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外国っぽいデザインって

先日、僕が所属するCARVAAN BREWERYがはじめてさいたま新都心で行われる国内有数のビアフェス「けやきひろば春のビールまつり」に出店した。看板を自作し、6連のタップを組んで重い古材と真鍮のレリーフで装飾をし、独自のアラビアンな雰囲気を醸し出すしつらえ。デザインはすべて僕が担当するので当然他のブルワリーの追随を許さないかっこよさ。のはずだった。販売に立ってみるとお客様が口々に「これ、どこのビールですか?」と尋ねる。無理もない。CARVAANのロゴにはベドウィンの族長の横顔が配され、並ぶビールは「アラビアンライム・エール」だの「サハティ」だの「バオバブ・セッションIPA」だの見慣れなモノばかり。フードは「アラブの定番マンディライス」と異国情緒が漂いすぎている。

はじめはブルワリーの場所を聞かれているのだと思って「埼玉県の飯能市というところです」なんて答えていたのだが、そうではなかった。「あ、日本のビールなんだ。」つまりインポーター(輸入ビール)と思われていたのだった。こうしたビアフェスにおいてはインポーターと間違われるのはあまりいいことではない。やはり多くのお客様は日本のクラフトビールが目当てで来ているのだ。インポートもので人気があるのはごく限られた一部のブランドだけ。で、行列のできる人気ブルワリーは必ずしも「カッコイイデザイン」にはこだわっていない。焼きガキやアワビやホルモン、牛タンなどのシズル感たっぷりの写真が看板に「どやー」っとばかりにプリントされていたりして、むしろ意図的にローカル色を出してフードフェスらしいお祭り感を演出している。いわゆる「シュッとした」スマートなアートディレクションをしているのは同じ埼玉県のCOEDO(エイトブランディングによる)や京都醸造など、本当に少数派だ。

今どきの人はそうでもないと思うけど、僕くらいの世代までは舶来コンプレックスというか、どうしても英語をはじめとする外国語で構成されたデザインの格好よさに憧れのようなものがあって、いわゆる'格好いいデザイン'をするときに日本語を避けてしまう傾向がある。勿論日本語で美しく組んだデザインというのも作れるんだけど、ビールという商品だとやはり日本語じゃない方が格好いいかなと。特にCARVAANというブランドはキャラバンの語源であるペルシア語KARVAANから名付けられ、「世界中の食と文化を日本に運ぶ隊商である」というコンセプトなので意図して異国情緒を強く感じさせるアートワークを行っていた。日本語の使用は必要最小限にとどめていて、アートディレクターとしては完成度の高いデザインができたと思っているし、実際先日出品したAIBA(オーストラリアン・インターナショナル・ビア・アワーズ)ではボトルラベルのデザイン部門でブロンズ(銅賞)を受賞するなど海外にも通用するデザインワークができたと思う。

しかしそのせいでCARVAAN BREWERYはしっかり海外ブランドとして定着しそうになってしまった。危ない危ない。もちろん海外ブランドが強い時代、あるいはマーケットであればこの戦略は間違いではないのだが、今の日本のクラフトビール市場はちょっと違う。またビールは移動させると味が落ちるという根本的な問題もあって、輸入した海外ビールが絶大な支持を受けるということは難しく、絶対量としては希少かつ珍しいベルギービールや一部の突出したブランドなどごく少数が成功しているにすぎないため「海外ブランドっぽく見える」というのはアドバンテージにはなりにくいことが分かった。特にビアフェスのような場においては。

ここまで書いて改めて思ったのだが、たぶん50代の僕くらいまでの男女がまだ海外(さらに言うと欧米)ブランドへの憧れや共感が強いのかな、と思う。ロードバイクのメカ(変速機とかそういう重要なパーツ)の分野で世界の7割以上のシェアを持つ日本のシマノでなくついくっそ高いイタリアのカンパニョーロを選んでしまったり、キヤノンやニコンも使いこなせていないのにライカに食指を伸ばしたり、ホンダやスバルの広告を作りながらついプジョーなんか買っちゃって「大衆車つくるのはフランスが上手いんだよね」なんて分かってるふりしたりこれ全部僕のことだけど。まぁ明治以来続いた舶来信仰の末裔とでもいうのか、時代遅れの古い男でございますとでもいうのか。バブル崩壊以降というワードで時代を区切るのも芸がないけれども、それ以降の日本に育った若い人たちの間では海外ブランドへの変な憧れやこだわりが無いように思う。洋楽、洋画も人気がないというし。単純に可処分所得が下がっているせいかもしれないし。

ともあれ今回の教訓として「かっこよすぎる(笑)デザインはフェスではスベる」ということが分かった。だけどそれが必ずしも失敗だとは思っていない。この会場でビールをたくさん売るという目的には合致しないが、あくまでも他のブルワリーと一線を画すプレミアムブランドである、という目的ならば達成できたことになる。うちはもともと外販は重視していないのでこのまま3号店の東京進出につなげる分には全く問題は無い。

もちろんグローバルとローカルとの両立をデザインで表現することの難しさは痛感している。このへんはデザイナーの力量が問われるなぁ...と。

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