「ビジョンの明確度」が156%アップ。“自分軸”で生きがいを見つけるためのプログラム「IKIGAI Compass(いきがいコンパス)」
「『人財躍動化』を通じて、社会を変える。」という日本におけるビジョンの実現を目指すアデコ株式会社は、2022年9月より若年層を対象にしたライフビジョン発見プログラム「IKIGAI Compass(いきがいコンパス)」の提供を開始。同プログラムは2023年9月から埼玉大学工学部や十文字学園女子大学の後期授業などでも導入されました。プログラムを通して、学生達が自己理解を深めながらライフビジョンを明確にできるようサポートしています。
具体的なプログラムの内容や、受講した学生の感想、また今後の展望などについて、プログラム責任者の矢崎亮平さん、開発担当であり埼玉大学で教授として講義を行なった今井陽子さんにお話を聞きしました。
新規学卒者をコアメンバーに据え、若年層が抱える課題を探った
アデコ株式会社が展開する、若年層のためのライフビジョン発見プログラム「IKIGAI Compass(いきがいコンパス)」。プログラム責任者の矢崎亮平さんは開発の背景について、「働く人の内発的動機を高める機会を提供したいという想いがあった」と言います。
「“『人財躍動化』を通じて、社会を変える。“というビジョンには、人口減少に直面する日本において、人財のポテンシャルを最大限引き出すことにより労働生産性を飛躍的に向上させ、持続可能な社会の実現に貢献していきたいという想いがあります。2021年に2000人のビジネスパーソンを対象にエンゲージメントに関する調査を行ったところ、約50%の人が『仕事にやる気を感じていない』という結果が出ました。もっとワクワクして働けるよう、内発的動機を高めることができれば労働生産性の向上に直結するのではないかと考えたのが、プログラム開発のきっかけです」
働く人の内発的動機が弱い要因の一つとして、「社会人になる前の段階から、働く意義について考える機会が乏しいのではないか」という仮説を立てました。
「開発のコアメンバーに新規学卒者を据えて仮設を基に議論を行いました。また現役の学生にもヒアリングをしたところ、全体の半数以上から『周囲の期待や情報に捉われて、自分の軸で人生の選択ができていない』という声が寄せられました。そこで若年層を対象に、働く意義や生きる意義についてフォーカスして考える機会を提供して内発的動機を高めていくことを狙い、プログラムの開発を進めました」(矢崎さん)
「IKIGAI Compass」は、どのような特徴があるプログラムなのでしょうか。
「一つは英国出身の実業家であるMark Winn(マーク・ウィン)氏によって提唱された『IKIGAI(生きがい)』のフレームワークを活用していることです。『生きがいとは、好きなこと、得意なこと、社会が求めること、稼げることの4つの要素が合わさるところにある』と定義されています。ロジカルで、一つずつステップを踏んで整理しながら言語化を進められる点に着目しました。このフレームワークを活かすことで、思考の整理と気づきを促し、さらに、アクティブ・ラーニングの要素を取り入れることで、自己理解をするための力を鍛え、楽しみなら生きがいや働きがいを言語化できるプログラムとなっています」(矢崎さん)
プログラムを通じて“自分軸”の生きがいに気づきやすい状態を作る
「IKIGAI Compass」は2023年9月より、埼玉大学工学部、十文字学園女子大学の後期授業にも導入されました。導入の背景について、埼玉大学工学部の講義で教授を務めている今井陽子さんはこう話します。
「埼玉大学工学部では、『学生達が大学で学んでいる専門分野が、実際に社会でどう役立つのかをイメージすることが難しい』という課題があるとうかがっています。また、十文字学園女子大学では社会情報デザイン学科2年生のキャリア教育の授業として取り入れられることになりました」
講義では、どのようにプログラムが進められたのでしょうか。
「まずは自分のビジョンを明確にするため、自分史を紐解きながら、『多角的に物事を感じる力(感受性)』『物事を深堀りし、自分ごとにする力(深耕力)』『ビジョンに基づく行動力(主体性)』という3つの力を育むトレーニングを行っていきます。ステップ1で、『答えのない問い』のワークを通して『多様な考えがある』『自分が人と違ってもいいんだ』ということを体感して思考の柔軟性を高めた後に、ステップ2のグループディスカッションで他者理解、自己理解を深めていきます。ステップ3で、IKIGAIのフレームワークを使い、自分にベクトルを向けて自分の興味や関心、強みを明確化していきます。思考の柔軟性を高めてから、自己理解のフレームに進むことが、IKIGAI Compassの最大の特徴です」(今井さん)
「たとえば、埼玉大学工学部の講義では、『答えのない問い』の問いで思考力を鍛えつつ、IKIGAIのフレームワークを使って、自身の『好きなこと』『得意なこと』『社会が求めていること』『社会にできること(稼げること)』を具体化していきます。『社会が求めていること』のパートでは、SDGsの専門家に登壇していただき、世界が抱えている大きな課題と科学技術の関わりから、それらを組織である企業はどのように実現しようとしているのかについて理解を深めました。その後に、『社会』を『社会→組織→個人』にサイズダウンして取り組みました。学生からは、『社会と自分はまだ繋がっていないと思っていたけれど、社会の一員であることを自覚した』『自分も埼玉大生として求められていることがあると理解し、目的をもって授業を受けたいと思った』などのレポートがありました。」
(今井さん)
最終講義では、「あなたの生きがいを活かしながら社会に貢献できることは何か」をテーマに1人90秒のスピーチを行いました。
「どの学生も、ゲームや旅行、音楽やミュージカルなど、自分が好きなこと(興味や関心)と科学技術と掛け合わせてスピーチを行っていました。例えば、『旅行に行くなら"上に"行きたいですよね』と、宇宙旅行の低価格化を促進する部品の開発をテーマに語る学生や、応用科学を専攻しているコーヒー好きの学生は、『体に良い甘味料の開発し、コーヒーをより健康で美味しく楽しみたい』と語りました。授業が始まった半年前は、好きなこととして『ゲーム』を挙げていた学生が圧倒的に多かったが、思考力を鍛え自己理解を深めることで、好きなことが多角的に捉えられるようになり、学生達の視野が広がっているのを感じました。同時に、学生たちは『科学技術を使って社会に貢献ができる』という可能性に気づくようになっていきました」(今井さん)
「社会に出て働くことは楽しいことだと気づいた」プログラム実施中から学生の行動変容が見られることも
講義終了後に学生に対して実施しているアンケートでは、講義前を100%として、「ビジョンの明確度」が156%、「感受性」が126%、「主体性」が130%、「深耕力」が114%と数値が上がっており、高い効果を示す結果が得られています。
これまでプログラムに参加した学生達からの声について、今井さんはこう振り返ります。
「埼玉大学の学生からは、『授業を受けたことで、社会に出て働くのは意外と楽しいことなんだと気づきました』という声が多く寄せられており、将来を明るく捉えたことを嬉しく思いました。また、以前高校生が授業を受けたのちに、『やりたいことに気づいたので通信制の高校に転校した』『今はアメリカに留学している』という報告があり、行動力に驚いたこともあります。IKIGAI Compassを受けた学生の行動が、自分のビジョンに向けて変化していく姿が見られるのがとてもうれしいですね。」
埼玉大学や十文字学園女子大学では「IKIGAI Compass」の導入が継続されることが決定しています。今後の展開について、矢崎さんはこう語ります。
「今後も就職前の学生に向けて、学校におけるキャリア教育プログラムとして『IKIGAI Compass』を通じたキャリア形成支援を行っていきたいです。このVUCA時代においては、大学に限らず、専門学校や短大はもちろん、義務教育でもキャリア教育が一層重要であることから、中学校などでも展開を進めています。また、すでに社会に出ている若手社員にも効果的なプログラムですので、さまざまなお客様とコラボレーションしながら、本プログラムを通じて、1人ひとりの躍動化に良い影響をもたらしていきたいと考えます」