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江戸時代の鍼灸術の書『療治之大概集』⑩

こんにちは、鍼灸やまと治療院です。『療治之大概集』の10回目です。
もうしばらく病の説明と使用穴です。

※『療治之大概集』の原文はこちら


婦人門

【原文】

婦人門 女の疾を集め書くなり
一、夫れ女は十四なる時月水行り、男は十六なる時陽精行く。是れ皆陰陽の数に合う。夫れ人に夫婦有るは天地の如し。天地の道は陰陽和合して男女を生ず。故に女は先づ月水調ふ。月水調ふれば万病生ぜず。万病生ぜざれば孕む事を為す。凡そ女の病は多くは気盛にして血虚するなり。月水或いは進み、或いは後れ、或いは多く、或いは少なく、或いは越えて来らず、一月に再度来る者は是れ調らざるなり。例より早きは血減りて熱有るなり。又例より遅くして来て痛みを為す者は血耗りて寒なり。又来らんとして痛みを為す者は血実し気滞るなり。又来て後痛む者は気血の虚なり。又久しくして来らず腹脇に塊有りて痛みを為す者は血結ぼれ癥瘕なり。癥瘕と云ふは女の腹の塊積なり。崩漏と云ふは血の多く出る病なり。帯下と云ふは少づつ久しく出るなり。婦人子無き者は気血倶に虚するなり。肥たる人は痰多く身の膩充ちて子宮を塞ぐ。痩たる者は火多く子宮澡いて血なし。

『療治之大概集』婦人門

【意訳】
婦人科
女性は14歳で初潮が来て、男性は16歳で精通する。これらは陰陽の数と一致している。人間に夫婦があるのは天地のようであり、天と地は陰陽和合して男女を生じている。女性はまず月経が安定する必要がある。月経が安定すれば、健康となり妊娠が可能となる。
女性の病の多くは、気が多く血虚するものである。
月経が早く来たり、遅く来たり、出血が多かったり少なかったり、月経が来なかったり、一月に2度来たりするのは、生理不順である。
通常より早く来るのは血が減り、熱がある状態である。
通常より遅く来て、生理痛をおこすものは、血が減り、冷えた状態である。
生理が来るときに痛みがでるのは血が実し、気が滞ったものである。
生理が来た後に痛みがでるのは、気血が虚したものである。
長いこと生理が来ないで、腹の脇に塊ができ、痛みがあるものは、瘀血による癥瘕ちょうかである。癥瘕とは女性の腹にできる塊であり、積の一種である。
崩漏というのは経血が多く出る病である。
帯下というのは長期間少しずつ経血が出続ける病である。
不妊の女性は気血が両方とも虚している。
肥満の人は痰が多く、体に脂肪がたまり、子宮を塞いでしまうことが不妊の原因となる。
痩せた人は火が多く、子宮が渇いてしまい、血がなくなり不妊の原因となる。


産前

【原文】

産前
一、産前には重き物を持たず高き所の物を取らず腹を立てざる者なり。必ず難産すと有り。まづ逆産は足を出し、横産は先づ手を出し、坐産は先づ肘を出す。是皆力を出す故なり。足手先づ出すには手足の内を鍼にて一二分の深さ三つ四つ刺し塩を其の上へ傅る。子痛みを得て軽々と引き入り返り生まるるなり。

『療治之大概集』産前

【意訳】
産前
妊娠中は重たいものを持たないようにし、高いところのものを取らないようにして、腹を立てないようにすべきである。難産の原因となってしまう。
逆産の場合は先に足を出し、横産の場合は先に手を出し、坐産の場合は先に肘を出す。これらは力がある部分が出てくるのである。足や手が先に出てきた場合は、足や手の3~4か所に1~2分程度の深さに鍼を刺し、塩をその上に塗りなさい。子供は痛がり、胎内へ戻り、向きを変えて生まれるものである。


胞衣下りざる事

【原文】

胞衣下りざる事
一、胞衣下りざるは子産み畢つて後血胞衣の中え流れ入て膀れ下りざるなり。
一、子胎内にて死する事有り。早く驚き、或いは強く腰を抱き、荐に捜り診るに因りて胞衣傷れ血燥き涸るるの故に因りてなり。其の證、母の唇舌黒く青きは母子倶に死す。舌黒く或いは腫り悶える事甚だしき時は子死す。能く慎しむべし。

『療治之大概集』胞衣下りざる事

【意訳】
後産がでない場合
後産が出てこないのは、出産後に胞衣に血液が流れこみ、膨張するのが原因である。
胎児が胎内で死んでしまうことがある。ひどく驚いたり、腰を強く抱きすぎたり、過剰な内診によって胞衣が破れ血が不足してしまうことによって起こる。この時、母の唇と舌が青黒いものは、母子共に死亡する。舌が黒もしくは腫れて、酷く苦しんでいる場合は子供が死亡する。用心する必要がある。

【補足説明】
「腰を強く抱き」は、当時は座産であり、出産時に背後から妊婦の腹部を抱いて出産を補助していたようです。その際の圧迫が強すぎることを指していると思われます。


産後

【原文】

一、産後には先づ美酒を熱く燗し幼き児の小便半分雑ぜ杯に一つ飲ませ目を閉がしむ。須叟しばらく坐して床に昇せ高く倚り掛からせ膝を立て仰けに臥さしめ、時々喚び覚しを鼻に傅り、或いは墨にて濯ぎ、漆の干たるを焚け。干たる漆無くしば古き塗物を焚く。手にて胸の頃を捜り臍の下に至りて悪血の滞をざるようにし、斯くの如くすること三日、眩暈血の上る事無し。酒は血を行すと雖ども多くはすべからず。血を引いて足手に入り眩暈意有る者なり。

『療治之大概集』産後

【意訳】
産後(1)
産後、最初に良質な酒を熱燗にして、幼児の尿を半分混ぜて、杯に一杯飲ませて目を閉じさせる。しばらくして寝床に座らせて、寄り掛からせて膝を立て、その後に仰向けに寝かす。時々呼び起こして、酢を鼻に塗るか墨で濯ぎ、乾燥した漆を焚くとよい。乾燥した漆がなければ、古い漆器を焚くとよい。胸辺りから臍の下まで按摩して悪血が滞らないようにすること。3日ほど、この様にすることで、眩暈や、血が上がることががなくなるのである。酒は血をめぐらすが、多く飲ませすぎてはならない。手足に血がめぐれば、眩暈になることはない。

【補足説明】
「江戸時代は出産後7日は眠ってはならなかった」などと言われますが、ここには特に書かれていませんね。


産後

【原文】

一、食脾胃を傷り泄瀉痢疾になりては治え難し。
一、産後母の乳強り塊り散ぜず寒熱痛みを為す者は速やかに揉み散らすべし。乳通じ塊り自ら消るなり。若し消へざれば乳廱と為る。
一、月水通ぜざるには、曲池、三陰交、肘髎、四満、中注、間使、中極、関元。
一、産後臍腹痛み瘀血止まざるには、水分、関元、三陰交。
一、難産分娩せざるには、三陰交、合谷、至陰に灸す。
一、子宮久しく寒て孕む事成り難きには、中極、三陰交、子宮。子宮は中極の旁ら三寸に在り。
一、崩漏、帯下、子無きには、気海、三陰交、地機。
一、難産、子母の心を握って生れざるには、巨闕、合谷、三陰交。
一、胞衣下りざるには、曲骨、腎の兪、崑崙。
一、産後母の乳足らざるには、乳根、章門、絶骨、前谷。
一、産後瘀血出で止まざるには、関元、石門、気海、痛むにも吉し。
一、後腹痛むには、腎の兪、関元、気海。
一、血塊には、中脘、関元、十四の兪。
一、赤帯、白帯には、帯脈、五枢、蠡溝、百会、虚し痩たる人にもよし、腎の兪、同じく、関元、同じく、三陰交、同じく。

『療治之大概集』産後

【意訳】
産後(2)
一、食事によって脾胃を傷り、下痢になってしまうと治りにくい。
一、産後に乳房が強張り、塊があり、寒熱や痛みがある場合は、すぐに乳房をもんで散らす必要がある。こうすると母乳が出るようになり、塊は自然と消失する。塊がなくならない場合は乳廱となる。
一、無月経には、曲池、三陰交、肘髎、四満、中注、間使、中極、関元を使用する。
一、産後、瘀血により臍や腹の痛みがなくならないものには、水分、関元、三陰交をしようする。
一、難産には、三陰交、合谷、至陰に灸をすると良い。
一、子宮が長い間冷えてしまって不妊となっているものは、中極、三陰交、子宮が良い。なお、子宮穴は中極の横三寸にである。
一、崩漏、帯下、不妊には、気海、三陰交、地機を使用する。
一、難産で子が母親の心を握って生れてこないものには、巨闕、合谷、三陰交を使用する。
一、後産が出てこないものには、曲骨、腎兪、崑崙を使用する。
一、産後に母乳の出が少ないものは、乳根、章門、懸鍾、前谷を使用する。
一、産後に瘀血が出て止まらないものは、関元、石門、気海(腹痛があるものにも良い)を使用する。
一、産後、腹が痛むものには、腎兪、関元、気海を使用する。
一、血塊には、中脘、関元、腎兪を使用する。
一、赤帯下や白帯下には、帯脈、五枢、蠡溝、百会、腎兪、関元、三陰交を使用する。百会、腎兪、関元、三陰交、は虚して痩せている人にも良い。


今回はここまでです。

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