目指すはすべての人に金融が届く社会。金融庁が取り組むSDGs
省庁では どんなSDGsの取り組みが生まれている?ということで、今回は 金融庁のお取り組みについてインタビュー!
金融庁でさまざまな関係者とネットワークを築く「チーフサステナブルファイナンスオフィサー」として働いている、池田 賢志(いけだ さとし)さんにお話をお伺いしました!
金融庁でのSDGsに対するお取り組みを教えてください!
金融庁といえば、金融機関を監督しているイメージや、何か不祥事を起こした金融機関に対して行政処分をするイメージを持っている人も多いかもしれません。そういった金融機関を監督するのと同時に「日本の金融マーケットをどうグランドデザインするのか」という仕事もしています。
また、金融庁の与えられた権限のなかで、個人で言えば資産運用、企業で言えば資金ニーズになりますが、それらをサポートしていくこと、金融から後押ししていくことにも取り組んでいます。
SDGsを政府全体で推進していくなかで、金融庁としては金融行政で何ができるのか、2017年から金融とSDGsを整理したり、関連施策を打ち出したりしてきました。
具体的な取り組みとしては、上場企業を対象にコーポレートガバナンスコード(※1)を整備して、そのなかでサステナビリティに取り組むことや、ダイバーシティなどを含めたESGに関連した情報開示を積極的に進めていくことを促しています。
その表裏で、企業に投資する機関投資家の方々がそうした企業と建設的に対話に取り組んでいくにあたって、企業がどのように考えているのか、事業が企業価値につながっているか、その特徴を見ていくためのスチュワードシップコード(※2)を整備しました。
※1「コーポレートガバナンス・コード」とは…
上場企業が守るべき企業統治の行動規範として出されたもので、金融庁はこれをもとに、取締役会の確保すべき多様性として「ジェンダー」や「国際性」が含まれるよう取り組んでいくことを明示しています。
※2「スチュワードシップ・コード」とは…
銀行、証券、保険会社、年金基金などの投資家に対して、投資先企業の中長期的な成長を促すために求められる行動規範で、ここで金融庁は、機関投資家が中長期的視点から、投資先企業の事業における社会・環境問題に関するリスク・収益機会を例示するよう求めています。
出典/金融庁資料
こういったESGやサステナビリティに関する建設的な対話が進んでいくことで、企業価値も向上して、機関投資家のみなさんもそれ相応のリターンが得られるわけですが、企業と機関投資家の双方の行動を変えることで、SDGsの取り組みを後押ししていくことに取り組んでまいりました。
金融機関で言えば、今後人口減少などで厳しい状況にある地域もあるなかで、地域に根ざして活動している地域金融機関のみなさんは、特に大きな役割を果たしていると言えます。地域金融機関が、地域社会の課題解決に貢献して、地域の持続性を高めていくことが、結果として金融機関自身の持続性にもつながるのだと思います。
もちろん人口減少だけでなく、気候危機やSDGsに関連した課題を解決していくことが必要ですが、そこに対して金融庁からも、金融機関に対して地域社会での取り組みを促していたりもします。
さらに環境・社会・経済にポジティブなインパクトを出すために、インパクト投資勉強会を昨年から進めています。ここでは、より直接的に社会インパクトを与えるような使途を考えたり、投資した後にステークホルダー(関係者)にコミュニケーションしていくために、どう評価を行うか、どう管理していくかなども議論しています。
そうした個々の取り組みに加えて、昨年末にサステナブルファイナンス有識者会議を立ち上げて、先日その報告書を出しました。これはサステナブルファイナンスを実現するための方策をまとめたものになっています。
サステナブルファイナンス有識者会議 報告書
金融庁として「誰ひとり取り残されないビジョン」はどのようなものを持っていますか?
内閣府が出した「自律的好循環」はもちろんのことだと思いますが、すべての人が生活を支えるために必要な金融を得られる社会、すべての人に金融が届く社会になることがビジョンです。
政府全体で相対的貧困の問題として、いろいろと取り組まれているところだと思うのですが、日本のどういうところに行き届いていない人がいるのかを把握することも含めて、リターンを求める金融と寄付型の金融があるなかで、金融庁としてはリターンを求める金融のなかで社会貢献がいかにできるのかの限界を探っていく、それを金融機関のみなさんに促しているところがあります。
グラミン銀行のような取り組みを参考にしている信用金庫さんもいらっしゃいますが、シングルマザーの方々など経済的に困難な状況に直面している方にどういう金融ができるのかを考えることを促していく、必要な金融がしっかり届くことが重要だと思っています。
出典/金融庁資料
誰ひとり取り残されない金融サービスへのアクセスに関するお取り組みもありますか?
金融アクセスに困っているみなさんに対しては、いろいろな公的な補助と組み合わせて何ができるのかということでしょうし、彼らがお金にアクセスするとき、たとえばお金を借りる場合にどう信用力を示していくのか、という点に課題があるのだと思います。
他国とは違い日本は比較的容易に口座を開設できますが、借りるなどは難しい面があるなかで、そのギャップをどう埋めていくのか、実は返済できる能力がある場合もあるので、従来の仕組みや評価を見直していくよう促しています。
また、そこに取り組むベンチャー的な動きを後押ししていたり、フィンテックやソーシャルボンドのようなファシリティでどう貢献できるかの議論をしています。
先程の有識者会議の下部組織のような位置付けで「ソーシャルボンドに関する検討会」というものもやっています。ソーシャルボンドは、国際的には国際資本市場協会がまとめている原則がありますが、社会課題は国ごとに違いがありますので、この原則に補足した日本版のようなものをつくろうとしています。
出典/事務局資料
金融機関は多くありますが、どのようにコミュニケーションしているのでしょうか?また課題はありますか?
これまで金融庁としてのビジョンをお示しして、金融機関のみなさんに取り組みを促してきたり、地域課題支援室が「ちいきん会」というのを開催して、地域との対話をやっていますが、最近では地域金融機関と地域を取り持つ役割もやるようになっています。
日本に金融機関はたくさんありますし、金融庁はさまざまな形でメッセージを出していますが、すべての金融機関に深い対話ができているかといえば、難しい面もあるのが事実です。また、SDGsの要素も入れて業務が健全なのかをチェックする機能も、今後取り組んでいかなければいけないところです。
出典/「ちいきん会」
出典/金融庁資料
GPIF(※)のポートフォリオ分析(2019)で、パリ協定の2度目標と整合性なし、3度上昇ペースだという報道がありましたが、金融庁はどのように見ているのでしょうか?
GPIFさんは外国株も国内株も保有していると思うのですが、世界全体でこのままの取り組みでは3度上昇のシナリオになるという認識で動いているなかで、これを表したものになっているのかなと思います。
GPIFさんとしては、投資している企業のみなさんに2050カーボンゼロの達成に向けて、資産運用業をしているみなさんと、さまざまなエンゲージメントをするようお願いしている状況にあると思いますので、
政府が進めていくこととGPIFさんの取り組みが相まって、ポートフォリオがだんだんと2度、最終的には1.5度上昇に抑えられるよう、企業が変わっていくことでポートフォリオが変わっていくというようなシナリオになっていくのがいいのではと思っています。
※GPIF…
年金積立金管理運用独立行政法人。日本の公的年金のうち、厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行っている。
最悪のシナリオも踏まえた上で都市計画や開発などに取り組まれていくことが必要ななか、金融機関への働きかけがあれば教えてください!
インフラ開発などを担当している省庁でもそれぞれに検討していると思いますが、金融庁としては金融機関に対して、ポートフォリオ全体でシナリオ分析をすることで、4度シナリオ、1.5度シナリオの場合にどんなことが必要か考えるよう促していくことになるかと思います。
問題を未然に予防する社会をいかにデザインするかという視点で仕組みを共創する、そのためのパートナーシップが必要になってくるのではと思いますが、いかがでしょうか。
自分の限られた経験からの話になりますが、日本では比較的「あまり先のことを考えても仕方ない」とか「周りと同じようにやっていこう」として、仲間内で安心したがる傾向が強いように感じます。
それだけではやっていけない時代になってきているなかで、そこを社会全体でどう克服していくかというのが重要な課題だとすると、これまで対話していない人たちと対話をしていく、日本以外の国の人たちとのパートナーシップを築くというのも重要になってくるのかなという気はいたします。
気候危機に対し社会の公正な移行をしていくための金融ガイドブック「クライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブック」
今後のお取り組みはどのように発展していくのでしょうか?
今回の有識者会議の報告書はサステナビリティを意識しつつも、政府のカーボンニュートラルの方針に重点を置いたものになっています。特に気候危機に関しては、金融機関が気候危機に対する機会やリスクを適切に理解し、判断して金融をつけていくことが重要だと思っています。
金融市場のなかで前向きな取り組みをしている企業をいかに評価していくのか、そのためにどんなことやどんなデータが必要なのかを含めて提言いただいていますので、それを一つひとつ解決していくことが、パリ協定の遵守に貢献していくことになると思います。
それ以外では、生物多様性やプラスチックなどの問題もありますが、類似の事象に関しては、気候変動への対応についての考え方を応用して進めることができる部分もあるかと思います。
また、ソーシャルの面については、報告書では必ずしもテーマとして個別に深堀りできませんでしたが、先程申し上げたソーシャルボンド原則の考え方を参考に取り組んでいくことになるかと思います。
いずれにせよ、当然ソーシャルの問題も含めてより幅広いサステナビリティにおいて何をすべきかの提言は、レポートの端々にありますので、そこから金融機関の取り組みが進んでいけばいいなと思います。
ビジョンを実現するにあたっての課題や、市民社会に期待したいことはありますか?
さまざまなイシューについて、個別にどう解決するのかに取り組む方々、政策提言をする方々、いろいろな方がいらっしゃると思います。必ずしもみなさんというわけではないかもしれませんが、問題提起をいただければ、いろいろな形でお話をさせていただいています。
デスクワークをしていると、社会でどんな人が、何に困っていてといったところが肌感覚でわからないことがあると思いますので、市民社会の方々とも「ちいきん会」のような対話の枠組みができてくるといいのかなと思います。個人的には、そうした前向きな取り組みが進んでいけばいいなと思っています。
金融ですぐに解決できない問題も、おそらくあるとは思うのですけれど、そうした取り組みが、金融でやったらどうなるのかということを考えるきっかけにもなって、それがブレイクスルーとなって新しい金融が生まれていくとなれば、社会にとっても金融機関にとっても望ましいことになるのではないかと期待しています。
池田 賢志さん
金融庁 総合政策局チーフ・サステナブルファイナン ス・オフィサー
2019年3月、金融庁に「チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー」のポストが新設されたことに伴い同職に就任。同職においては、気候変動関連の財務情報開示に係るTCFD提言の日本における実施を担当すると同時に、金融庁内のSDGs取組戦略プロジェクトチームの事務局を務めるなど、サステナブルファイナンスに関する職務を幅広く所掌。
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