかすると、ランニングコストと呼ぶべきかもしれないが、再生産コストの構造が、同じスーツのサブスクリプションでありながら、全く異なっていることが注目すべきポイントだ。


その他、注目事例

 この他にも一つ注目事例がある。居酒屋の飲み放題(または割引)のサブスクリプションである。当然、飲み物は従量課金であり、再生産コストは発生するのだが、他の利益率の高い料理をも注文を期待することで、最終的に利益に繋げるという戦略である。
 これ自体は珍しい戦略ではなく、目玉商品の利益率を上げて高い品質の商品で顧客を呼び込み、利益率の高い周辺商品で利益を上げるというものである。


結論

 非情報財は使えば使うほどコストが発生するが、そのサイクルを強制的に下げることで、サブスクリプションとして成立させるものであった。本来であれば、スタイリングに関するコストなども検討比較すべきだが、長期に見ればAIが担う領域であり、システムのコストは大きく異なることもないだろう、と考え、相違点のみ暑かった。
 また、その他の事例として飲食店のサブスクリプションを扱った。いわゆるバンドル販売なども同じようなものだろう。
 このように、非情報財は工夫が必要であるものの、サブスクリプション化は可能である。どのような工夫が必要であるかは、扱う商材によって異なるためなんとも言えないが、再生産コスト、に注目することは戦略立案の焦点となろう。


情報財の理解は下記文献が参考となる。


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