夏の憂鬱
暑い。僕は夏が嫌いだ。
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そう思うようになったのはいつからだろう。
僕の頭上に花火が
打ち上がらなくなった時からだろうか。
僕はもうあの頃から成長して
空の景色に期待なんてしなくなっていたんだ。
そう思うと空に浮かぶ雲なんか
全部曇ってしまえなんて思う。
なんなら少し雨の一粒や二粒降らせてしまえなんて思う。
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そんな事を考えていると部活帰りらしき
年齢不詳の人々が途中乗車してきた。
静かな空気が一瞬にして騒がしくなる。
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何故かその4人組は僕の方へ
視線を集中させているのを感じた。
そして聴き覚えのある声は
時々僕の名を口にしていた。
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誰なんだ。
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僕は苛立ちを隠せずにいた。
その時の苛立ちは僕の目を鋭利に研ぎ、
相手に力強い視線を向ける事を容易にした。
ゆっくりと矛先を4人組に向ける。
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そこには夏のあの日の憂鬱が存在していた。
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そしてこちらを同じく
力強い視線で覗いていたのだった。
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すると、外の雲が我々を取り巻くように
青空を覆い隠そうとしていたのだった。
そして車窓から確認できる雲行きは
段々と怪しさを増し、
やがてそれは雷を伴う嵐に変わったのだった。
周囲の空気は凍りつき、無関係な赤の他人まで
必死に携帯を開いてまるで気にしていない
素振りをし始めたのだった。
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夏の憂鬱は僕が視線を向けるまでは
刃先をこちらに向けてきたが、
こちらが視線を向けるとすぐに矛先を引っ込め、
数秒間の一瞥を与えたのみに留まった。
その数秒間は体感的には
数時間程だったと僕は感じた。
長くて、重い時間だった。
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嗚呼、だから僕は夏が嫌いなんだよ。
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