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カンバスに封じた罪

「こんなもの描いて何が楽しいの」
努めて明るい口調で言いながら、貴女は屈託無く笑って見せた。
「楽しい楽しくないとかではないですよ。勉強ですから」
僕はそう答えてカンバスに筆を走らせる。
「そう。真面目なのね」

彼女が僕を称した言葉は全くもって正しくない。だって僕はこの絵筆をもって、現在進行形でその柔肌を蹂躙しているのだから。

肌色、朱色、時々黒。輪郭をなぞってその形を浮き上がらせながら、僕は確かに彼女を愛撫し続けていた。

「せっかくの裸婦画なら、もっと“ちゃんと”したひとに頼めばいいのに」
メスによって抉られた平たい胸部を見下ろしながら、悲愴さを滲ませないように貴女は言う。なのに自分の言葉でもって、立派に傷ついてみせるんでしょ? その様子がいじらしくて愛おしくて、僕はだらしなくにやける顔をおさえることができない。

言葉を返さずにいると、返事を請うような瞳で見つめられた。
それがまるで行為の続きをねだる情婦のようで、僕は胸の中に燃え盛る情欲を禁じ得ない。

カンバスの中、彼女よりも手前。乳房の無いやせぎすの女を犯そうとしている影はこの僕だ。

「完成したら、ちゃんと見せてよね」
念を押すような言葉に笑いながら「できがよかったら、ですよ」と答えた僕が、これを貴女に見せる日は永遠に来ないだろう。

(お題:アブノーマルな絵画 制限時間:30分)

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