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「ベストなスタジアムとダンジョンなスタジアム」から見えてくる豪サッカーの風景

ホームがホームじゃない代表試合が続くオーストラリア男子・女子サッカー代表。
残念だし大変な状況ですが、それでもまずクウェートやカタール、日本やスウェーデンなど一時的なホームとして代表チームを迎えてくれて感染対策から練習・試合から全てlook afterしてくれている国々には感謝しかありません。オーストラリアもいつか外国から代表チームを迎えることになったら同じくできるといいな。

そもそも地理的にいってオーストラリアからはどこに行くも遠いですし、サッカーの試合となれば地球のあらゆる場所に飛んでいくことになります。なのでサッカー関係者は代表・クラブ合わせると世界中様々な場所に行っているはず。

以前「Shim, Spider and So Much Moore」というポッドキャストでゲストのサッカー関係者とのインタビューの終わりに「ベストなスタジアムとダンジョンなスタジアム」を聞く恒例のコーナーがあると紹介しましたが、それもそういった背景が関係しています。その時書いた記事は「ダンジョンとは」に焦点を当てましたが、今回アーカイブを遡って答えた全員分のベスト&ダンジョンを書き出してみました。答えが多岐にわたるので集計はあんまり意味がなさそうですが手書きしたものをぼんやり眺めてまとめることに。

代表かクラブか

このポッドキャストにゲスト出演するのはオーストラリアのサッカー関係者、つまりオーストラリア出身だったり代表チームにいたりAリーグに在籍したりする人が中心。多くが現役選手ですが他にも元選手だったり監督なども出演しています。(でもちょっと変わった職種の人はこの恒例の質問あんまり聞かない傾向にあったり、あと単純に聞き忘れて後でリスナーに怒られているケースもいくつか(笑))

なのでこの質問で挙げられるスタジアム、特にベストなスタジアムの方はイギリス、イタリアやスコットランドなど豪出身選手が多く所属するリーグがある地域に大きく偏ります。代表チームの海外試合でも結構素晴らしいスタジアムにいってたくさんお客さん来ておおいに盛り上がってるはずですが、選手目線だとクラブでの試合の方が思い入れが深い場合が多いようです。例えばドルトムントの「黄色い壁」(Robbie Kruse言及)なんかは確かにクラブならではの体験ですね。
ただオーストラリアでの体験が挙げられる時は代表での試合が多いです。これは単純にAリーグもっと頑張れ的な話でもありますが、やっぱりホームでの代表試合には特別な試合、特別な思い出と思い入れがあるようです。

ヨーロッパ

元々オーストラリアでサッカーやってる選手にイタリア系の人が多くイタリアでプレーした選手も多いということが間違いなく関係してますがサン・シーロがベストスタジアムとして比較的多く言及がありますね。トークからも雰囲気・伝統・デザイン全部揃っているスタジアムという印象も受けます。
今でもイングランドでプレーする選手は結構いますが特にプレミアリーグにオージーの選手が多かった時代だと旧ウェンブリー・スタジアムもよく話に出ますし、子どもの頃から見て憧れの対象だったという声が聞かれます。

ヨーロッパのスタジアムはもちろんこちらと比べて設備も歴史もデザインもあり、スタジアムの外観美について話もありましたが、やっぱりほとんどの選手にとってキーポイントはスタジアムの雰囲気。その視点でいうとスコットランドやトルコなどで熱狂的な観客が作り出す雰囲気がすごいという話がかなり聞かれました。トルコに関しては旧ガラタサライ・スタジアムがその観客の熱を理由として「ベスト」「ダンジョン」両方に挙げられていて相当なんだなと(汗)トルコのリーグも常にオージーの選手が一人いるような場所ですがなかなか実態を知る機会はないので貴重な話です。

ちなみに「ダンジョン」として挙げられるスタジアムはだいたいカップ戦で下部のリーグと対戦するケースで、特にスコットランドのダンジョンについて多めに話が出ます。スタジアムの施設や雰囲気に加えて寒い気候も関係してそうですし比較的カジュアルな感じで話に出しやすい、オーストラリアのリスナーが共感しやすいこともありそう。あとオランダ・ベルギーがちらほら出るのも地形・気候的な関係もあるのかな?

オーストラリア

前述の通りオーストラリアのスタジアムが「ベストなスタジアム」に挙げられるのは代表試合のホーム戦で、つまり多くがシドニーのスタジアムなのはメルボルンの人間としてしょうがないけどちょっと残念。

ただ面白いのはベストなスタジアムとして「満員のMCG(メルボルン・クリケット・グラウンド)」が何度か挙げられていること。MCGもまた代表チームの大事な試合などの舞台になっていますがその名の通りサッカー用のグラウンドではないんですよね。基本的にサッカーはサッカーのスタジアムでやるのが一番と誰もが言う中でMCGは何度も挙げられているのは矛盾とも言えるかもしれませんが「サッカーに限らずスポーツ全体における聖地」という説明は納得がいくかも。
メルボルンにもキャパがもうちょっと大きくて雰囲気を作り出せる構造のスタジアムがあったら素敵かもなあ(そしてお客さん入ってほしいなあ)。

ちなみにオーストラリアの「ダンジョン」として(愛を持って)挙げられるスタジアムはNPLのグラウンドなのですがなぜかVIC州が多い気がします。以前別の記事で施設に最近やっと助成金が入っていると話しましたが、施設がどうとか言うよりダンジョンで挙げられる豪グラウンドは「芝」にポイントがある言及が多いような気がします。

その他

欧州・豪州以外の地域は少数になりますがそれでも南米・アジア・中東・中米・NZなど様々な地域のスタジアムが挙げられています。
北米・アフリカ大陸だけ言及がなかったみたいですが前者は女子サッカーで縁が深く、アフリカ諸国はオーストラリアにいる選手が生まれた国・ルーツの国の代表選手として試合に行ったりするケースも見られるので今の若手がその体験を語るようになったら挙がる可能性も十分あります。いつも言っていることですがオーストラリアのサッカーはワールドワイド。

ちなみに欧州・豪州以外で言及があるスタジアムはものすごくばらけている中メキシコのスタジアムがベストなスタジアムとして複数回選ばれています。選んだのが監督2人+引退したばっかりの選手だったのですが最近は代表でもあまり縁がない地域。オーストラリアがアジアになって以来南米でもあまり試合してなかったり、「その他の地域」からのチョイスは結構時代も影響するのかも。

そして日本のスタジアムを「ベストなスタジアム」に挙げたゲストも1人いました。Luke Wilkshireという元豪代表選手(現Wollongong Wolves監督)なのですが彼によると代表試合で行った日本のスタジアムでどこかは正確には覚えていないけど山が見えるスタジアムで雰囲気もよかった、と話していました。どこだろう。

Old or New?

既に少し書きましたがサン・シーロや旧ウェンブリー・スタジアムが「ベストなスタジアム」としてよく言及されるのはその歴史・伝統を感じるという理由があるようですし、ベストスタジアムのリストを見ても特にヨーロッパは由緒正しい印象があるところがよく挙げられています。
まだ1、2回くらいしか試合が開催されてないほぼまっさらなスタジアムでプレーしたという経験も話にわざわざ出すくらいには印象的な出来事だったそうですが、それでもやっぱり伝統や子どもの頃からの憧れは強い思い入れに繋がるようです。

何がスタジアムをダンジョンにするのか

ポッドキャストの(暫定)最終回で3人のMCがそれぞれ自分が思うベスト・ダンジョンなスタジアムを挙げる際に(毎回この質問を聞く担当の)Zeljko Kalacが自分にとってダンジョンとは「行って試合をして勝つことができないグラウンド」と定義していました。つまり解釈を加えるとアウェーチームとして行ってなんらかの理由で全力を発揮できない、戦意が様々な要因で削がれる場所といえるかも。
ゲストによってダンジョンの定義にある程度差はありますが厄介な場所であることは共通しています。インタビューを聞いているとスタジアムのアウェー施設に明らかな格差があったり、格差がなくてもボロかったり、そもそも遠征先の地域がとんでもなく寒かったり、観客が殺気をあらわにしていたり、芝の具合が変わっていたり、ダンジョンになる要素は実に多彩。複数重なってるケースも少なくないです。

そしてオーストラリア代表の対戦成績でホームに強いのを見るとスタジアムがというかオーストラリアという国そのものが一種のダンジョンになっているようにも思えます。どこから来ても遠いので必然的に移動時間が長かったりし北半球から来れば季節が逆だったり、天気や気温変動が色々おかしかったり(主にメルボルン)。そもそもサッカー関係なくオーストラリアは厳しい大地。

ポッドキャスト内でも言われていますが面白い&リスナーが聞きたいのはダンジョンの方で、確かに色んなゲストの話を聞いているとヨーロッパに行ったら最高峰のスタジアムの見学行くのと同じくらいダンジョンのスタジアムでの試合を見に行きたくなります。
まだまだ遠征も難しいですしもっと色々なスタジアムやグラウンドに焦点を当てるコンテンツがあると面白いかも。

さて今回タイトルを「見えてくる」としましたがこれだ!というほどの締めになるような何かがあるわけではないようで。
でも世界の様々なスタジアムやグラウンドでプレーしていたり、意外と伝統が好きだったり、Aリーグの試合に今ちょっと足りてないもの、代表チームの試合が国内で出来なくて失っているもの、今後に向けて作り出したい試合の雰囲気など少しずつ欠片が見えてくるような気もします。気がするだけかな?

ところで一覧アップしようと思ったのですが手書きが半メモクオリティなのでとりあえずは断念。ダンジョンの話も2度しましたしまた戻ってくる機会があればもしかしたら。