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人と付喪神が縁を紡ぐ。絆と恋の和風伝記バトル漫画『もののがたり』

「かつて付喪神に救われた少女がいて」
「付喪神に奪われた少年がいる――」
「なら二人を繋ぐのはやはり付喪神なのでしょう」
「これは良縁というものよ」

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「和風」で「神様」で「能力バトル」で「伝記モノ」で「恋愛漫画」。
ごった煮欲張りセットなのにシンプルで読みやすい上に燃える。
そんな素敵漫画はなにかと言ったらウルトラジャンプで連載中の『もののがたり』だ。

今回はどうして『もののがたり』はそんな素敵漫画に仕上がっているのか、その魅力について語っていく。


あらすじ

付喪神(つくもがみ)。
長い時と経験を経た「物」に宿ると言われ、妖や神の類にまとめられる伝承上の存在。
そんな付喪神を取り締まり、調停する役を担う一族の次期当主「岐兵馬」は、過去に兄姉を殺されたことから付喪神を強く憎んでいた。
付喪神と対話せず壊し続ける兵馬に言い渡された任務は、付喪神と人が家族として共棲する、特異な屋敷へ居候として滞在し付喪神を見定めることだった。
その屋敷で暮らすのは「長月ぼたん」という大学生の少女と、ぼたんを主として仕え「婚礼調度」と呼ばれる6体の付喪神の、一見すると歪にも見える家族。
付喪神を憎む人、付喪神と共に暮らす人、そして人を主として敬う付喪神。三者三様の思いを抱えながら、ひとつ屋根の下で奇妙なホームステイが始まった。


白と黒の濃淡で描かれる、鮮やかなアクション

もののがたりのバトルは能力バトルだ。付喪神であれば自分の元になった「道具」を反映した力、人間であれば一族相伝の「術」や「札」を用いた力で戦う。

その演出は白黒なのに鮮やかでスタイリッシュ。

大胆なベタと白の使い方で一コマ一コマが引き締まり、大迫力なのにすっきりして見やすいバトルに目が奪われる。

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付喪神それぞれの持つ個性的な能力も『もののがたり』の魅力だ。

例えば、かんざしの付喪神の能力は「かんざしを刺したものをなんでも結いとる」というものであったり、鏡の付喪神の能力は「人の過去や物の真実を全て見通す鏡」であったり。
それぞれ由来となった物にちなんだ能力となっており、その特性を活かして戦う。
これらの多彩な能力が『もののがたり』のバトルに彩りを添えている。


「物」として成すべきこと、「人」として成すべきこと

一見しただけでは人と見分けがつかず、心も持つ付喪神だが、その性質は人間とは違う存在として描かれている。

付喪神はそれぞれ「本懐」を抱く。
付喪神の能力が物に由来するように、付喪神の性質もまた物に由来し、物としての使用用途や存在意義を果たそうとする。

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↑婚礼調度の1つ刀の付喪神「薙」。刀を生やして操る特性を持ち、婚礼調度の性質として主であるぼたんが良縁を得て幸せになることが本懐。強いが性格は荒っぽい。


本懐に囚われた付喪神は自分の衝動を満たすために人を傷付けることすら厭わない化物と化す。
そのため危険な存在として封印されてしまう。

一方で「婚礼調度」のように、物としての自分に囚われず人と共に生きていくことを選んだ付喪神も存在する。
こうした付喪神は、それぞれの能力を活かしたお務めを割り当てられ「特例」として世に混じり貢献しながら過ごしている。

付喪神は人の常識の外に存在する物だ。

それぞれの持つ一見すると歪んだ衝動でも、彼らにとってはなによりも優先して成し遂げなければならない絶対の意義となる。

物として抱く異常な信念は、付喪神ひとりひとりの強烈な個性として、より一層その存在を際立たせる。

そして、人は人を守るために全力で付喪神の前に立ち塞がる。
人もまた目的のためには犠牲を払うことを厭わず、なによりも優先して人に仇なす付喪神を祓う。

例え道義に反していようとも、絶対に曲げることのできない意義と道義のぶつかり合い。

もののがたりには、こうして生じる切実とした迫力を感じることが多々ある。


「主義主張と思惑が交差するシリアスパート」「不器用な2人のラブコメパート」その完璧なバランス

もののがたりのストーリーには2つの軸がある。

1つは長月ぼたんの中に巣食うとある存在を巡った、人と付喪神の智謀策略入り乱れる争い。
もう1つは、朴念仁な主人公・岐兵馬と、人を信じることを恐れるヒロイン・長月ぼたんの不器用な恋愛模様。

メインは兵馬とぼたんの恋愛模様ではあるが、少しずつ距離を縮めていく2人の恋路は一筋縄ではいかない。

付喪神が、人間が、そしてぼたんの中にいる「なにか」が。
それぞれの本懐を遂げるために暗躍し、時には立ち塞がり、時には2人を守ろうとする。

そんな複雑怪奇な現世の闇を打ち払う存在、それが主人公である兵馬だ。

彼は時に悩み、時に傷付きながら何度でも立ち上がり、ぼたんを守るため愚直に突き進み戦い、やがて固く閉ざされたぼたんの心も開いていく。

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このシリアスとラブコメのバランスが素晴らしい。

多種多様な人と付喪神に関わっていく中で2人が成長していく様子を、恋愛の進みで感じることができる。

もののがたりのシリアスパートは、各陣営の譲れない主張に過去の因縁も混ざり
「終わってみれば敵にも義があったのかもしれない」
「遥か過去から繋がってきた根深いもので、今からじゃどうしようもないが戦うしかない」
といったビターな展開が多い。

複雑な心境でシリアスパートを読み進めたところに投入されるのがラブコメパート。

これが激甘である。

口元の緩みを抑えることはもはや不可能、兵馬の天然口説きとそれに照れるぼたんの様子が初々しくあまりにもかわいい。

ビターな展開は物語に深みを与える代償として、どうしてもすっきりしない結末になってしまうことが多いと個人的には思う。
しかしその結末部分に激甘のラブコメをぶち込むことでどうだろう、ビターさの余韻は残ったまま、読後の後味が一気に爽やかなものになる。

もちろん、このラブコメパートはただの清涼剤ではない。

シリアスパートにおいても非常に重要な部分であるため、浮くことはなく綺麗にストーリーの一部として収まっている。
このシリアスとラブコメの完璧なバランスのお陰で、飽きることなく一気に読むことができるだろう。

是非ご一読を。


おまけ

実は、つい先日までジャンプ+にてもののがたりの序盤が無料公開されていました。

本当はそこに間に合うようにこの記事を上げるつもりだったのですが、無料期間は終わってしまったため紹介記事というより感想記事に近い構成にしてみました。

無料公開自体は定期的にやっているイメージがあるので、一応ジャンプ+へのリンクも貼っておきます。確認してみてください。

1話から3話は常に公開されているっぽいので試し読みにもいいかもしれません。

[第1話]もののがたり
https://shonenjumpplus.com/episode/13932016480028894705

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