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ソーセージは教会の正午の鐘を聞くことを許されない

去年の七月にイタリアのジェノヴァで学会があった。私自身、初めての学会ということで緊張もしていたのだが、夏のイタリアを想像するだけで学業とは別のところでワクワクもしていた。

今住んでいるブダペストからジェノヴァへの直行便はない。考えると当たり前なのだが、必ずしもヨーロッパの首都だからと言ってヨーロッパ全ての都市に直接いける便はないのだ(書いてみて改めて当たり前だと思う)。というわけで、ジェノヴァにはどこか別の国を経由しなければならなかった。

ブダペストからだといろんな行き方があるのだが、大まかにルートは二つに分かれていて、ブダペストからイタリアのミラノまでの直行便に乗って、そこからジェノヴァまで電車で移動するか、あるいはブダペストからドイツのミュンヘンを経由して、ミュンヘンから直行便でジェノヴァに入るかであった。

私はミュンヘンに行ったことがなく、一度訪れてみたい(学会帰りついでに観光したい)と思い、ミュンヘンでの乗り継ぎ時間を長くして、わずか滞在二時間ほどだったがミュンヘンの街に出てみることにした。

あいにく、その日は日曜日であった。学会であったミュンヘン出身の人にも「日曜日はカフェとアイスクリーム屋さんぐらいしか開いてないよ」と言われてまさかと思ったが、本当に何も開いていなくて全く観光することができなかった(もとより、観光するほどの時間はなかったのだが)。

しかしせっかくなのでミュンヘンでしか出来ないことをしよう、と思って探してみると、なんとミュンヘンには名物のビールだけでなく白ソーセージなるものがあるらしい。しかもなぜか午前中しか食べれないとのこと。市内で過ごす時間は大体十一時〜一時の時間だったので、一応教会など外から見れるものをみてカフェで一服してから、空港に戻る前にアウグスティーナというビール酒場に立ち寄ることにした。

酒場に入ってみると、当たり前だがほとんどの人がビールを飲んでいて(ミュンヘンは小麦ビールの街)、しかもグラスが大きい。私もソーセージのついでに小さいサイズのビールとお願いすると、一番小さい500mlのサイズが出てきた(このサイズがミュンヘンでは最小で、普通は1Lのジョッキで飲むようだ。恐ろしい)。

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お店に入ったのが正午前ギリギリだったので、白ソーセージを頼むと「まだ十二時じゃないかな、オッケー」とわざわざ確認され、注文を受けてくれた。

待っている間に白ソーセージはなぜ午前中しか出さないのかということを調べてみると、どうもとても傷みやすいらしく、伝統的には早朝に用意してお昼までには食べてしまう風習があったようだ。何種類かのスパイス(パセリ、ナツメグ、カルダモンなど)が入った独特な味わいだが、食感は普通のパリッとしたソーセージとは違って、ふわふわした質感のなめらかさが特徴的だった。

『ソーセージは教会の正午の鐘を聞くことを許されない』、白ソーセージ(ヴァイスヴルスト)にはこういう諺まであるようで、なんとしてでも午前中に食べなければならないらしい。もちろん新鮮な食べ物なので冷蔵庫があってもすぐに食べないと質が落ちるらしいのだが、それでもこういう伝統が今でも残っているのはなんだか嬉しい気持ちになる(もちろんレストランによっては常時提供しているところもあるそうだが)。

最新の技術によって、不便なところはどんどん改善されていって、より便利になっているのだろうし、いつでも白ソーセージが食べれる昨今はありがたい。でもそれでもやはり何か特別なときにだけ食べるというのは、これに限らず、特に合理的な理由がなくても各文化それぞれの特徴が感じれていいなと思った。