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選ばれる弁護士と選ぶ依頼者 - 気をつけたいポイント -

深澤 諭史
弁護士
士業適正広告推進協議会 顧問

1 はじめに:弁護士も選ばれる時代

昨今、弁護士間の競争が激化し、それに伴い弁護士広告同士の競争も熾烈なものがあります。このような現状は、士業広告に関するセミナー、コラムなどで枕詞のようによく出てきます。

市民が士業を選ぶ場合、インターネットで探すことはもはや珍しいことではなく、むしろ通常のことです。インターネットで検索して、複数の士業広告を比較検討して、それで問い合わせる、依頼する士業を決めます。

知り合いや紹介で探して依頼をすることもあるでしょう。ですが、最近は、紹介があっても、あえてインターネットで「も」探して比較検討するというケースが増えているように感じます。実際に私も、そういう相談を受けたことが過去に何度もあります。

かように、今や弁護士をはじめとする士業は、「選ばれる時代」であるということがいえます。

2 士業の選ばれ方:広告と問い合わせ

士業広告との関係でいえば、選ばれるためには、広告の質が大事です。

もっとも、広告がよければいい、というものではありません。問い合わせへの対応や、受任に至るまでの相談対応も重要な要素です。

実際に私も相談者からよく聞く話ですが、確かに広告を比較検討して弁護士を選ぶ、というのが最初のポイントです。ですが、一つの広告と一人の士業だけを選ぶのではなくて、複数の弁護士に問い合わせる、その上で、問い合わせ対応をみて相談する弁護士を決める、ということがよく行われているようです。つまり、複数の弁護士から選ばれるのが当たり前になっている、ということになります。 単に、選ばれる広告を出すだけでは、選ばれる弁護士にはなれないのです。

このように、複数から選ばれる傾向が強く出ているのは、次項でお話しするな、質に対する需要、要求の高まりの表れであると思います。

3 質と量の両面への需要

社会の複雑化や、権利意識の高まりに伴い、弁護士をはじめとする士業に対する需要は高まりを見せています。ここでいう需要とは、その量だけではありません。それのみならず質に対する需要(=要求)も高まっています。

量の需要というのは、案件の数をいいます。通常、需要というとこのことをイメージすると思います。これに対して、質とは、士業が提供するサービスの質をいいます。私の経験から申し上げると、最近は、量だけではなくて質についても需要が高まっていると感じます。

質への要求とは、とにかく結果を出すとか、費用対効果が高いこと、対応が迅速だとか丁寧であるとか、そういうことです。最近、特にこういう要求の高まりを感じます。

4 士業の質の判断は難しいというけれども

ところで、弁護士をはじめとする士業の質に関する議論の中で、一般市民から見て士業の質の判断は難しい、ということが指摘されます。

市民にとっての質の判断が難しいから、養成課程や試験を厳正に行うべきであるとか、参入を制限するべきとか、広告についても規制が必要であるとか、そういう議論もよく行われます。

私としては、この議論には、全面的には賛成できないものの、一部は賛成できます。やはり、市民から見て士業の質の判断は非常に難しいものです。これは間違いありません。

もっとも、それでも市民から見て、次で述べるような判断のしやすい、求められている士業の質というものがあります。そして、これこそが、選ばれる士業になるためのポイントなのではないか、と思っています。

5 セカンドオピニオンの提供から見える「質」

私は、法律相談については、電話やビデオ会議なども活用している関係上、遠方からの相談、それもいわゆるセカンドオピニオンを求められるケースも少なくありません。セカンドオピニオンとは、医療の世界では一般化しておりますが、今依頼している専門家とは別の専門家に、別の観点から、今依頼している専門家の方針等の適否を聞く、ということです。

具体的には、弁護士業務のセカンドオピニオンとしては、事件処理の方針や、成否勝敗の見通しについて聞かれることもありますが、意外にもそれ以外の点について聞かれることも多いです。具体的には、弁護士の依頼者に対する接し方、態度についても、こういうやり方が普通なのか、ということで聞かれることがあります。

そういう中で、よく指摘される、市民が不満を持つのが、レスポンスのスピード、頻度、案内の内容などです。返事がもう○日ないけれども、普通なのか、とかです。また、士業広告の関係でいえば、広告に書いてある内容と話が違う、あるいは、広告の記載内容について、相談を担当する士業が知らない、というものです。

確かに、事件処理の本体については市民がその質の判断をすることは難しいかもしれません。ですが、それ以外の対応の質であるとか、わかりやすさ、広告と提供されるサービス内容の一致などについては、市民はある程度容易に判断ができます。

私たち士業が思っている以上に、市民は士業のサービス選びにおいて、「お目が高い」のです。

6 まとめ:士業として気をつけたいポイント

まず、士業に問い合わせをする市民というのは、たいていの場合は不安になっています。また、普通は秘密にしたいことを話すということもあります。なので、自分が誰であるか、事務所名や自分の氏名をはっきりゆっくり話すことが、最初のポイントです。

実際、私も、依頼者から、「難しいことはわからないけれども、しっかりとゆっくりと名乗ってくれて安心できたので依頼しました」といってもらえたことがあります。

次に、レスポンスは迅速に行うことも大事です。とにかく問い合わせをしてきた人、特に士業広告を経由している人は、不安が強いことが多いです。一刻も早く、答えを知りたいのですから、対応は迅速にすることがポイントです。

案件によっては、すぐに答えを出すことはできないこともあるかもしれません。この場合、「回答は遅くなります」という話を早くにしてしまうのが、信頼を得るコツです。相談者にとっては、どれくらいかかるかわからない3日間よりも、最初から待つとわかっている5日間の方が、短く感じるものです。

受任後も同様で、動きがないのであれば、動きがないこと、報告するべき事が無いことを報告するべきです。私たち士業にとっては、そういう時間が長いことは常識であっても、市民にとってはそうではないのです。

加えて、自分の事務所が出している広告の内容はしっかりと把握しておきましょう。私の経験上も、意外と市民からの不満が多いのがこのポイントです。広告で解説している、案内している点については、自分の言葉でもちゃんと説明できるようにしておくべきです。

特に、広告を出して問い合わせは増えたのに、なかなか受任に繋がらない、というケースでは、広告内容と問い合わせ対応のリンクがうまくいっていないことが多いです。これは非常に勿体ないことですが、しばしば生じているケースです。

問い合わせが多いと、広告は成功しているから見直さない、としてしまいがちです。ですが、それは間違いです。むしろ、問い合わせが多いときこそ、広告はしっかりと見直し、あるいは深く理解をすべきです。

士業広告は、士業にとって選んでもらう唯一の基準ではありません。重要なきっかけですが、それで終わるのではなく、問い合わせや相談対応も決め手となります。広告で競争するというと、広告を見て問い合わせをしてもらえればそれで勝ちだ、成功だと思いがちです。ですが、特に士業広告においてはそうではないのです。

今の市民は、士業広告をしっかりと読み込んでいます。自分に問い合わせてくる人に負けないくらい、自分の出した広告を読み込むべきです。

以上

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