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《サス経》 培養肉の時代が到来!?

 今回お話しするのは培養肉です。日本でも最近、昆虫食やプラントベースミートなど、いわゆる代替タンパクが話題になっています。培養肉はこれに対して、動物の細胞から培養するという意味ではより本物の肉に近い代替肉です。

環境負荷が高い肉食

 こうした代替タンパクが求められるのは、動物福祉などの視点もありますが、肉食の環境負荷が高いことが知られるようになり、それに配慮して肉食を避けるベジタリアンが増えていることが理由の一つです。それ以外にも、より健康的であるとか、食中毒等の危険が少ないという理由もあります。

 いずれにしろ肉、特に牛肉の生産は非常に環境負荷が高く、たとえば温室効果ガスについて言えば、人為的な発生量の18%が家畜由来であるとの研究結果まであります。肉生産は森林破壊の大きな原因にもなっていることから、今後世界的な需要が増えても、それをまかなうだけの肉は生産できないでしょうし、してはいけないとういコンセンサスができつつあります。

代替肉のいろいろ

 そんなわけで特に海外では環境負荷の高さを嫌ってベジタリアンを志向する人口が増えているのです。一方で、肉の味は忘れられないと言う人もいますし、本物の肉が食べられないのであればそれに代わる肉のようなものを食べたいという需要も増えてくるでしょう。こうした流れに対応して、代替肉を作ろうという動きが活発化しているわけです。

 もっとも簡単なのは大豆など植物のタンパクを利用したプラントベースミートです。以前はいかにも「代替品」でしたが、最近では味も非常に肉に似たものが販売されるようになって来ています。それでもほとんどはひき肉であり、ステーキなどの形状や食感は再現が難しいと言われています。一方で培養肉は、動物の細胞を人工的に培養して肉の形まで育てるというものです。そのため原理的には、味だけでなく食感も肉にそっくりのものが作れるはずと期待されています。実際、研究室レベルでは、様々な種類の肉を培養することに成功しています。

培養肉がいよいよアメリカで認可

 そしてついに今年6月、アメリカでGOOD MeatとUPSIDE Foodsの2社が培養鶏肉を販売する許可を農務省から得たのです。もっともGOOD Meatはすでに2020年12月からシンガポールで培養肉を販売していますので、これが世界初というわけではありません。それでも、世界最大の食肉市場であるアメリカで認可されたことには大きな意味があります。本格的な培養肉の時代が始まったと言えるかもしれません。

 気になる価格はまだ高めのようで、販売されるのもスーパーなどの小売ではなく、高級レストランで出されることになるだろうということです。それでも2013年にオランダで世界最初に発表された培養肉のハンバーガーは、140gのパティを作るのに3千万円もかかったと言います。それに比べると10年間で大変なコストダウンがされたことになります。そして現在アメリカでは別の会社が大規模な培養肉工場を建設しており、完成すると年間約1万トン、1日あたり27トンもの培養肉を製造できるそうですから、一気に価格も下がりそうです。

日本でも開発中

 日本でもいくつものベンチャー企業などが培養肉の製造に取り組んでおり、実用化もそう遠くないようです。そしてアメリカの大手コンサルティング会社は、2040年には世界で販売される「肉」のうち、従来の肉は40%にまでなり、培養肉が35%、プラントベースミートなどの代替肉が25%になると予想しており、もしかするとこの先あっという間に本物の肉を食べる機会は減ってしまうのかもしれません。一方で20年弱でそこまで劇的に変化するのかやや疑問に思いますが、肉食の環境負荷の大きさを考えれば、やはりそうは言っていられないのかもしれません。

 もちろん肉食による環境負荷を減らすためには、肉食の頻度を下げたり、食ロスを減らすことも有効です。プラントベースミートはともかく、培養肉はまだどんな問題があるかわかりませんので、個人的には肉食の頻度を下げるのが現実的かなと思っています(食ロスを削減するのは当然ですからね)。

 そして、もしどこかで培養肉を食べる機会があったら、ぜひご感想を教えてください。

 サステナブル経営アドバイザー 足立直樹

株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)473(2023年8月16日発行)からの転載です。

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