製薬企業で学んだこと3「破傷風の基礎」
(写真は本文とは関係ありません。)
こんにちは、くらです。
製薬企業で最初の3年MRを経験。薬の売り方の基礎を学んだ。
知識だけではものは売れないということを嫌というほど思い知った。
4年目から本社の学術部(今のマーケティング部に近い)というところに移った。
それまでは地方でMRをしていた。
3年目の終わりに、本社で人を募集しているが、お前いくか?と打診があった。
迷った。
なぜかというと、MRとしての実績が自分の中で最高潮だったからだ。
入って1年目、2年目と絶不調で、実績はいつもほぼドベ。
毎日辞めることばかり考えていた。
でも、3年目に入り、実績がどんどん上がり、転勤の話が来た時は、ブロックでトップの実績だったのだ。
毎日辞めることばかり考えていた人間が、こんな面白い仕事はない、と、気づいたら180度変わっていた。
そんなわけで、もう少しMRを続けていたい、と正直に思っていた。
でも、本社のある東京は、生まれ故郷でもあるし、これを逃したら一生帰れないかもしれない、と先輩から脅された。
というわけで、本社の学術部に新たに一員として赴任したのである。
赴任早々担当したのが、破傷風の予防・治療に使用する新発売の予定の薬であった。
破傷風とはどんな病気か、そこで初めて勉強して知った。
破傷風という名前を聞くと、まず頭に浮かぶのは、三種混合ワクチンではないだろうか。
三種、というのは、ジフテリア、百日咳、そして破傷風の三つである。
破傷風という病気は、破傷風菌という細菌の作る神経毒によって罹る。
この神経毒は、筋肉を過剰に収縮させる。
とても恐ろしい病気で、筋肉が強く収縮し、背中の筋肉が収縮するので弓ぞり状態(弓ぞり反張)になったり、肺の呼吸筋が収縮・麻痺して、呼吸困難になったりするので、最悪の場合命を落とす。
破傷風菌は日本全国の土の中にいるといわれている。
全国に存在するなら、もっと破傷風に感染する患者がいてもいいと思うが、年間の患者数約100人、死亡者数10人前後といわれている。(国立感染症研究所データより)
もっと多くてもいいかもしれないが、少ない理由は、三種混合ワクチンが普及し、破傷風の免疫が若いときから作られていること。
そして、この菌の偏性嫌気性という特徴も理由である。
これはなにかというと、酸素のある状態では破傷風菌は活動せず、毒素も産生できないのである。
普段は土の中でじっとしている。
そして、人がけがをしたりして、その傷に土がついていると、感染の可能性が出てくる。
とくに、人の筋肉の奥深くまで到達した、細いトゲのようなものについた土は要注意である。
人の筋肉の中は酸素がありそうで、実はどうではない。
筋肉の奥の方は空気が通らず、無酸素の状態になっているので、細いトゲで奥まで通った土に、もし破傷風菌がついていたら、無酸素状態の中で活発に動き、毒素を産生する可能性が出てくるのだ。
土のついた傷には気をつけなければいけない。
以前、きんさんぎんさんという双子のおばあちゃんが有名になったが、そのどちらかの旦那さんは破傷風で命を落としたと聞く。
また人間のみならず、動物も破傷風に感染する。
トキノミノルという有名な競走馬は、破傷風で命を落としている。
私は破傷風の勉強をしているとき、実際に罹患した少女の話を映画で見た。
「震える舌」という映画だ。
確か幼稚園ぐらいの女の子だったが、河原で遊んでいて指先にけがをし、そこに土がついていた。
そのご発症し、入院。
日がたつほど病状は悪化していく。
昔は今のICUのような設備がないので、まず病室に黒い幕をかける。
光によって、発作が起こるからである。
発作とは、先ほど述べた、弓ぞり反張、呼吸筋麻痺、などを、繰り返し、最後には呼吸が止まってしまう。
しかし、Dr.たちの懸命な処置により、命が救われるのである。
これは、実際にあった話をもとにして作られている。
この映画を、全国の営業所で営業担当者にみてもらった。
破傷風の恐ろしさが実感できるからである。
今は、三種混合ワクチンの普及で、破傷風で命を落とす人は激減した。
こんな経験をしているので、私は自分の子供にはワクチンを必ず打たせた。
病気に罹患し、あんな思いを、子どもにも、させてはいけない、と思ったからである。
この話は、MRの新人研修で必ずしていた。
命を守る手段を、心から理解してもらうためである。
今回もお読みいただきありがとうございました。
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