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アスペルガー男性の夫婦関係

Twitterでオファーを頂いたので、今回はこのテーマで書きます。

最初にお断りしておきますが、僕は、精神科医でも心理士でもない、アスペルガー症候群当事者の一リハビリテーション従事者(作業療法士)です。

noteの中身は、医療従事者としての視点と、当事者としての視点が混在しています。

いくつかの文献も参照していますが、科学的根拠をお約束するものではありませんので、内容については各自自己責任にてご判断下さい。


前置きが長くなりましたが、僕は、以前からアスペルガー症候群当事者として、巷に溢れる、当事者と配偶者の不和のエピソードに心を痛めていました。

ネットにはカサンドラ症候群(=発達障害者の配偶者で関係性に苦しんでいる方々の通称であり正式な病名ではない)の方々の声は沢山溢れているにも関わらず、アスペルガー症候群の方の声はあまり見当たらないのが現状です。

そこで、今回はアスペルガー症候群の夫として、少しでも多くの夫婦関係の不和解消に寄与すべくペン(?)を執りました。


なお、アスペルガーは男女比で言うと、3:1〜4:1の割合で男性に多いとされるため、アスペルガー(夫):配偶者(妻)という視点で書いていこうと思います。


流れは以下の通りとなります。


①アスペルガーとカサンドラの不和の原因は?

アスペルガー症候群の人はいわゆる定型発達の人と根本的に異なる考え方をしています。

また、世界の捉え方も大きく異なっていると言っても過言ではありません。

いくつかの事例を挙げます。



(1)家事や育児に非協力的、おまけに感謝の言葉もない

そもそもアスペルガー症候群の人は興味や関心の幅が物凄く狭い為、自分の関心が向いていること以外には極めて無頓着です。

なので、他人と協力して何かをするのが苦手です。

結婚して家庭を持っても、「俺はこれ、あなたはそれ」と役割を完全に二分してしまいます。

なので、フルタイムで仕事をしている場合、「俺は仕事、あなたは家事・育児」と決めつけてしまうのです。

定型発達の男性であれば、そこまで厳格な線引きをしないので、柔軟に家事・育児にも協力します。

そして共感力の高い定型発達男性は、妻の心情を汲み取り、良いタイミングで感謝の言葉を述べたりもします。

そんな他の夫婦の話を聞くと、パートナーである妻は面白くありませんよね。

すいません。

代わりに謝ります(笑)

(2)精神的にまいっている時に、追い討ちをかけるように攻撃してくる

これはもうたまりませんよね。

はっきり言って人でなしです。

これもアスペルガー夫の視点に立つと謎は解けます。

僕たちは決定的に人の気持ちを汲み取るのが苦手なのです。

僕は昔から女性が泣くと軽くパニックに陥ります。

理由が分からないからです。

これについては、京都大学の研究で、科学的根拠の高いエビデンスが示されています。

その研究によると、アスペルガー症候群の人たちの脳内では、「ミラーニューロン」と呼ばれる他者の行動を理解する為の細胞を含むネットワーク回路が機能不全を起こしているというのです。


僕たちは決して苦しんでいる人を更に傷つけようとしている訳ではないのです。

苦しんでいること自体が読み取れないのです。

だから、理由も分からず涙を流す女性に対して、時には『自分に有利に場を持っていく為に演技しているんだ』などと、とんでもない濡れ衣を着せてしまったりします。


僕の妻はよく泣く人で、付き合っていた頃から、彼女が泣くと、訳も分からず、腹立たしくなって、余計に悪態をついたりしていました。

彼女も医療従事者で精神科領域で働いていた経験もある為、僕のことを薄情だと思ったりはせず、「そういう特性なんだ」と理解してくれているようです。

一方の僕は、彼女が落ち着くまで待って、言葉で説明をしてもらうようにしています。


②アスペルガー夫の謎の行動

アスペルガーと一緒に住んでいると、定型発達の人には理解できないような行動のオンパレードで、障害のことを知っていなければ当惑することも多いと思います。

これについても、具体例を挙げて、その裏側を覗いていきましょう。


(1)ルーティーンを崩されることを極端に嫌う

僕自身もそうなのですが、毎朝起きてからのルーティーン、着替え・食事・出かける準備の流れが1ミリでも乱れると発狂しそうになります。

例えば、いつも使っているスプーンを、たまたま妻が常備採用にタッパーに入れて冷蔵庫にしまっていたりすると、もうとんでもないことになります(笑)

まだ寝てる妻を叩き起こして「いつものスプーンどこいった!」と、平気で叱りつけたりします。


これは、アスペルガー症候群特有のイメージ力の弱さに起因していると思います。

自閉症の子供が特定の行動を繰り返す、いわゆる「常同行動」も、結果が明白で何が起こるか予測できることを繰り返すことに安堵感を覚えるが故に、必要以上に同じことを繰り返している為に起こるのです。

だから、ルーティーンが1ミリでも乱れると、途端に結果が予測不可能なものになってしまうのです。

つまり、いつものスプーンが使えないとなった瞬間、道の先が真っ暗になってしまうような恐怖感に襲われるのです。

(2)夫婦で保険屋さんやカーディーラーに行ってもトンチンカンなやりとりをしてしまう

これは、もう目を瞑って下さい、と言いたくなります(笑)

例えば、自分が携わっている仕事では、高いパフォーマンスを発揮しているアスペルガー症候群の夫でも、プライベートで、普段あまり関わりのない人との会話では、話の流れを無視した発言をしてしまうということがよくあります。


そもそもアスペルガー症候群の一番大きな特徴は、他者とのコミュニケーションにおいて困難さがあることなのです。

相手の立場に立ったり、気持ちを汲み取ったりすることが壊滅的に苦手なので、慣れない相手との会話では、自分の興味・関心を一方的に口にしてしまうのです。

うちに関しては、馴染みの営業さんや保育園・幼稚園の先生方もうっすら僕の特性には気づいているので、僕を立てつつも、妻の意向を重視しているようです。

僕は僕で、苦手意識があるので、余計なことは口に出さず、一旦持ち帰って妻とよくよく話をして回答するというスタイルをとっています。


③アスペルガー夫の取り扱い説明書

これを書くと、パートナー妻さんたちに更に負担を強いることになりそうで恐縮なので、あえて『提案』という形を取らせて頂きます。


提案1.言葉で具体的に伝える

人の気持ちを踏みにじっているのではなく、本当に理解できていないのです。

ただ、アスペルガー夫が厄介なのは、言葉で面と向かって言われると、変に反抗してしまう癖があるんです。

これは、自分の領域を犯されたり、自分のやり方を変えさせられたりする気がして構えてしまっているせいだと解釈しています。

だから、メールや手紙などの文字で伝えると、意外とすんなり受け入れられたりするんです。

うちでは長らく交換日記をつけていましたし、今でも節目には手紙で気持ちを伝え合っています。

妻は面と向かって話したいようですが、対面だと理詰めでガンガン言ってしまう悪い癖が出るので、僕はLINEやメールを好みがちです。


提案2.敵ではなく味方であるということを伝える

アスペルガー当事者は、いつも、自分の世界が侵されることにビクビクしています。

共感能力も乏しいので、親しい間柄の人間に対してさえ、突如として牙を剥いたり、敵対視したりします。

僕も、今でも時々妻にそういう目を向けそうになることがあります。

しかし、その度に彼女が僕に対してしてきてくれたこと、してくれてることを思い出し、矛を納めます。


提案3.アスペルガー夫が見当違いなプレゼントを渡してきても否定しない

アスペルガー夫は妻の立場や心情を理解することが苦手です。

時々、プレゼントと称して謎の物体を渡す時があります。

「なんじゃ、こりゃ〜」と言って怒らないであげて下さい。

また、時には良かれと思って、とんでもなく無礼な発言をしてくる時があります。

それも怒らないであげて下さい。

本人はいたって真剣で、心から相手を思ってやっているつもりなんです。


怒ったり悲しんだりされると、まるで映画『シザーハンズ』の主人公のような気持ちになってしまいます。

相手を喜ばせたいのに結果傷つけてばかり、みたいな(笑)


ですが、いつもいつもそんな寛大な処置をとることは無理だと思うので、受け止めてあげた後は、はっきりと「今度はこういうのがいいな」と伝えてあげて下さい。


④アスペルガー当事者として僕が思うこと


色々書いてきましたが、僕は、アスペルガー症候群の人と定型発達の人は、同じ人間でありながら、違う属の生き物だと思っています。


遺伝学や進化生物学の本を読んでいると、それを裏付けるような記述に出逢います。

元々、遠い昔には、ホモ・サピエンスの他に、幾つものヒトのグループがいたそうです。
一部は混ざり合っていた可能性も示唆されています。

僕と妻の中に、違う類人猿の遺伝子が混ざっていたとしても不思議ではありません。

それに、同じホモ・サピエンスでも、狩猟採集で生きていたグループと農耕牧畜で生きていたグループがいたのですもの。

「違う生き物説」もあながち荒唐無稽な話ではありませんよね。


アスペルガーの特性をよくよく見てみると、狩猟採集民が持っていたであろう特性とも言えなくもありませんよね?

グループで農作物を育てるのではなく、単独で山野を駆け巡り獲物を追っていた人々の特性だと思えませんかね?


かつて農林漁業などの第一次産業が盛んだった頃にはそういった特性も活かせていた気がします。

でも、今は産業構造も変わり、協調性がより求められるようになりました。

夫婦生活も、お互い独立して役割を果たす時代から、二人で協力し合う時代に変わってきています。

そんな社会的背景の変遷が、アスペルガー夫と妻の不和を招いているのではないでしょうか?

当事者としてはこれほど悲しいことはありません。

僕たちも配偶者を心から愛しています。

出来れば、お互い傷つけ合わずに仲良く暮らしたいのです。

僕だけではなく、多くのアスペルガー夫も同じ思いのはずです。


この記事を読まれた方々が、近しいパートナーとこれからも末長く、仲良く暮らされることを心から願っています。


イルハン

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