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レモンサワーについて考える

どうやらレモンサワーが人気らしい。

バラエティ豊かな缶チューハイの中で、とりわけレモンサワーだけがやたらと種類が多いなと感じてはいたが、今や居酒屋なんかでも「レモンサワー専門店」なるものができ始めているようなのだ。


これは少なからず、今の日本の過剰な健康ブームの追い風もあるのだろう。

なぜならレモンはビタミンCの代名詞であり、風邪を引いたらビタミンCを摂るのは、昭和のオッサンたちでなくてもみな知っている。

あるいは肉体疲労に効果があるのはクエン酸であり、クエン酸といったらレモンだからだ。


つまりレモンは体にいいのである。


体にいいレモンを、体によくないアルコールと混ぜ合わせた飲み物。それがレモンサワーなのである。

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これは、体によくないアルコールも、体にいいレモンを加えてやれば、少しは健康的な飲み物になるだろうという発想がゼロであるというわけでもあるまい。


レモンサワーとは別の見方をすれば、健康志向の(飲んべえの)ための酒なのである。




しかしもちろん、レモンサワーはうまい。
レモンサワーのうまさとは、あの酸っぱさであろう。

私は、基本的に「酸味」が好きである。酸っぱい食べ物も好きだし、当然レモンサワーも大好きだ。

だからレモンサワーがこんなに流行り出す前からよく呑んでいたし、これからも呑み続けるだろう。


最初の一杯目のビール(生中)をいかずに、いきなりレモンサワーなんてこともよくある。しかしそういう頼み方をすると、呑んべえ仲間のおっさんたちに、いささか怪訝な顔をされる。

そう。

いきなりレモンサワーかよ?
という顔である。

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最初の一杯目が日本酒だったなら、そんな顔をされることはないのだ。おっ!鼻から行くねぇと、ほほ笑ましい顔をされたりするのである。


では、一杯目からレモンサワーを頼むと怪訝な顔をされる、その意味とは何なのか?

それは、「お前は守りに入っているな」である。

これから俺たちがジャンジャン酒を呑んで酔っ払おうとしている時に、お前はいきなりレモンサワーなんか呑んで、酔っ払う気があるのかっ!という意味なのである。


つまり、「レモンサワーでは(まともに)酔えるはずがない」というのがおっさんたちの(無言の)言い分なのだ。


レモンサワーは、不健康なアルコールに健康的なレモンを混ぜ合わせた中途半端な酒であり、そんな酒で酔えるかよ!と、おっさんたちは言いたいのであろう。


確かに、それまでさんざん日本酒を呑んでいたおっさんが、「やべぇ、明日は朝が早いのを忘れとった。そろそろ日本酒はやめて、レモンサワーにでもしとくか」と言って注文したりするのが、レモンサワーという飲み物なのである。(普通に烏龍茶を頼めばいいのにと、私などは思ってしまうのだが)


あるいは、居酒屋なんかでレモンサワーを呑む時には、とにかく大量に呑むというのが呑んべえのおっさんたちの流儀でもある。

甲類の(味も匂いもないような)安い焼酎ボトルと、水割りセット(レモン炭酸と大量の氷)を注文し、それを自分たちの適当な濃さで割りながらひたすら呑み続ける。

レモンサワーでは基本酔えないが、大量に呑めば酔える。これがおっさんたちのレモンサワーの飲み方なのだ。



しかし、今起きているレモンサワーブームは、そういう酔っ払いのおやじたちの考え方とは全く無縁のものである。

酔っ払いおやじの巣窟であったサウナが、今や健康意識の高い若者たちの場所に変わりつつあるように。


「今日は、ちょとお洒落な(瀬戸内)レモンサワーを1~2杯呑みたい気分なんだけど、一緒にどう?」

「いいねぇ。」

「じゃあ軽くいきますか?」

今のレモンサワーブームからは、そんな若者たちのライトな会話が聞こえてきそうな気がする。

それは酔うための酒ではなく、食事や会話を楽しむためのお酒なのである。


ちなみに私は、どちらも嫌いではないのだが。





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