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ウラジオストクにもするめ

三月に研究室の先輩が去った。新しい就職先が決まり、なんと二年間日本に行くことになったのだ。ヨーロッパの大学から日本の大学へ移る人は(日本人でない限り)なかなかいないが、彼は自分の行きたい研究所があるということで念願の就職先ということである。

しかしその先輩、ロシアのウラジオストク出身なので実は日本にいた方が故郷に近い。そういう事情もあって日本に行きたかったのかどうかは定かではないが、何はともあれ母国の小さな島国に就職していく人を見るのは少し変だが嬉しい気持ちである。

先輩が去る前に、みんなで送迎会をしようということになった。その時に先輩が故郷の食べ物ということで、ウォッカ、イカの干物、海苔を持ってきてくれた。

ウォッカはどこの国でも大抵あるが、このイカの干物と海苔は物珍しいらしく、みんな興味津々である。見た目は何だかするめのようだなと思って食べてみると、まさにするめ以外の何者でもない。日本のものと比べると少し塩っ辛いような気がしたが、ロシアにもするめはあるのだ。パッケージをみるとビールと合うような感じで描かれている(日本だったらビールより日本酒と思っていたが実際どうなんだろうか…)。

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その場にいたのは、私以外は皆ヨーロッパ人。みんな一口試してはものすごく不味そうな顔をして、「面白い味だがあまりおいしくない」という。異文化のおいしくない料理に対して発言しなければならない時、何か良い表現はないものかともどかしい気持ちになる。確かにするめはおろか魚介類全般を日常で食べない人々にとっては、この味はなかなか受け入れ難いのかもしれない。友人曰く「生臭い魚の味がする。自分が魚を調理するときはこの生臭さを消すようにするけど、これはむしろその結晶のようだ」と言う。

心の底から美味しいと思っているのは私だけなので、喜んで食べる。懐かしくて美味しい!と言ってひたすらイカの足の干物を食べ続ける小さな東洋人をみて同僚は苦笑いをしていた。するめに限らず、基本的にタコやイカを食べる人は少ないので、彼らにとってこの行為はどれほど奇妙なものとして映っただろうか。

ちなみにもう一つ持ってきてくれた海苔は言うならば韓国海苔であった。ウラジオストクは豊富な漁場が近くにあるので、きっと美味しい海鮮があるに違いない。最近はウラジオストク行きのビザも簡単に取れるようになったらしいので、一度訪れてみたいものである。