ブルワー修行 1

僕のブルワーとしての−公式な−修行は(公式な、というのはまぁ分かる人には分かるやつです)山梨県甲府市のアウトサイダーブルーイングで始まった。日本でブルワリーを開業するにはビール醸造の経験があることを証明する書類を提出する必要があるのだが、この国は自家醸造は禁止されているし、ビール醸造を学ぶ教育機関もないので、どこかのブルワーで働いてビール醸造を覚えるしかないのが現状だ。クラフトビールの市場はブームといっても日本のビールのシェアのほんの2パーセント未満なのだから、受け入れてくれるブルワリーは数少ない。そんな中、2ヶ月間の間、日本で最高レベルのブルワーの一人である丹羽さんに教わることができたのは本当に恵まれていたと思う。

実はアウトサイダーブルーイングに併設するビアレストラン「ホップス&ハーブス」には以前行ったことがあった。たまたまその数件隣にある「桜座」というライブハウスに妻が好きなアーチストが出るので一緒に出かけた時に立ち寄ったのだ。その頃はまだクラフトビールについての知識はなかったが酒類は全般に好きなのでその土地のビールがあれば飲みたいと思っていた。

その時の感想は...実はあんまりパッとしなかった。ちょっとぬるくて美味しいのかどうかよく分からなかったのだ。その時はワインの方が好きだったのでワイナリーに行ってワインの試飲をしたことの方が印象深かったのだった。その後数年経って再び丹羽さんのビールを飲むと、その美味さがわかってきた。ドリンカビリティを重視したイングランドスタイルのエールは毎日テイスティングなどで飲んでいるとそのすごさが分かるのだけれど、第一印象は地味なのだ。飲み飽きなくて、また飲みたくなる。こういうビールを作るのって簡単ではないと、今では分かる。

甲府の街は県庁所在地なのだが商店街は寂れてシャッターが降りている店が目立つ。そんな商店街の一角にアウトサイダーブルーイングがあり、僕はそこから歩いて15分くらい離れたところにアパートを借りた。

このブルワリーは朝6時半から始まる。仕込みがある日は6時からだ。丹羽さんはブルワリーの上の3階に住んでいたのでその時間に行くと大体もう始まっている。ほどなく女性ブルワーの桃ちゃんがやってきて3人で作業を始める。もちろん最初は全然勝手が分からず、ただ邪魔にならないように見ているだけ。分からない作業はその都度質問してメモを取る。その繰り返しで一日が終わる。4時くらいには大体作業は終わり、書類の記帳を教わる。酒類の製造は国税庁によって厳しく監督されているので酒税関係の書類は非常に詳細に渡る記録が義務付けられているのだ。これが本当に面倒臭い。が仕方ない。エクセルでファイル間の紐付けをやってみたのだが膨大な量になるのであまり上手く着そうにない。国税側で統一フォーマットにすればもっと効率の良いデータベース化ができそうなものだが。

そんな感じで2ヶ月の修行が始まった。

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