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朗読劇用台本「アイオライト」PC推奨ver

  作・清原大夢

【登場人物】


・市原 莉子 (いちはら りこ)
 主人公。映画監督。
・町田 美咲(まちだ みさき)
 元天才子役。アイオライトのヒロイン。
・村岡 優衣(むらおか ゆい)
 莉子の親友。プロデューサー。
・大友 正樹(おおとも まさき)
 莉子と優衣の幼馴染。美咲の相手役。
・中野 愛美(なかの まなみ)
 莉子の担任の先生。美咲の叔母。
・市原 哲也(いちはら てつや)
 莉子の父親。元プロのカメラマン。

あらすじ


高校三年生の三学期に母親との約束を果たす為、映画制作を決意する主人公市原莉子。 目標は、映画祭でグランプリを取る事。

1通学路


莉子「私、映画作る!」
優衣「びっくりした!朝から急に大声出さないでよ」
莉子「ごめん」
優衣「なんで急に映画?」
莉子「昨日、お母さんの部屋を掃除してたら、脚本が出てきたの」
優衣「脚本?莉子のお母さんって専業主婦じゃなかったっけ?」
莉子「あれ?言ってなかったっけ?お母さん。映画監督やってたの」
優衣「初めて聞いたと思う。趣味?」
莉子「ううん。仕事で」
優衣「へー、どんなの作ってたの?」
莉子「『カスタードの恋』とか、『100回目の嘘』とか」
優衣「・・・」
莉子「どうしたの優衣?固まってるよ」
優衣「莉子のお母さんって市原恭子さんだったよね?今言った作品の監督っ  
   て小林敦子さんだった気がするんだけど」
莉子「小林は旧姓で、敦子はお母さんが昔好きだったアイドルの名前なの」 優衣「莉子のお母さんは・・・ほんとに、小林敦子さんなの?」
莉子「そう」
優衣「全然気づかなかった。私『カスタードの恋』超好きでもう20回は見
   てると思う」
莉子「20回!?私よりも見てる」
優衣「今年一番の衝撃だわ〜」
莉子「今年始まったばっかりだよ」
優衣「好きな映画の監督がこんなに身近にいたなんて・・・サインもらっと
   けば良かった。何回も会ってたのに」
莉子「こんな身近にお母さんのファンがいるなんて思ってなかった」
優衣「でも、莉子って映画作った事あるの?映画好きなのは知ってたけど」 莉子「作った事は無いんだ。見る専門」
優衣「じゃあ、なんで?」
莉子「小さい頃にお母さんと約束したの。一緒に映画作ろうって。私は本気
   じゃないと思ってたんだけど、お母さんは本気だったみたい。その脚  
   本に莉子と一緒に作る用ってメモが貼ってあったの」
優衣「お母さんちゃんと準備してたんだ」
莉子「少し前に書いたやつみたいだけど」
優衣「なんてタイトルなの?」
莉子「アイオライトって書いてあった」
優衣「アイオライト?」
莉子「宝石の名前で、石言葉が目標に向かって前進するって意味があるらし
   いの」
優衣「目標に向かって前進するか」
莉子「お父さんに聞いたら、一緒に映画を作るって目標に向かって前進出来
   るように、願いを込めてつけたって言ってた」
優衣「良いタイトルだね。その本って私も読んでいい?」
莉子「もちろん!その本を使って映画を作るんだから、プロデューサーの優 
   衣が見るのは当然でしょ?」
優衣「プロデューサー?・・・私聞いてないよそんな事」
莉子「当然でしょ!今初めて言ったんだから」
優衣「え?私プロデューサーなの?」
莉子「そう、脚本がお母さんで、監督が私。プロデューサーが優衣」
優衣「私、プロデューサーなんてやった事ないんだけど」
莉子「大丈夫だよ!私も監督やった事ないから」
優衣「いや、全然大丈夫じゃないって、そもそも何する人なの?」
莉子「責任者的な立場の人」
優衣「ざっくりし過ぎじゃない?」
莉子「大丈夫だって、大体の事は私がやるから」
優衣「いる?プロデューサー」
莉子「優衣とも一緒に作りたいの。高校最後の思い出に」
優衣「莉子・・・わかった。協力する」
莉子「ほんと!嬉しい」
優衣「親友の頼みは断れないでしょ?進路決まって暇だし、それに、やるっ
   ていうまでしつこく誘うでしょ莉子は」
莉子「さすが、私の事よくわかってる!」
優衣「それで、どうやって作るの映画って」
莉子「調べる!」
優衣「これから?」
莉子「そう」
優衣「卒業まで2ヶ月しかないよ?」
莉子「なんとかなるでしょ!台本あるし、とりあえずお父さんに聞いてみ
   る」
優衣「莉子のお父さん?あー、莉子のお母さんからいろいろ聞いてるからっ
   て事?」
莉子「それもあるし、昔カメラマンやってて、何本か映画も撮ってたみたい
   だから」
優衣「え?莉子のお父さんってカメラマンだったの?」
莉子「私が生まれた時に辞めたんだって。私にはずっと売れないからって言
   ってたけど、多分 お母さんの事を支える為に辞めたんだろうなって思
   ってる」
優衣「さすがにもう驚かないわ」
莉子「とりあえず、今日学校終わったら私の家で作戦会議しよ。授業中にい
   ろいろ調べとく」
優衣「わかった。私もちょっとプロデューサーの仕事について調べとく」
莉子「よろしく!じゃあ、また後でね〜」
優衣「はーい」

莉子「(ナレーション)この映画制作が私の人生を大きく変える事になる。
   でもこの時はまだ気づいていな い」

2莉子の家

優衣泣いている

莉子「優衣大丈夫?」
優衣「だって、最高なんだもんこの本」
莉子「良かった。面白くないって言われたらどうしようかと思った」
優衣「なんか、やる気出てきた」
莉子「ほんと?」
優衣「うん。観てみたい。この本の映画を」
莉子「良かった〜。それでね、私目標を決めたの」
優衣「目標?」
莉子「映画祭でグランプリを取りたい」
優衣「いいね!でも映画祭って誰でも出せるの?」
莉子「割と出せるみたい。映画祭によって条件は違うけど」
優衣「へー、そうなんだ。でもこの本なら取れそうじゃない?グランプリ」 莉子「でしょでしょ!それにせっかくなら、沢山の人に観てもらいたいじゃ
   ん!」
優衣「そうだね、観て欲しい」

ノックの音

哲也「莉子、入るぞ」
莉子「はーい」
哲也「あ、優衣ちゃん。いらっしゃい、久しぶりだね」
優衣「お邪魔してます」
莉子「今日も定時で帰ってきたの?」
哲也「定時なんだから帰ってくるだろ」
莉子「残業しなくていいの?」
哲也「時間内に仕事を終わらせた方が優秀なんだよ。それより莉子の方こそ
   こんな時間に帰って来てるなんて珍しいな」
莉子「優衣と作戦会議中なの」
哲也「作品会議?戦でもするのか?」
莉子「いや、戦国時代じゃないんだから。映画制作の打ち合わせ」
哲也「映画!?莉子が?」
莉子「お母さんの台本使って映画作るの。約束してたし」
哲也「あー。優衣ちゃんも一緒に作るの?」
優衣「はい。プロデューサーに任命されちゃいました」
哲也「プロデューサーか、また莉子が強引に引っ張り込んだんだろ?ごめん
   ね優衣ちゃん」
優衣「いえ、素敵な台本だったんで、すごいやる気が出ちゃいました!」
哲也「それは嬉しいね。その台本実は、妻の恭子が、小林敦子って名前で書
   いたんだよ」
莉子「お父さん、それ私が朝話した」
哲也「あ、そうなのか。それにしても懐かしいなー。いつか莉子と作るんだ
   って言って、仕事の時よりも楽しそうに書いてた本だ」
莉子「だから作るの。お母さんの台本で私が監督になって、優衣がプロデュ
   ーサーで、お父さんがカメラマンで・・・」
哲也「ん?ちょっと待て。今、しれっと俺の名前が入ってなかったか?」
莉子「うん。お父さんにはカメラマンとして参加してもらうの」
哲也「決定なのか?」
莉子「決定!」
優衣「おじさん、私もこんな感じでした」
哲也「そんなところまで恭子に似なくても良かったのに。カメラマンって言
   っても辞めてからもう10年以上経つぞ」
莉子「全くの素人よりは上手いでしょ?」
哲也「そりゃそうだけど、機材とかも全部売っちゃったしな」
莉子「買い直したらいいじゃん」
哲也「そんな簡単に言うなよ」
優衣「私の家にあるカメラ使いますか?」
哲也「え?優衣ちゃんカメラ持ってるの?」
優衣「父が集めてるんです。でも、本人は観賞用って言ってました。使って
   る所なんて一回も 見た事ないです。だから、使っても大丈夫です!」 哲也「それはもったいない!でも、いくら観賞用だからといっても、借りる
   のは申し訳ない な」
優衣「良いんです!資金や機材を用意するのもプロデューサーの私の仕事で
   すから。逆に言え ばそれぐらいしか協力出来ないんですけど」
哲也「・・・」
莉子「お父さん、優衣もこう言ってる事だし借りちゃおうよ」
哲也「ほんとに良いの優衣ちゃん」
優衣「はい。帰ったら莉子にどんな種類のカメラがあるか連絡します。どの
   カメラがいいのか私にはさっぱりわからないんで」
莉子「ありがとう、優衣」
哲也「それじゃ、お言葉に甘えようかな。お礼も兼ねて直接伺ってお借りし
   に行くよ」
優衣「大丈夫ですよ。うちの父はそういうの気にしないんで」
哲也「いや、そこはちゃんとしておかないと」
莉子「私も一緒に行く。監督だから」
優衣「伝えておきます」
哲也「まあ、娘が監督で妻の脚本の映画撮るって言ってんのに、父親の俺が
   協力しないわけにはいかないか。でも、仕事があるから平日の遅い時
   間か土日しか協力出来ないぞ」
莉子「お父さんそれで十分だよ。私達も平日は学校あるし」
哲也「あ〜、それもそうだな」
優衣「でも、私達ほとんど登校日無いよ」
莉子「あれ?そうだっけ?」
優衣「そうだよ、ほとんど自由登校だし」
莉子「そっか」
哲也「まあ、いろいろ決まったら教えてくれ、有給も少しはあるから早めに
   言えば仕事休める し」
莉子「わかった、ありがとうお父さん」
優衣「ありがとうございます」
哲也「それよりも、夜ご飯何にする?もし食べて行くなら優衣ちゃんのリク
   エストを聞くよ。 なんでも言って」
優衣「あ、いえ私は・・・」
莉子「食べてきなよ!むしろ明日休みなんだから泊まりでいいじゃん。いい
   よね、お父さん」
哲也「俺は別に構わないけど、でも優衣ちゃんの都合もあるだろ?」
莉子「優衣ダメ?」
優衣「お父さんに一応連絡してみるけど、多分大丈夫だと思う」
莉子「ほんと?じゃあ、これで朝まで作戦会議出来るね」
優衣「朝までやるの?」
哲也「ほどほどにしておけよ。体調管理も映画制作においては重要な事だ
   ぞ」
莉子「はーい。優衣カレーでいいよね?」
優衣「え?うん」
莉子「お父さん、シーフードカレー」
哲也「俺は優衣ちゃんに聞いたんだけどな。優衣ちゃんアレルギーとかあっ
   たっけ?」
優衣「大丈夫です。なんでも食べられます」
哲也「良かった。じゃあ、気合入れて作りますか!出来たら呼ぶからな」
莉子「はーい」
優衣「ありがとうございます」

哲也が部屋を去る

莉子「ありがとね、カメラ」
優衣「まだ、連絡してないけど、プロだったおじさんに貸すなら絶対OKだ
   よ。むしろ無理やりにでも借りる。それよりも問題なのは出演者じゃ
   ない?あの脚本、最低でも5人は必要だよね?それに、ヒロインの女
   の子の出番めちゃくちゃ多いからある程度は演技経験のある人じゃな
   いと厳しい気がする」
莉子「ヒロインはもうお願いする人決まってるの」
優衣「あ、そうなの?誰?」
莉子「同じクラスの町田美咲さん」
優衣「え?あのいつも1人でいる子?仲良かったの?」
莉子「ううん。挨拶ぐらいしか話した事ない」
優衣「なんで、その人がヒロインなの?」
莉子「あの人実は元天才子役なんだよ」
優衣「え?そうなの?」
莉子「小5の時に引退したらしいけど、相沢美香って名前で活動してたみた
   い」
優衣「知ってる!カスタードの恋に出てた、ヒロインの幼少期役の子だ」
莉子「そう、撮影現場でお母さんと一緒に写ってる写真があったから、間違
   いないと思う」
優衣「でも、出てくれるかな?喋った事無いんでしょ莉子」
莉子「大丈夫じゃない?お母さんの書いた台本あるし。もう進路も決まって
   るみたいだから時間あるでしょ?」
優衣「またそうやって勝手に決めつけて、忙しいかもしれないじゃん」
莉子「大丈夫だって!さっそく月曜日にお願いしてみる」
優衣「ほんとに大丈夫かな・・・」

莉子「(ナレーション)アイオライトは脚本、監督、プロデューサー、カメ
   ラマン、そしてヒロインが決まって、順調なスタートを・・・」

3学校

美咲「断る」

莉子「(ナレーション)切れなかった」

美咲「じゃあね」
莉子「ちょっと待って!理由は?」
美咲「初めて喋った人に映画出てくださいって言われて、わかりましたって
   返事すると思う? バカなのあんた」
莉子「バカって・・・確かに、初めて喋るし、素人だけど。本はプロの監督
   が書いた物だし」
美咲「本は問題無い。とても面白かった。あの小林敦子さんが書いた本なら
   当然だけど」
莉子「じゃあ・・・」
美咲「あんた、映画作った事無いんでしょ?」
莉子「無いよ」
美咲「映画って素人が簡単に作れるもんじゃないから、なめないでくれる」 莉子「別にそんなつもりは」
愛美「あら、こんな所で喧嘩?」
莉子「中野先生」
美咲「喧嘩なんてしてませんよ。おばさん」

美咲が立ち去る

愛美「ちょっと町田さん、学校でおばさんって呼ばないでっていつも言って
   るでしょ」
莉子「中野先生って町田さんにおばさんって呼ばれてるの?」
愛美「私の姉の娘なの。だから美咲は姪っ子。こっちは気を遣って苗字呼び
   してるって言うのに」
莉子「あー、叔母って事ですか」
愛美「叔母さんって音だけじゃわからないから呼ばないでって言ってるんだ
   けどねー。まあ、 あなた達にしてみたらもう私なんておばさんなんだ
   ろうけど、でも私だって昔 は・・・」
莉子「昔は?」
愛美「いや、何でもない。そんな事より、何を揉めてたの?」
莉子「・・・断られちゃったんです」
愛美「何を?」
莉子「映画のヒロイン役をお願いしたんですけど、素人が作るもんじゃない
   って、なめないでくれるって言われちゃいました」
愛美「相変わらずきつい言い方するんだから・・・市原さん映画作るの?」 莉子「はい。お母さんと約束してて」
愛美「お母さんとの約束?」
莉子「いつか一緒に、映画を作るっていう約束です。この前、映画監督だっ
   たお母さんの書いた脚本を見つけたんです。事故で死んじゃったか
   ら、もう一緒には作れないけど、その本を使えば、一緒に作る事にな
   るかなって」
愛美「なんか素敵ね、その話。でも、市原さんのお母さんが映画監督だった
   なんて知らなかっ た」
莉子「小林敦子って名前で活動してて、『カスタードの恋』とか『100回
   目の嘘』とかの監督してたんです」
愛美「・・・・」
莉子「先生?」
愛美「私、『100回目の嘘』の大ファンなの!えー、何回も会ってたの
   に〜」
莉子「身近なファン二人目」
愛美「美咲のヒロインの件、私に任せてもらっても良い?」
莉子「え?」
愛美「説得してみる」
莉子「良いんですか?」
愛美「私も何か協力したいの。大ファンだった監督が親子で作る為に、書い
   た本でしょ?観てみたいもん、その映画」
莉子「ありがとうございます!あの、一つ聞いても良いですか?」
愛美「何?」
莉子「町田さんはなんで女優辞めちゃったんですか?」
愛美「私も詳しい事はわからないんだ。でも、一つだけわかってる事は、お
   芝居が嫌になって辞めたわけじゃないって事。本人が昔そう言ってた
   から、間違いない」
莉子「そうなんですね」
愛美「ここからは私の予想なんだけど、好きだからこそ辞めたんじゃないか
   って思ってる」
莉子「好きだからこそ?」
愛美「純粋にお芝居が好きだから、中途半端になるのが嫌だったんだと思
   う」
莉子「中途半端・・・」
愛美「私も映画についてはあんまり詳しくないけど、本気だったら良い作品
   が作れると思うよ。例え、素人が初めて作る映画でも」
莉子「本気・・・」
愛美「そう、本気!市原さんなら出来ると思うけどな」
莉子「頑張ります!」

莉子「(ナレーション)その日から一週間、私は映画制作について勉強し
   た。食事の時間も化粧の時間も寝る 時間も削って沢山の映画を観て、
   本を読み漁って、リベンジの時に備えて、ある物を作り上げた」 

4学校


愛美「美咲ちゃん!」
美咲「学校ではそうやって呼ばないんじゃなかったの?」
愛美「今は、二人だから良いの。それに叔母さんって呼んでるあんたには言
   われたくない」
美咲「何の用ですか?私忙しいんですけど」
愛美「嘘言わないの。毎日帰って来たら、リビングでぼーっとしてるって姉
   さんが言ってたよ」
美咲「・・・」
愛美「どう思ったの?ヒロインに誘われて」
美咲「あの子に頼まれたの?」
愛美「自分から言ったの、説得するって」
美咲「なんで?」
愛美「だって、あの小林敦子大監督の未発表の作品だよ。観たいじゃん!市
   原さんしか作れないと思うし」
美咲「嫌なの、中途半端な人が作る作品に出るのは。許せないの」
愛美「彼女は本気になれる人だと思うけどな〜。市原さんね一年生の時、ク
   ラスで最下位の成績だったんだよ」
美咲「最下位?帝館(ていかん)大学に受かってなかったっけ」
愛美「受かってる。本気で勉強してたからね。でもあんた、良く知ってた
   ね?他の人に興味無いって感じなのに」
美咲「帝館受ける人が珍しかったから覚えてただけ」
愛美「ほんとは気にしてたんじゃないの?知ってたんでしょ?彼女が小林監
   督の娘だって」
美咲「・・・」
愛美「わかりやすいんだから」
美咲「小林監督から聞いてたの。莉子って娘がいる事を。監督から送られて
   くる手紙には本名の市原恭子って書いてあったから、同じクラスにな
   った時にすぐにわかった」
愛美「なるほどね〜」
美咲「だからこそ、許せなかった。映画と真剣に向き合って、本気で映画を
   作ってた小林監督の子供があんな軽い感じで作ろうと思ってるなん
   て」
愛美「あれから、一週間たったよ」
美咲「それが何?」
愛美「本気になれる人間は、一週間で別人に変身する」
美咲「変身?」
莉子「町田美咲さん!アイオライトのヒロイン引き受けて頂けませんか!」 愛美「ほら来た」
美咲「声が大きい」
莉子「一週間映画について、勉強しました。目標は映画祭でグランプリを取
   る事です」
美咲「勉強したから何?私は知識の無さを指摘したんじゃないの。経験の無
   さを指摘したの」
莉子「作って来ました」
美咲「何を?」
莉子「映画です」
美咲「はあ?」
莉子「納得してもらうには、作品を見せるのが一番だと思って、5分の短い
   やつだけど・・・ これで判断して欲しい」
美咲「・・・」
愛美「見るだけ見たら?」
美咲「・・・見せて」

莉子「(ナレーション)人生で、一番長い5分間。逃げ出したくなるのを必
   死に我慢して、ヒロインが観終わるのを待った」

美咲「・・・」 
莉子「どうだった?」
美咲「編集がダサい、音楽がありきたり、何を伝えたいのかいまいちわから
   ない。役者の芝居も下手くそ、とても人に見せるもんじゃない」
愛美「ちょっと言い過ぎじゃない?」
莉子「良いんです先生。町田さんが言ってる事は間違ってないと思うから」 愛美「市原さん」
莉子「私、後悔はしてません。本気でやりましたから。失礼します」
美咲「誰もやらないとは言ってないんだけどヒロイン」
莉子「え?今なんて?」
美咲「今は酷い動画だけど、小林敦子さんの本と、私の芝居があれば最低限
   人に見せられる物は作れる。それにカメラワークだけは合格点だし」 愛美「確かに見やすかったね。誰が撮ったのこれ?」
莉子「父です。昔、カメラマンやってたので」
愛美「なるほど、だからか」
美咲「明日、台本のコピー貰える?一日でも早く、あの世界で生活したいか
   ら」
愛美「生活?どういう事?」
美咲「おばさんは知らなくて良いの」
愛美「だから、叔母さんって言うな」
莉子「わかった。持って来る。ありがとう」
美咲「別に、本が良かっただけ。じゃあね」
愛美「素直じゃないんだから」
莉子「先生、ありがとうございました」
愛美「何にもしてないよ」
莉子「そんな事無いです」
愛美「でも、良かったね。本気が通じて」 
莉子「はい!」
愛美「映画か〜。青春だね〜。微力だけどこれからも協力するから、何でも
   言ってね」
莉子「ありがとうございます!じゃあ、早速良いですか?」
愛美「いいよ〜!」
莉子「学校で撮影が出来るように、校長先生を説得して・・・」
愛美「それは無理!」
莉子「あ、そうですよね・・・」

莉子「(ナレーション)そう上手くはいかない物である」

5莉子の家



優衣「ヒロイン決まったの?」
莉子「そう、町田さんが引き受けてくれるって。明日、台本のコピー持って
   く」
優衣「そっか、一歩前進だね」
莉子「動画作るの協力してくれてありがとう優衣」
優衣「私は、カメラを貸して欲しいってお父さんに伝えただけ」
莉子「カメラが無かったら撮れてなかった。うちのお父さんもこんな良いカ
   メラで撮れて嬉しいって喜んでた」
優衣「おじさん楽しそうだったよね〜。それに、本物って感じがした」
莉子「町田さんもカメラワークは合格点だって、それを伝えたら超喜んで
   た」
優衣「おじさん可愛い」
莉子「ここまでは良い報告ね。こっからは悪い報告」
優衣「うん」
莉子「学校で撮影する許可が取れなかった」
優衣「やっぱりダメだったか〜」
莉子「うん。部活動ならまだしも、個人で使う事には許可出来ないって」
優衣「まあ、そうだよね〜。しかも映画祭に出す作品だし」
莉子「だから、他のロケ地を探さないといけないんだけど、なかなか良い所
   が見つからなく て」
優衣「良い感じの学校が無いって事?」
莉子「ううん。学校で撮るのは諦めた」
優衣「え?そうなの?でも、この映画って学生メインの話でしょ?」
莉子「そうなんだけどね、借りるのに結構お金かかるんだ」
優衣「どれくらいかかるの?」
莉子「場所にもよるけど、最低でも一時間五千円くらいかな。学校全体を貸
   し切ったとしたら 一時間で二万円」
優衣「結構するんだね」
莉子「ずっと使わずに貯めといたお年玉も、パソコンとか編集ソフト買うの
   に使っちゃったからもうなくてさ」
優衣「そうなんだ・・・」
莉子「それ以外にもやる事は沢山あるのに!キャストもまだ一人しか決まっ
   てないし、スタッ フさんだって雇わないといけないだろうし・・・ど
   うしよっかな〜」
優衣「・・・私が何とかする」
莉子「え?」
優衣「資金を調達するのも、プロデューサーの仕事でしょ?」
莉子「そうだけど、でも・・・」
優衣「どれぐらい必要?」
莉子「わからない。5分の動画作るのにも沢山撮影したから、数日おさえる
   って考えると結構かかっちゃうと思う。一つの教室だけで撮影する日
   とかを作れば、おさえられるけど」
優衣「30万円ならなんとか出来ると思う」
莉子「30万円!?そんな大金大丈夫なの?」
優衣「お父さんに頼んでみる」
莉子「でも・・・」
優衣「莉子が本気だって事、あの動画を見たらわかる。それに、撮影してる
   時の莉子は凄く楽 しそうで、キラキラしてた」
莉子「・・・」
優衣「私が力になれるのは、お金ぐらいだから。私頑張るよ」
莉子「優衣・・・私も、バイトして・・・」
優衣「しなくて良い。莉子にとって残された時間は映画の事だけに集中する
   べき。莉子が勉強すれば、その分撮影時間も短くなって、お金もかか
   らなくなる。そうじゃない?」
莉子「それはそうだけど」
優衣「キャストも決まってないし、スケジュールも組んでないし、絵コンテ
   も書いてない。そ んな状況でバイトなんかしたら莉子は絶対に倒れ
   る。おじさんも言ってたでしょ?体調管理も重要だって」
莉子「・・・」
優衣「私に任せて!莉子は自分の出来る事を本気でやって、お母さんとの約
   束を果たすの。そして絶対グランプリ取ろう!」
莉子「絶対取る!」
優衣「うん!とりあえず先に出演者を決めなきゃね。ロケ地を確保するだけ
   じゃ、映画は撮れ ないし」
莉子「そうなんだよね〜。でも、殆どの人が進路決まってないから、協力し
   てくれる人がいな くてさ」
優衣「まあ、そうだよね〜」
正樹「俺が協力してやろうか!」
優衣「正樹、いつからいたの?」
正樹「ヒロインが決まったの?って所ぐらいから、途中トイレ行ってたけ
   ど」
莉子「ほとんど聞いてたってことね」
優衣「何しに来たの?」 
正樹「借りてたDVDを返しに来たんだよ」
莉子「DVD?」
正樹「ほら、エーデルシュタインカレッジのテンが出てたやつ」
莉子「あー、貸してたねそういえば」
優衣「エーデルシュタインカレッジ?何それ?」
正樹「アイドルグループだよ、知らないのか?」
優衣「興味ない」
莉子「でもこれ貸したの結構前じゃない?なんで今?」
正樹「昨日、引越しの準備してたら出てきたんだよ」
優衣「あんた引っ越すの?」
正樹「大学が大阪だからな、引っ越し自体は3月下旬だけど、今のうちにや
   っとけって母さんが」
優衣「ギリギリになって慌てるのが目に見えてるもんね、あんたは」
正樹「うるせえよ」
莉子「なんか、寂しくなるね」
正樹「そうだよな〜、幼馴染が遠くに行っちゃうってのは寂しいもんだよ
   な」
優衣「私は全然」
正樹「おい」
莉子「あ、そんな事より協力するってどう言うこと?」
正樹「そんな事って・・・映画の出演者集めてんだろ?出てやろうと思っ
   て」
莉子「え?」
優衣「あんた、演技なんて出来るの?」
正樹「これでも、高校三年間演劇部だったんだぞ」
莉子「知らなかった」
正樹「言ってなかったからな」
優衣「なんで黙ってたの?」
正樹「恥ずかしかったから」
優衣「何その、普通の理由」
正樹「普通で悪いかよ」
莉子「出演者が決まるのは嬉しいんだけど」
正樹「だけどなんだよ」
莉子「いや、なんでもない。お願いしても良い?」
正樹「おう!任せろ」
優衣「ほんとに出来るんでしょうね?」
正樹「任せろって言ってんだろ!それよりも、莉子ってパソコン持ってたっ
   け?」
莉子「最近買ったの、映画の編集するのに」
正樹「マジかよ!超本格的じゃん。え?結構ガチな感じのやつ?」
優衣「ガチ以外何があるの?」
正樹「いや、もっとゆるっとしたやつかと」
優衣「莉子、こいつ外した方がいいかもよ」
莉子「うーん」
正樹「冗談だって!ガチでやるよ!幼馴染が困ってんだ、力を貸さないわけ
   にはいかないだ ろ」
莉子「正樹」
優衣「まあ、台詞を忘れる心配はなさそうね。昔から無駄に記憶力だけはい
   いから」
正樹「無駄にってのは余計だ。褒められてる気がしない」
優衣「褒めてはない。独り言」
正樹「素直じゃねえな〜」
莉子「ありがとね。正樹。これ、台本のコピー。先に渡しとく」
正樹「おう、ありがとう・・・え?小林敦子ってあの?なんでこんな本持っ
   てんだよ」
莉子「小林敦子は私のお母さんが監督の時に名乗ってた名前なの」
正樹「え!?おばさんって専業主婦じゃなかったのか!?」
優衣「それもう良いよ、聞き飽きてるから」
正樹「いや、驚かせろよ。今年一番の衝撃だわ」
優衣「なんか、複雑なんですけど」
正樹「何が?」
莉子「優衣もこの話聞いた時に同じ反応してたの」
優衣「莉子、言わないで」
莉子「ごめん、つい」
正樹「つまり、同レベルってことだ」
優衣「違うから、もう用は済んだでしょ?帰りなよ」
正樹「冷たいこと言うなよ、優衣」
哲也「今日はやけに賑やかだな〜。おー、正樹くん久しぶりだな」
正樹「お久しぶりです。おじさん。おばさんってあの小林敦子だったんです
   か?」
哲也「正樹くん、顔が近いよ。それに、唾も飛んでるよ」
正樹「すいません。興奮しちゃって」
莉子「お父さん、正樹が出てくれる事になった」
哲也「ほんとか?正樹くん演技出来たのか?」
正樹「高校三年間演劇部でした」
哲也「そうだったのか、知らなかったな」
正樹「誰にも言ってませんでしたから」
哲也「なんで?」
優衣「おじさん、そのくだりさっきやったからもうやらなくて大丈夫です
   よ」
哲也「そうなのか」
莉子「お父さん、これから作戦会議するから、2人にして欲しい」
正樹「しれっと、俺も外されたな今」
哲也「前にも言ったけど、あんまり無理するんじゃないぞ」
莉子「わかってるって」
正樹「おじさん、おばさんの事もっと詳しく聞きたいです!俺、小林敦子監
   督の大ファンだったんです」
哲也「そうだったのか、良いよ、なんでも話してあげる。正樹くんはコーヒ
   ー飲める?」
正樹「飲めますよー、もう子供じゃないんでー」
哲也「成人してないから、まだ子供だろ〜」
正樹「いや、それはそうですけど、そう言う事じゃないでしょ」

哲也と正樹が部屋から出ていく

優衣「初めて聞いたんだけど、正樹が小林監督のファンだったなんて」
莉子「多分、お母さんが監督した映画にエーデルシュタインカレッジのテン
   が出てたからだと 思う」
優衣「あー、なるほどね。でも、大丈夫なの?ヒロインの相手役があいつ
   で」
莉子「最低限、相手役が決まってれば撮れるから、早く決めておきたくて」 優衣「まあ、無駄にビジュは良いからなんとかなるか。自称演劇部だし」
莉子「うん。他のキャストも今週中には決められるように声かけてみる。部
   活に入ってない後輩なら出てくれる人いるかもだし」
優衣「一般の人に声をかけてみるのはどう?」
莉子「一般の人?」
優衣「そう、普通に役者として活動してる人。SNSとか使えば集められそ
   うじゃない?」
莉子「全然考えてなかった」
優衣「どっかの学校を借りて撮るんならアリかなって」
莉子「確かに、勢いで決めちゃったけど、よく考えたら正樹も他校だし」
優衣「そうだよ、役者になりたいって思ってる人も絶対いるだろうし。そっ
   ちでの役者集めは私がやっとく」
莉子「ありがとう。正直、SNSとかは苦手で・・・」
優衣「わかってる。莉子は直接、私はネットで。出演者揃えよう!期限は1
   週間でいい?」
莉子「うん!頑張る!」

莉子「(ナレーション)あっという間に1週間が過ぎた。優衣が台本の一部
   を公開して募集した事で、すぐに出演者が集まり、中にはエキストラ
   でも良いから出して欲しいと言う人まで現れた。ネ ットの力、そして
   お母さんの本の力は偉大だ。それからは怒涛の日々を過ごした。食事
   の時間も化粧の時間も寝る時間も削って準備をした。そして、いよい
   よ撮影当日を迎え る」

6撮影現場の学校

哲也「カメラ回りました」
莉子「では行きます。シーン12カット8テイク1。本番、よーいスター
   ト」
美咲「絶対に負けられない。ここで私が負けたら、ここまでの頑張りが全部
   無駄になる。集中しろ私、大丈夫。今までの練習の日々を思いだ
   せ!」
莉子「カット!チェックしまーす」
優衣「お水いりますか?」
美咲「ありがとう」
莉子「オッケー!シーン12埋まりです!少し予定より早いんですけど、一
   時間のお昼休憩に します!」
美咲「監督、集中したいんで車にいても良いですか?」
莉子「はい。時間になったら呼びに行きます」
美咲「あ、自分で管理出来るんで大丈夫です。じゃ」

美咲立ち去る

莉子「ごゆっくり」
優衣「莉子」
莉子「ん?どうした?」
優衣「正樹が電話に出ないの」
莉子「え?」
優衣「起きたら連絡するようにって言ってたんだけど、全然連絡なくてさ」 莉子「予想して優衣が入り時間遅く設定してたのに、それ以上に寝坊すると
   は」
優衣「あいつの寝坊癖は病気だからね。私、迎えに行ってくる。今から行け
   ばあいつの出番までには戻って来れると思うから」
莉子「気をつけてね」
優衣「うん。莉子もしっかり食べて、休憩するんだよ。昨日寝てないんでし
   ょ?」
莉子「バレた?」
優衣「化粧濃くしても誤魔化せないよ。むしろ不自然」
莉子「そうだよね〜」
優衣「じゃあ、行ってくる。あのバカ起こしたら一応連絡するね」
莉子「うん。よろしく!」

優衣立ち去る。

莉子「なんとかなるか」
愛美「おはよう。市原さん。休憩中?」
莉子「中野先生!おはようございます。今、ちょうどお昼休憩に入ったとこ
   ろです」
愛美「そっか、じゃあタイミングばっちりだったわけだ」
莉子「来てくれると思いませんでした」
愛美「教え子達が頑張ってるんだもん!来ないわけにはいかないでしょ〜。
   力になれるのは差し入れぐらいだけど」
莉子「すごい嬉しいです。みんなで頂きます」
愛美「沢山買ってきたから、いっぱい食べてね」
莉子「ありがとうございます」
愛美「撮影は順調?」
莉子「準備に手間取って撮影開始時間は遅れたんですけど、町田さんが全部
   一発OKなんで、 めちゃくちゃ順調です」
愛美「やっぱり好きなのね、演技が。それでその優秀な本人はどこに?」
莉子「車にいます。集中したいって」
愛美「そういうところは、相変わらずなのね〜。集中も大事だけど、みんな
   とコミュニケーシ ョンを取るのも大事な事でしょ、まったく」
莉子「良いんです。美咲さんが一番やりやすい環境で演技をしてもらうのが
   一番だと思ってるんで、それにその方が良い作品に仕上がる気がする
   し」
愛美「そっか、じゃあ挨拶するのはやめとくか」
莉子「一応聞いてみます」
愛美「いや、大丈夫。拒否されてもへこむし」
莉子「そうですか」
哲也「莉子、飯何が良い?お父さん、買ってくるぞ」
莉子「私も行くよ」
愛美「ご挨拶遅れてしまい申し訳ありません。私、莉子さんの担任をしてお
   ります。中野愛美と申します」
哲也「先生でしたか、莉子の父です。いつも、娘がお世話になっておりま
   す。学校関係の事は、全て妻に任せていたので、ご挨拶が遅れてしま
   い、大変失礼致しま・・・あれ?先生どこかでお会いした事ないです
   か?」
愛美「え?・・・失礼ですが、お名前は?」
哲也「名前?今回カメラマンを担当しております。市原哲也と申します」
愛美「カメラマンの市原哲也さん・・・私は会った事がないですね」
莉子「ちょっと、お父さん。ナンパみたいな事するのやめてよ」
哲也「ナンパじゃないよ。あ、思い出した確かミス・・・」
愛美「お父様!莉子さんの事で少しお話があるんですけど、お時間少しいい
   ですか?」
哲也「え?ああ、構いませんけど」
莉子「それって、私はいない方が良いですよね?」
愛美「そうね〜、その方が良いかもしれない。せっかくだから皆さんに差し
   入れ配ってきたら?」
莉子「はい。そうします」

莉子が立ち去る

愛美「ミスヤマネコの時は大変お世話になりました」
哲也「あ、やっぱり。そうですよね〜」
愛美「その事は学校には内緒にしてるんで、絶対に言わないでください」
哲也「あ、はい。わかりました」
愛美「絶対にですからね。約束ですからね。絶対に破らないでくださいよ」 哲也「先生、顔が近いです。そして、大変言いにくいんですが唾が飛んでい
   ます」
愛美「それは、失礼しました」
哲也「でも、驚いたな〜」
愛美「私もです。まさか、私の唯一の水着グラビアを撮影したカメラマンが
   莉子さんのお父さんだったなんて」
哲也「嫌そうな顔してたからよく覚えてますよ」
愛美「事務所から無理やり受けさせられたんです」
哲也「そうでしたか、でもそれで優勝して、ミスヤマネコになれるのはすご
   いと思いますよ」
愛美「20人ぐらいしか参加してませんでしたから、たいした事じゃないで
   すよ」
哲也「それでも凄いですよ。19人は落ちたわけだから」
愛美「まあ、そうですけど」
哲也「それにしても、私の最後の仕事だった撮影のモデルさんと、こうした
   形で出会う事になるとは、世間は狭いですね〜」
愛美「ほんとですね〜。じゃあ、私はこの辺で」
哲也「帰っちゃうんですか?」
愛美「はい。学校に戻らないといけないので、頑張ってって伝えといてくだ
   さい」
哲也「わかりました。お忙しいところ、差し入れまでして頂き、本当にあり
   がとうございまし た」
愛美「いえいえ、完成を楽しみにしています」
哲也「はい」
愛美「くれぐれも、私がグラビアをやってた事は他言無用で。バラしたら何
   をするかわかりませんよ」
哲也「目が怖いです先生」
愛美「本気度が伝わればと思って」
哲也「すごく伝わっていますよ。たとえ、拷問されても口を割りません」
愛美「その言葉忘れないでくださいよ〜」

愛美立ち去る

哲也「ほんとに怖かったな・・・」
莉子「終わった?」
哲也「ああ、終わったよ」
莉子「先生なんて言ってた?」
哲也「莉子が優秀だって話だよ」
莉子「絶対嘘だ、そんな雰囲気には見えなかったけど」
哲也「嘘じゃないよ、それよりもお昼食べに行こう。お父さんお腹すいた」 莉子「そうだね。私もお腹すいた」
哲也「下のラーメン屋行ってみるか?」
莉子「ラーメンの気分じゃない。中野先生なんで帰っちゃたの?」
哲也「学校に戻るんだってさ、先生も大変な仕事だな。休日まで職場に行か
   ないといけないんだから」
莉子「そうだね〜。その分お父さんはきっちり週休2日だもんね」
哲也「ダメみたいな言い方するなよ。それにしても、あの相澤美香が莉子と
   同じクラスだったなんてな」
莉子「私も、お母さんと一緒に写ってる写真見なかったら気づかなかった」 哲也「引退した俺が、あの天才子役を撮影出来る日が来るなんて、まだ信じ
   られないよ。ありがとな莉子」
莉子「お礼を言うのはこっち、お父さんのカメラワークがなかったら断られ
   てたかもしれない」
哲也「腕が鈍ってなくて良かったよ。それに、村岡さんにも感謝だ。こんな
   カメラはプロでも持ってる人はそうそういない。手入れも丁寧にされ
   ているし、レンズも沢山ある。思う存分力を震え・・・どうした莉
   子?」
莉子「靴紐が切れた」
哲也「切れた?その靴この前買ったばかりだろ?不良品だったんじゃないの
   か?」
莉子「そんなはずはないと思うけど、ちゃんと履いて確かめたし」
哲也「なんか、凄い切れ方してるな」
莉子「私も初めてみたこんな切れ方」

莉子「(ナレーション)この時はまったく気づいてなかった。まさか、あん
   な事になるなんて」

7撮影現場の学校

〜時間経過〜

哲也「まだ、繋がらないのか?」
莉子「うん・・・」
美咲「先に、明日の予定だった私1人のシーンを撮りませんか?このまま何
   もしないで時間を無駄にするのも、もったいないんで」
哲也「そうだな。莉子、そうしよう」
莉子「わかりました」
美咲「じゃあ、着替えてきます」
莉子「お願いします」
哲也「心配だな。でも、このまま時間が過ぎれば撮り終わる事が難しくな
   る。今は撮影に集中 しよう」
莉子「うん。そうする」

莉子「(ナレーション)町田さんは全ての撮影で一発OKを出し、たった一
   時間で撮影出来るシーンを終わらせてしまった」

莉子「カット!チェックOKで休憩に入ります!」
正樹「すいませーん。ほんとにすいませーん!」
莉子「正樹!」
正樹「ほんとにごめん。昨日興奮して寝れなくて、そのまま起きてようと思
   ったんだけど、いつの間にか落ちてて・・・」
莉子「優衣は?」
正樹「優衣が、どうかしたのか?」
莉子「正樹を迎えに行ったでしょ?」
正樹「は?来てないけど」
莉子「途中でも会わなかったの?」
正樹「会ってないよ」
莉子「そんな・・・」

莉子が電話をかける

莉子「出ない・・・私探してくる」
哲也「待ちなさい莉子。今日の残りの撮影はどうするんだ?」
莉子「そんな事より、優衣が心配なの」
哲也「そんな事ではないだろ、お前が始めた映画制作だ。責任を持って今日
   の撮影中止を全員に説明してきなさい。優衣ちゃんはお父さんと正樹
   くんで探すから。いいね」
莉子「・・・はい」
哲也「正樹くんは駅前の交番に行って一緒に探してもらって、私は車を使っ
   て探すから」
正樹「わかりました」
哲也「莉子、しっかりしなさい。優衣ちゃんは大丈夫だから」
莉子「・・・うん」

莉子「(ナレーション)撮影初日。プロデューサーの行方不明という緊急事
   態により、撮影は中止。明日以降の撮影を行うかどうかは、また改め
   て連絡するといった内容を私が一人一人、丁寧に説明して回った」

8病院

莉子「お父さん!正樹!優衣は?」
哲也「寝不足による過労だそうだ。道で倒れてここに運ばれたらしい」
莉子「過労?」
哲也「優衣ちゃんな、単発のバイトをいくつもして、お金を用意してたみた
   いなんだ」
莉子「え?そんなはずない、お父さんにお願いするって」
哲也「してなかったみたいだよ。莉子が頑張ってるのに私は何も出来てない
   って、だからせめて私が頑張って稼いで貢献するんだって、言ってた
   らしい」
莉子「・・・そんな」
哲也「倒れた時にちょっと打ち所が悪くてな、命に別状はないけど意識がま
   だ戻ってないみたいなんだ」
莉子「・・・私のせいだ」
哲也「莉子」
莉子「私が、映画作ろうなんて言ったからだ」
正樹「いや、俺のせいだ。俺が遅刻しなければこんな事には」
莉子「でも、あの時行かせたのは私。私が行けばよかったの」
哲也「2人とも反省は後だ。優衣ちゃんが無事だった事を素直に喜ぼう。今
   はそれで良い。莉子、落ち着いたら明日からの撮影をどうするか考え
   なさい。続行するのか、中止にするのか。お前が始めた事だ」
莉子「・・・」
美咲「私は中止の方が良いと思いますよ」
愛美「ちょっと美咲ちゃん」
莉子「町田さん・・・」
美咲「こういう不安定な時に無理をすると、不幸が連鎖します。これ以上の
   事故を起こさない為にも中止にするのが良いかと」
哲也「確かに、撮影で事故が起きやすいのはこういう時だな」
愛美「そういうもんなんですか?」
哲也「私の経験上ですが」
美咲「監督。決めてください?」
莉子「少し、時間をもらっても良いですか?プロデューサーと話をしてきま
   す。決めたら連絡します」
哲也「おい、莉子!優衣ちゃんはまだ・・・」

莉子が立ち去る

正樹「あの、今日は本当にすいませんでした!」
美咲「別に、素人に期待なんてしてないから」
愛美「美咲ちゃん、そんな言い方はないんじゃない」
正樹「いえ、良いんです。確かに素人だから」
美咲「開き直るんだ。失望した。私帰る」
愛美「え?ちょっと美咲ちゃん。すいません。失礼します」

美咲と愛美が立ち去る

哲也「・・・正樹くん。あの台本読んでどう思った」
正樹「観たいと思いました。完成した映画が」 
哲也「そっか」
正樹「その中に俺もいるんだって思ったら急に不安になって、でも逆に興奮
   もして、眠れなく て・・・だからこんな事に」
哲也「ヒロインが失望した映画は、どんなに他の人が頑張っても駄作にな
   る。それを防ぐ事が出来るのは、失望させた張本人である正樹くんだ
   けだ」
正樹「俺だけ?・・・いや、無理っすよ、俺素人だし」
哲也「関係ない。素人だろうがプロだろうが本気なら良い映画は作れる。私
   はそう思うけど な」
正樹「おじさん」
哲也「それに、失望したって事は期待されてたって事だ。顔合わせの本読み
   での演技。悪くなかったと思うけどな」
正樹「・・・俺行ってきます!」
哲也「行ってらっしゃい」

正樹立ち去る

哲也「恭子、お前の書いたこの映画化けるかもしれないぞ」

9病院の前

愛美「ラーメンでも食べてく?」
美咲「いい、浮腫むから」
愛美「そう」
正樹「ちょっと待ってください!」

正樹の荒い息遣い

美咲「なんですか?」
正樹「さっきの素人って発言、撤回します」
美咲「あっそ、お好きにどうぞ」
正樹「ちょっと待って、俺、この映画に本気なんです!」
美咲「本気の人は寝坊しないから」
正樹「この本を初めて読んだ時、観たいと思ったんです。この映画が、そし
   て、本読みの時に町田さんの芝居を見て鳥肌が立ちました。凄い映画
   になるんじゃないかって、その相手役が俺でいいのかって不安で、で
   も一緒に映画作れるの事に興奮して、眠れなくて、それで、ずっと本
   を読んで、頭に叩き込んで、役作りとかイマイチわかんなかったけ
   ど、 とにかく役の事を研究して、それで・・・」
美咲「結局何が言いたいの?」
正樹「挽回のチャンスをください!」
美咲「・・・今度の大会に勝ったら遊園地に連れてって、裕二の奢りで」
正樹「・・・」
美咲「今度の大会に勝ったら遊園地に連れてって、裕二の奢りで」
愛美「美咲ちゃん?」
正樹「わかった。行こう」
美咲「約束だよ!絶対破らないでね」
正樹「優勝したらの話だろ?」
美咲「優勝するのは確定だから、遊園地に行くのも確定」
正樹「いや、確定じゃないから。そんな簡単に勝てるほど甘くないだろ?」 美咲「大丈夫だよ。三年間必死に練習してきたんだもん、私たちは絶対に負
   けない。怪我で離脱した裕二の為にも必ず優勝する」
正樹「絵里・・・」
美咲「台詞は入ってるみたいね」
正樹「本気で覚えたから、俺以外の台詞も全部覚えてるよ」
愛美「一冊全部の台詞を?すごい記憶力」
美咲「まだ表情が固い。明日までに鏡を見ながら研究してきなさい」
愛美「明日があるかどうか、まだわからないんじゃないの?」
美咲「無いなら無いで、休みになるだけ。だから、常に撮影はあると思って
   準備しておく。そ れがプロでしょ?あんたも、私に話しかけてる暇が
   あったら早く帰って準備して寝たら?もう、私1人のシーンは全部撮
   り終わってるから」
正樹「全部?1日で撮り切れる量じゃなかった気がするけど、全部一発OK
   ならまだしも」
美咲「それを可能にするのが、天才なの」

美咲が立ち去る

愛美「言い方きついけど、悪い子では無いから、美咲ちゃんをよろしくね」 正樹「あ、はい」
愛美「それと、今の演技良かったよ」
正樹「え・・・ありがとうございます」
愛美「楽しみにしてるね・・・美咲ちゃん。ちょっと置いてかないで〜」

愛美が立ち去る

正樹「全部一発OK?」
哲也「嘘じゃないよ」
正樹「おじさん。2人は?」
哲也「優衣ちゃんはまだ目を覚ましてない。莉子は起きるまで待つみたいだ
   から、何かご飯でもと思って出てきた」
正樹「そうですか」
哲也「さすが、相澤美香って感じの芝居だったよ」
正樹「相澤美香って・・・あの天才子役の!?」
哲也「莉子から聞いてなかった?」
正樹「聞いて無いです」
哲也「そっか〜。じゃあ、今のは忘れてくれ」
正樹「いや、忘れられませんよ」
哲也「そうだよね。じゃあ、私から聞いたって事は内緒にしてくれ」
正樹「・・・わかりました」
哲也「カメラマンとして彼女を撮影してて、正直怖くなったよ」
正樹「怖く?」
哲也「演技だという事を忘れるんだ。表情や仕草、声がキャラクターそのも
   のだからな。盗撮をしてる気分だよ」
正樹「確かに、さっきの凄かった。世界観に引きずり込まれるそんな感じで
   した。自分が演技をしてたのかどうかもよく覚えてないです」
哲也「そういう所が天才と呼ばれる理由なんだろうな」
正樹「おじさん、俺、少し不安がなくなりました。逆に明日が楽しみになり
   ました」
哲也「そっか、それは良かった。おじさんもさっきの掛け合いを見ていて、
   カメラマンの血が騒いでるよ。早く撮りたいってね。後は、莉子の判
   断を待つだけだ」
正樹「はい」

10病院

莉子「(ナレーション)人生でこんなにも、沢山の事を同時に考えた事はな
   い。そして、こんなに不安になった事もない」

優衣「莉子」
莉子「え?優衣?」
優衣「心配かけてごめんね」
莉子「大丈夫なの?意識が戻らないって」
優衣「さっき戻ったの。お母さんから、莉子がここで待ってるって聞いて」 莉子「良かった・・・本当に良かった」
優衣「撮影、どうだった?」
莉子「・・・うん。町田さん1人のシーンは全部撮り終わった」
優衣「え?嘘?」
莉子「ほんと、やっぱり凄かった町田さんは、正真正銘の天才」
優衣「そっか、じゃあ、そんなに遅れてないって事だね。明日、2人のシー
   ンを中心に朝から撮影すれば取り返せるね」
莉子「優衣、映画作るのやめようと思う」
優衣「・・・ごめんね。私が倒れちゃったから」
莉子「謝らないで、優衣は何も悪くない。悪いのは私・・・怖くなったの急
   に、責任みたいな物が重くのしかかってくる感じがして」
優衣「莉子・・・」
莉子「だから、これ以上何か悪い事が起きる前に・・・」
優衣「莉子の想いはそんなもんだったの?」
莉子「え?」
優衣「お母さんとの約束はこんな簡単にやめられちゃう物なの?」
莉子「簡単じゃない!真剣に考えた結果出した答えなの」
優衣「なんで、1人で決めるの?」
莉子「私が始めた事だから」
優衣「私達はチームでしょ?監督もプロデューサーもカメラマンも出演者も
   他のスタッフ達も、そして脚本を書いた莉子のお母さんも」
莉子「・・・」
優衣「私はチームの足を引っ張っちゃったから偉そうな事は言えないけど。
   意地張らないで、 お父さんにお願いすれば良かったって思ってるし、
   無理してバイトするんじゃなかったって」
莉子「なんで、そこまでしたの?」
優衣「自分で稼いだお金で、莉子を応援したかったの。大好きな親友が本気
   で頑張ってる事に対して、私も本気を伝えたかった。まあ、それで倒
   れて迷惑かけてたら意味ないんだけど」
莉子「そんな事ない」
優衣「最初に映画作るって聞いた時は、正直ほんとに作れると思ってなかっ
   た。また、莉子の暴走だって思ってた。でも、莉子の本気を感じて、
   もしかしたらほんとに作っちゃうかもって思った。あの5分の動画は
   何回見たかわからない。なんか泣けてくるんだよね 〜 。内容はぐっ
   ちゃぐちゃなのにさ」
莉子「・・・優衣」
優衣「ここで諦めるのはもったいなくない?それにロケ地はもう借りちゃっ
   てるわけだし」
莉子「お金は、必ず返すね」
優衣「そうだね」
莉子「うん」
優衣「どうせなら、この映画で返してよ」
莉子「え?」
優衣「グランプリの賞金。確か、50万円だったよね?」
莉子「取れるかわかんないよ」
優衣「取るの、取ってお金返してもらわないと困る」
莉子「・・・」
優衣「私との約束」
莉子「・・・わかった。必ずグランプリ取ってみせる」
優衣「ごめんね。こんな風にしか言えなくて」
莉子「ううん。一番やる気が出る。さすが親友」
優衣「ロケの日にちを増やすってなったら言って、半日おさえるだけの余裕
   はあるから。私が倒れたせいだし」
莉子「ありがとう。明日の進み具合によってはお願いするかも」
優衣「わかった」
莉子「優衣はしっかり休んで、体調管理も重要な仕事だから」
優衣「莉子も、絶対無理はしないでね」
莉子「うん。ありがとう」
優衣「でも、今回の事は全部正樹が悪い。あいつが寝坊しなかったらこんな
   事にはなってなかったんだよ」
莉子「そうかもね」
優衣「でも、あいつは昔からやる時はやるんだよなー。自分のミスを絶対挽
   回してくる」
莉子「そうだね」
優衣「そういう所がムカつく。グランプリ取ったらあいつにお祝いさせよ。
   自腹で」
莉子「自腹なんだね」
優衣「当然!」
哲也「優衣ちゃん、目を覚ましたのか」
莉子「お父さん」
優衣「ご心配おかけしました。そして迷惑をおかけしました」
哲也「いいんだよ。優衣ちゃんが無事でよかった」
莉子「正樹は?」
哲也「帰ったよ。明日の撮影に備える為に」
莉子「え?」
哲也「町田さんも明日の撮影があるつもりで準備するって。それがプロだっ
   て言ってたよ」
莉子「町田さんが?」
哲也「恵まれるてな莉子は」
優衣「監督もしっかり休んで明日に備えないとね。監督まで倒れたらそれこ
   そ、終わりだか ら」
哲也「優衣ちゃんの言う通りだ」
莉子「わかってる。それをいうならお父さんも!寝る時間削って隠れてカメ
   ラの練習してたでしょ?」
哲也「バレてたか」
莉子「うん」
優衣「そろそろ戻るね。お父さんに会う前に来ちゃったから」
莉子「ありがとね優衣」 
優衣「ううん、絶対グランプリ!回復したら撮影戻るから」
莉子「絶対無理しない事!」
優衣「わかってる」

優衣が立ち去る。

哲也「帰るか」
莉子「うん」

莉子「(ナレーション)次の日から怒涛の撮影が始まり、私を始め、全員が
   無我夢中で駆け抜けた。そしていよいよ撮影最終日を迎えた」

11撮影現場の学校

莉子「カットー!チェックします!」
美咲「ただセリフ喋れば良いってもんじゃないんだけど。わかってる?」
正樹「わからないんだから、しょうがないだろ」
美咲「開き直らないの。なんで、この場に存在するのか、なんでこの台詞を
   喋る必要があるのかって事を考えるの」
正樹「わかってるよ、毎日何回も何回も言いやがって」
美咲「出来てないから、何回も言ってるの。あんたのせいで撮影がおしてる
   のがわからないの?」
正樹「だから、必死にやってるんだろ?」
莉子「2人とも、落ち着いて!今のカットOKです。次、別のカット行きま
   す」
美咲「わかりました」
正樹「莉子なんでOKなんだよ?幼馴染だから気を遣ってんのか?」
莉子「違うよ。そうじゃない」
正樹「じゃあ、なんだよ?」
美咲「使える所があったって意味でのOKに決まってるでしょ?」 
莉子「町田さんの言う通りです」
正樹「なるほど」
美咲「演技が上手かったら、一発OKで別のカットなんて撮らなくていいの
   にね」
正樹「なんだよ、喧嘩売ってんのか!」
美咲「売ってないし、うるさいから」
愛美「なんか初日より盛り上がってるね〜」
莉子「中野先生」
愛美「今日は、元気が出る差し入れを連れて来たよ」
莉子「連れて来た?」
優衣「ちょっと、先生。差し入れは酷いんじゃないですか?」
莉子「優衣!もう大丈夫なの?」
優衣「うん。元気になったし、プロデューサーの私が撮影の最終日に来ない
   訳にはいかないでしょ・・・正樹ありがとう」
正樹「はあ?なんのありがとうだよ、俺、何もしてないぞ」
優衣「だって、正樹が完璧な演技をしてたら撮影が早く終わっちゃって、私
   間に合わなかったもん?」
正樹「なに!」
莉子「皮肉言われてる」
美咲「ダサッ」
正樹「はあ!うるせえよ」
愛美「おやおや、泥沼の三角関係か?」
美咲「そういうおばさんのノリやめてくれる?ミスヤマネコさん」
愛美「ちょ、ちょっと!」
莉子「先生ミスヤマネコってなんですか?」
愛美「ほんとになんでもないのよ」
美咲「監督のお父さんに聞くのが一番だと思いますよ」
愛美「ちょっと!」
莉子「うちのお父さん?」
哲也「呼んだか莉子」
正樹「おじさん、ミスヤマネコって知ってます?」
哲也「正樹くんどこでそれを」
愛美「お父様。約束しましたよね」
哲也「約束しました」
正樹「教えてくださいよ」
愛美「あなたは、もっと演技を完璧にしなさい。ミスヤマネコに気をとられ
   てるようじゃプロではありませんよ」
優衣「あんまり説得力がないな」
美咲「監督、撮影再開しませんか?5分おしてます」
莉子「え?ああ、そうですね。先生ミスヤマネコの話は撮影が終わった後
   に」
愛美「何も喋らないわよ」
優衣「行きましょ先生。邪魔になります」
愛美「邪魔って、もっと他の言い方してよ」
莉子「では、さっきと別の角度から狙います。皆さん!セッティングお願い
   します」
優衣「監督っぽくなったね。莉子」
美咲「親子か・・・」
愛美「美咲ちゃんはなんでミスヤマネコの事を。姉さんにも口止めしといた
   のに」
正樹「集中!この世界に存在する理由」
哲也「恭子を見てるようだな・・・カメラ回りました」
莉子「では行きます。シーン32カット6テイク1。本番よーいスター
   ト!」

莉子「(ナレーション)市原莉子初監督作品アイオライトは無事に撮影を終
   えた。それから1ヶ月間、食べる時間、化粧の時間、寝る時間、それ
   以外にも色々な時間を削って編集作業に明け暮れ た。そして、映画祭
   に期限ギリギリで提出した」

12発表会場

正樹「緊張する〜」
優衣「なんであんたが一番緊張してんのよ。てか、あんた引っ越したんじゃ
   なかったの?」
正樹「日帰りだよ」
美咲「ダサッ」
正樹「何がダサいんだよ、美咲」
美咲「馴れ馴れしく呼ばないで」
愛美「なんか良い感じの雰囲気。優衣ちゃんも負けないで」
優衣「譲ります私」
美咲「プロデューサー、監督はまだ来ないの?」
優衣「さっき連絡した時は、渋滞にハマってるみたいでもう少しかかるっ
   て」
正樹「渋滞?大丈夫かよ」
愛美「もうすぐ発表の時間じゃないの?」
美咲「間に合わないかもね」
優衣「莉子・・・」

13哲也の車中

哲也「ごめんな莉子、近道のつもりだったんだけど・・・」
莉子「しょうがないよ、事故で渋滞してるんだもん。それに、お母さんのお
   墓に行きたいって言ったのは私だし」
哲也「お父さんも賛成した。だから、莉子だけが悪いわけじゃないよ」
莉子「お父さん。ありがとう」
哲也「礼を言うのはお父さんの方だ。お母さんの書いた本で素敵な作品を作
   ってくれてありがとう。それに、お父さんもそのチームに参加させて
   もらえた。どれだけ礼を言えばいいかわからないよ」
莉子「みんなの協力があったからだよ。私1人じゃ何も出来なかった」
哲也「確かに、そうかもしれないな〜。でもな、みんなの心を動かしたのは
   莉子の本気だ。誰にでも出来る事じゃない。とてもすごい事なんだ
   よ」
莉子「ありがと」
哲也「絶対グランプリだ!次で降りて、下道で行くから、後30分。いや少
   しスピードを出せば25分で・・・」
莉子「もうゆっくりで大丈夫だよ、お父さん」
哲也「どうして?まさか、もうそんな時間か?」
莉子「うん。もうすぐ発表の時間。そして、優衣から電話がかかってくる時
   間」

電話のSE

莉子「ほらね・・・もしもし」
優衣「莉子、今どこ?」
莉子「渋滞から抜け出せなくて、まだ車の中」
優衣「取ったよ、グランプリ!」
莉子「・・・ほんとに!?」
哲也「どうした?」
莉子「グランプリ取ったって」
哲也「そうか・・・そうか・・・」
莉子「ごめん、大事な時にそこにいなくて」
優衣「ほんとだよ。とりあえず、町田さんと中野先生が登壇したから」
莉子「なんで中野先生?」
優衣「中野先生乗り気だったから」
莉子「先生らしいね。後、30分ぐらいで着けると思う」
優衣「わかった、待ってる」
莉子「はーい」
哲也「おめでとう。莉子」
莉子「ありがとう」
哲也「でも、登壇は誰がしてるんだ?莉子がここにいて、優衣ちゃんから電
   話がかかってきたと言うことは・・・」
莉子「町田さんと中野先生が」
哲也「中野先生?優衣ちゃんはなんで登壇しなかったんだ?」
莉子「私に早く伝えたくなっちゃったんだと思う。私が優衣の立場でも絶対
   そうしてる」
哲也「そっか」
莉子「お父さん。なんでだろう?嬉しいんだけど、すごく嬉しいんだけど、
   満足してないんだよね」
哲也「映画を作る楽しみを知ったからだろう」
莉子「作る楽しみ・・・」
哲也「莉子は、お母さんを超える名監督になるかもしれないな」
莉子「また作るかどうかはわからないよ」
哲也「作りたくなったら作ればいい。それが映画だ」
莉子「うん!」

莉子「(ナレーション)それから、四年後。私は、22歳になっていた」

14空港

優衣「久しぶり、莉子」
莉子「久しぶり〜!そしておかえり〜!元気だった〜?」
優衣「莉子も元気そうでよかった!」
莉子「4年ぶりだね」
優衣「そうだね」
莉子「大学中退して、留学するって聞いた時は、ほんとにびっくりした」
優衣「本気で頑張ってる莉子の姿を見てたら、私も小さい頃からの夢を叶え
   たいって思ってさ」
莉子「かっこいいよ優衣。それでしっかりプロになって帰ってきちゃうんだ
   もん」
優衣「まだまだだけどね。それよりも莉子の方がカッコいいよ。業界が注目
   する新人監督なんてさ」
莉子「まだまだだよ」
優衣「でも、あの時の莉子は凄かったよねー。突然映画作るって言って、短
   期間で映画の作り方勉強して、人を集めて、グランプリ取って」
莉子「結果聞いたの、車の中だったけどね」
優衣「莉子らしいな〜って思ったよ」
莉子「何それー」
優衣「それから、大学に通いながら勉強して、映画作ってまたグランプリ取
   って、プロとしてほんとにデビューしちゃうんだもん」
莉子「運が良かっただけ。良い人達に出会えた。優衣も含めてね」
優衣「良かった、私は入ってないのかと思った」
莉子「外すわけないじゃん!親友だもん!」
優衣「うん!」
莉子「ねえ聞いて、町田さんが女優復帰するの」
優衣「え?そうなの?」
莉子「そう。大学卒業したら本名で活動を再開するんだって」
優衣「へー、天才が戻ってくるわけだ」
莉子「そう。しかも復帰作は私の監督する作品なの」
優衣「え?すごい!黄金タッグ復活じゃん!」
莉子「偶然だけどね〜。昨日電話でちょっと話したけど、相変わらずだっ
   た」
優衣「だよね〜、そんな気がした」
莉子「明後日から本格的に始まるの」
優衣「明後日、すぐだね。負けないように頑張りなよ」
莉子「いや、勝ち負けじゃないから」
優衣「そっか」
莉子「私、日本一の映画監督になるのが今の夢」
優衣「日本一の映画監督か、莉子ならなれる気がする」
莉子「どうなったら日本一かって、わかんないんだけどね。基準無いし。で
   もそれぐらいの気持ちで走っていこうと思う」
優衣「うん!頑張って!」
莉子「ありがとう。優衣も頑張ってね」
優衣「うん。頑張る!じゃあ、また連絡するね」
莉子「うん。私も撮影が落ち着いたら連絡する」
優衣「はーい!」

優衣が立ち去る

莉子「お母さん。私、頑張るね」

15撮影現場

莉子「(ナレーション)撮影初日」

莉子「町田さん。今日からの撮影よろしくお願いします」
美咲「美咲で良いですよ。莉子監督」
莉子「よろしくね。美咲」
美咲「はい。死んでも良い作品作ります」
莉子「私もそのつもりで作ります!では、シーン5から撮っていきます!各
   部署、準備は良いですか?・・・では、行きます・・・シーン5カッ
   ト1テイク1、本番!よーいスター ト!」

                             終


※この作品はフィクションです

2022年1月に公演予定だった作品です。映画作りの青春を描いた作品をお蔵入りするのはもったいないと思ったので、noteに公開します。
一人でも多くの方の心が動けば良いなと思ってます

アクトスピア代表清原大夢

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