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耳で感じた2023年サッカー女子ワールドカップ

7月から8月までオーストラリアとニュージーランドで共催されたサッカー女子ワールドカップを色々な形でエンジョイしてサッカー以外も色々な方面にその影響が伸びてきたのでサッカー関連じゃないマガジンにもワールドカップについての記事を書いて回ってます。
今回はこの大会のSoundscape、特に音楽に関しての話をつらつらと。

どんな世界的なスポーツの大会でも必ず試合前に両方のチームが代表する国の国歌が演奏され歌われますが、私はもうここから楽しみにしています。今回の女子ワールドカップは32カ国が参加する初の大会で、男子では本戦に出てこないような国や初参加の国などちょっと面白い構成になっていたため国歌の部分でも目新しいことがたくさん。さらに今回は試合会場以外でfan festivalなど人が集まって試合を見ることができるロケーションが充実していたこともあり、個人的な国歌注目ポイントとして「知らない国歌を次の音を予測してなんとか一緒に歌ってみる」というチャレンジを密かにやっていました。
そもそも国歌は国民がイベントの際にみんな歌うことを前提としているのでメロディーはシンプルで音楽理論的に理にかなってないことはあんまりしないだろうと思われるため何を歌っても次の音は二択、三択くらいに絞られるかなーとぼんやり見立てを付けて。
結果はというとヨーロッパの国の国歌はまあまあ行けましたが南米とかだと軽快なテンポで難しいケースも色々。でもトライしてみる体験と思考過程がすごく面白かったです。何かの機会に是非こっそり(?)。

サッカーの大会だと日本は常連で、「君が代」の国歌としてのユニークさは周りがどんな顔ぶれでも毎回印象に残るのですが今回北アフリカ・アラブ方面から初参戦のモロッコの国歌も唯一の短調ベースでこれまた独特でした。あとこれもサッカーのトーナメントの際毎回思うのですが南米の国の国歌にはイントロが長かったり歌わなかったり曲の最後アカペラになったりと色々ローカルルールじゃないですが特殊仕様がある国歌が色々あるので今度コパ・アメリカ(南米の国々のサッカートーナメント)で詳しく聞いてみたいと思ってます。

国歌の話でいうとオーストラリアの国歌は音楽的にちょっとあんまり楽しくないで定着していますがそれだけではなく演奏される調が定まっていなくて色んなシチュエーションで色んなキーで歌われるのがサッカーを見始めて以来かなり気になっています。今回のワールドカップみたいなFIFA開催の大会とAリーグの特殊な試合での国歌斉唱も違うキーの違う録音使ってますし、AFC開催のアジアでの大会もまた違ったかも。詳しくどこでどの録音が使われているかわかりませんがキーが違うのがいくつかあります。ついでにソリストが歌う場合だとソリストによってもキーが違ってくるし。オーストラリアに住んでて色んな場所で国歌を聴いているバイアスはあると思いますが他でこういうカオスな状態なところはないんじゃないかな。例えば(ワールドカップには出ませんでしたが)ウェールズの国歌なんか変ホ長調以外でまず聞かないですし。

そこからつなげて調の話になりますが、今回選手入場→国歌×2ときて試合開始までの時間に流れていた歌がTones and I、BIA、Diarra Syllaによる「BRING IT ON」だったのですが、この曲のキーがロ短調だったのがちょっと面白かった。記憶が正しければロ短調・ロ長調の国歌はなかったのでどの国が対戦しても聴覚を通して空気が切り替わるような印象で、しかもロ短調はポップで使ってもピリッとするフレーバーがあってそれも良いエフェクトになってたと思います。試合直前の緊張の中で耳にするこの歌はある意味大会のテーマソングよりも印象に残ったので割と早い段階でSpotifyで見つけてお気に入りにしておきました(でもスタジアムの音響で聞くのとはやっぱりちょっと違う)。ワールドカップが終わってもきっとこの大会とその様々な戦いを思い出す曲。

今回のワールドカップは特に開催国の一つであるオーストラリアでは大会が進むとともに普段サッカーを観ない人もたくさん試合やfan festivalに集まるようになって、それと共に気づいたのがオーストラリアにフットボール文化はあるかもしれないけど、それとつながるような歌う文化、踊る文化があまり浸透していない事。選手達を後押しするようにチャントを歌うことだけでなく勝利の喜びに声を揃えて歌ったり踊りで表現したり、そういう習慣はないなあ、というのを改めて目にした次第です。
ウェールズ代表の応援で終盤に国歌をみんな歌い出すのとかセルティックの応援が替え歌だらけ(とにかくメロディーついてるチャントが好きらしい)なのとか、アフリカや南米の選手やサポーターたちが身体を動かして応援してるのがサッカーを見てるとちょっとうらやましくなってくる。

チャントに関しては前述の通り普段から試合に足を運んでいない人も観客の多くを占めているし代表チームの試合はたまにしかないので事前にかなりしこんでないと難しい。Matildasのアクティブサポーターの団体が頑張っていることは風の便りに聞こえてくるので今後観客の増加も考慮してなんとかできるかなあ。ピッチ外で今後に向けてフットボール文化を広め、深めるためのこともきっと必要になってくるし、音楽的な要素はその一部じゃないかと思っています。

なかなかこのチャントの文化をがっつり調べたわけではないのですが元々女子サッカーは観客数が多くない中での少数のコアなファンによる応援だったので、例えばクラブフットボールで毎週試合に行って応援するような環境でのチャントのような感じでも問題なかったけど観客が膨れ上がってご新規さんも増えると色々と考え直さなきゃいけないこともあるのかな、と。
これは他にスタジアムの音響なんかも関係してて普段ヴィクトリーの試合を見に行くAAMI Parkだとゴール裏のサポーターがずっと歌ってるのがスタジアムの反対側でもある程度聞こえるのも結構影響あるんじゃないかと睨んでいます。

今回コロンビア代表がトーナメント深くまで勝ち残り、(開幕前は全然予想してなかったのですが)たくさんのコロンビアサポーターがスタジアムだけでなく各地のfan festivalに集まる中で数試合コロンビアサポーターの中でライブビューイング観戦したのですがチャントはもちろんスペイン語ですがとてもシンプルで、ちょっともごもご言いながらもしばらくしたら一緒に歌えるようなもので、しかも数人が歌い出すと周りも一緒に歌い出すし色々とそういう方面で勉強になりました。これもまたワールドカップならではの貴重な経験。

最後になりますが今大会はオーストラリアとニュージーランドというそれぞれ独特の先住民文化がある国々での共催ということで試合前のWelcome to country(ニュージーランドではこの名称使うのかな)にはほぼ毎回先住民の楽器が登場しました。オーストラリアではディジュリドゥ、ニュージーランドでは法螺貝が試合開始前のセレモニーで演奏され、特に国外から来た人には普段あまり聞かない楽器の音を耳にすることができたと思います。私もディジュリドゥに親しみはあっても法螺貝の音をちゃんと聞くのはほぼ初めてだったかも。Fan festival会場の音楽イベントでも先住民の音楽の披露があって実は近いようでかなり違うこの2つの国の伝統文化を体験する機会となりました。

この記事であまり触れなかったポピュラー音楽方面でのつながりも含めワールドカップはサッカーと音楽のつながりをまた強く感じることができるイベントでした。むしろもっとそのつながりを色んな方面で強く意識して活かすのも見てみたいなあ、と素人ながらに思ったり。今回は特に事前の予測よりはるかに多くの人を巻き込んで予想外のでっかさになったという経緯もあるので中の人間が成長してつんつるてんになった腹みたいな感じもあるのかな、とも思いますが。次回似たようなイベントをオーストラリア(とニュージーランド)で開催するようなことがあったらサッカーそのもの以外の要素も積極的に楽しみたいですしそうできるようなイベント内容になってるといいな。いつになるかわかりませんが。参加できるうちに一回は。