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20分したら消えてく今日を見届ける 19時25分の夕日

夏の夕方ってびっくりするほど日が長くて、いつまでも暮れないんじゃないかと思う。

まだ明るいなぁ、すごいなぁ、とか思っているとやっと日が傾き出すけど、それでも秋冬のさみしい夕方とは全然違う。
「今日もやっと暑い昼が終わるね、お疲れ様」みたいな、慈愛さえ感じる薄明るくて優しい日暮れだ。



最近また『常に残業している人』の座に舞い戻った私は、残業しているときは常に「明るいうちに早く帰りたい」と念じていて、だからこそよく外を眺めているので知っている。

今の時期は、19時半までに帰れたらギリギリ外が明るい。19時半を過ぎて会社を出るとたぶんもう暮れてる。19時45分はもう夜。




分かっているけど、このところ数週間ずっと20時以降とか21時以降に退勤していたので、夏の長い夕方を楽しむ機会なんてなかった。

そうなると週末に楽しむしかないから、日の高いうちに買い出しを済ませてきた19時半前、小さなテーブルと椅子を持ってベランダに出た。



まだ、空は群青色の混じったオレンジ色をしていた。

適当だけど晩ごはん代わりに、冷凍してある食パンをトーストして、作り置きのポテトサラダを載っけてポテサラダのサンドイッチにした。
あとは紙パックの冷製スープ。冷製なのにおいしいし、野菜を摂った気になれる優れもの。ありがたい。




室外機の溝の上に安定するようにミニテーブルを置いて、テーブルの上には、お皿に載せたサンドイッチと紙パックとウエットティッシュを並べる。

ベランダとはいえ自宅の敷地だから、パンくずをこぼして鳥とか来たらやだなぁ。
とか考えちゃって、パンくずがこぼれないようにそうっとお皿の上でサンドイッチを頬ばる。

外で食べてるのに、食べこぼしに気を遣う自分、なんか変なの。って思いながら食べ進める。時々スープも飲む。お行儀悪いけど、もぐもぐしながらぼんやりスマホを眺める。




食べ終わる頃には、空のオレンジはだいぶ薄まって、群青色から紫のグラデーションになっていた。でもまだ、薄明るい。浮かんでいる雲も白っぽい。

まだ夜がきたって認めたくなくて、もうちょっとベランダにいたかった。

元々ベランダで食べようと思って買ってきた、チルドコーヒーと焼き菓子も持ってくる。
ひとつ400円くらいした、どっしり黒々したカヌレ。間違ってもベランダの床に落っことさないように、これまたそうっと包みを開けた。


とりあえず上からカヌレをかじった。
カラメルと、ラム酒とバニラのいい匂い。ずっとかいでいたい。もうずっとここでこうしておやつを食べていたい。




ワークライフバランスはオンオフが大事とか、休日は好きなことをして気持ちをリフレッシュとか言うけどさ。

こうして好きに過ごしてみると、決して「いい休日だった!明日からもまた頑張ろう!」なんて思えなくて、「なんでずっとこうして過ごしていられないんでしょうか?」としか思えないんだよなぁ。


ずーっとオフでいい。ずーっと好きなこと、っていうか気が向くことだけしていたい。

月曜日に向けて気持ちをリフレッシュどころか、そんな確信ばっかり深まる。

あぁあ、なのに、空が青暗くなってきた。雲も黒に見えてきた。



カヌレを左手に、コーヒーを右手に、スマホを膝の上に置いて、焦点はベランダの外に向ける。

あぁ、遠くに電車が走っていくのが見える。
最寄駅が最寄っていなかった私が、この部屋を好きなところのひとつ。電車が走っていくところが小さく見えて、遠く音も聞こえるところ。

電車、なんに考えずに適当に乗って、どっか知らない駅で降りる旅にでも行きたいなぁ。
週末やればいいのかもしれないけど、平日に溜まった家事とかやりたいこともあるから、やっぱ仕事に行かずにそんなことしたい。行きたいと思ったら行きたい、何にも咎められたくない。




コーヒー、ブラックの気分じゃなかったけど、フレーバーついてる甘いのじゃなくて、せめて甘くないラテくらいにすればよかったかなぁ。お菓子が甘いからけっこうきついぞ。

あーでも、カヌレおいしい。底のカリカリしたとこ、特においしい。カラメルとラム酒の匂いがすごくいい。ここだけずっと食べてたい。

でも、もう、夜だ。日曜日の夜が、来てしまった。




すごすごとベランダから引き上げる。椅子とテーブルの脚を拭いて、お皿をシンクに置きに行って、カヌレの包みやコーヒーやスープのパックを捨てる。また週末が終わっていく。

日曜日の夜から、もう次の金曜日の夜のこと考えてる。

平日の私は息しかしてない。いつもあんまり記憶がない。
行きたい寄りたいお店はもう閉まってる、そんな時間にしか帰れない。だいたい、治安がどうあれ暗くなってから街をひとりで歩くのも、どっか不安で楽しくない。明るいうちに帰って、明るいうちに寄り道したい。




学生だった頃の夏休みとおんなじ色の空だったのに、なんで今って夏休みじゃないのかなぁ。

なんにも予定のない今日と、なんにもやることを決めてない明日がずっと、いやせめて十数日続いてほしかった。
あの頃みたいに、どこかに行くお金がないわけでもない。どこまでも歩いていけそうな体力はなくなったけど、あの頃と違って、行きたいところに行く元手は持ってる。



「いつか大人になって、こんな日のことを思い返すんだろうな」ってあの頃から思ってた。

「『あの頃はよかったな』って思いそうだから、二度とないこんなに自由な時間を好きなだけ無駄にしよう、好きなだけ休もう」と思った。

「大人になったら学生を羨ましいって思うんだろうけど、そんな大人たちにも(だいたいは)こんな学生時代があったんだから、今は私たちの番ってだけじゃんね」と思ってた。

全部ぜんぶ、覚えてるし確かにもったいないほどダラダラした。けどやっぱ、今だってあれくらい休みたいよ。





別に今すぐ仕事を辞めたいとか転職したいとか、そんなモチベーションすらないけど、ただただしばらく休みたいなぁ。何かに追われたり心配したりしたくないなぁ。

だって夏だもん。1日が、日の明るい時間が、外を安心して歩ける時間が、いつもより長いもん。
ずっと明るい気分で過ごしたいよ。ずっと「過ごしやすいな」「日が長くなったな」ってうれしい夏の夕方のままでいてよ。



そう思っていても、また月曜日がやってくる。

ばいばい週末。また会えるまで頑張るけど、でもできるだけ早くきてね。

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水無月
何かを感じていただけたなら嬉しいです。おいしいコーヒーをいただきながら、また張り切って記事を書くなどしたいです。