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Trees As Infrastructure インフラストラクチャーとしての街路樹 前編

Dark Matter Labs
Translation by Takeshi Okahashi

この記事は、Dark Matter LabsによるMedium記事「Trees As Infrastructure
: An open source model to support municipalities in transitioning toward resilient urban forest management practices
」の前編を訳出したものです。日本語への翻訳と掲載にあたっては、Dark Matter Labsの了解をいただきました。

課題の多いアーバンフォレスト(都市植樹

自治体がよりレジリエントなアーバンフォレスト管理の実践に移行するために必要なサポートをするオープンソースモデル

本記事は2つの関連する記事の1つめです。この最初のブログでは、なぜ自治体が植樹目標の達成に苦労しているのかを検証します。 2つめのブログ(後日訳出予定)では、各都市が緑のインフラストラクチャづくりに移行していく時に参考となる提案について論じます。

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<画像1>  都市の樹木に関連する社会的・経済的利益については科学的調査によって広く支持されている。

私たちは、気候危機と戦う(そしてその影響を緩和する)ために、いかに樹木が大事な存在なのかという認識がますます大きくなっていくのを目の当たりにしています。そこには、私たちそれぞれが住む都市に生えている樹木も含みます。しかし、都市がますます野心的な植林目標を発表する現実に反して、私たちのアーバンフォレスト管理のプロセスには、一連の構造的問題が内在しています。 2030年までに、プラハは100万本の木を植えることを約束し、ミラノは300万本の植林を目指し、シドニーは市内の既存の都市の森に500万本の樹木を追加する予定です。しかし、そのような緑化の取り組みを担当する当局は、信頼できる実用的な計画の実施および保守戦略を構築できていないのが現実です。イギリスでは、植林は政府の目標を71%下回っており米国の都市は自然災害や病害のために年間3,600万本の木を失っていてヨーロッパで最も緑豊かな都市である英国シェフィールドは5,000本の木々を失いました(猛烈な地元の抗議にもかかわらず、民間のメンテナンス請負業者が切り落としてしまったのです)。このような明白な失敗を見て、私たちの関心は、都市の樹木に関する予算の割り当て、会計手続き、社会政治的な認識など、より根深い問題に向かいました。レジリエントで豊かな未来にとって重要なインフラである樹木に対して大規模かつ共同的な投資を増やしていくためにも、このような根深い問題を克服していかなければなりません。

アーバンツリーシステムの歴史的な変遷:当時と現在

1896年、ニューイングランドのマサチューセッツ州は、公共的な樹木の管理と保護に責任を持つ監視員と代理人を任命することを自治体に義務付ける初めての樹木管理法を可決しました。

監視員たちは、樹木の除去および除去や剪定に関する告知をするために、植樹と再生のための適切な資金を拠出する権限を与えられました。当時の任務規定の記述からは、それぞれの樹木を土壌や他の樹木、昆虫、動物などとのつながりから切り離された「単一の孤立したユニット」として描写していることが読み取れ、それが「適切」なモデルであるというイメージを一層強めることになりました。その任務の目的とされていたのは、1つは樹木の根っこと自動車との衝突を避けること、1つは樹木の枝が歩行者に脅威を与えないこと、そしてもう1つが樹木の根が建物の基礎に脅威を与えないことでした。 1世紀以上経った今でも、私たちのシステムは、これらの前近代的な樹木管理法の時代に形成された非常に部分的でサイロ化された狭いメンタルイメージに従って樹木を管理し続けているのです。

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<画像2>  街路樹の20世紀の管理方法:(左)ニューヨーク市林業局の組織化に関する初期の提案資料。 (右)クイーンズでの樹木外科医の仕事を称揚しているところ

最近の最もわかりやすい例としては、2016年のレポートでシルバン・リンデンが、公園管理局によるベルリンでの14本の大木の大規模な伐採について書いています。当局は、伐採された樹木が歩行者と交通の安全を脅かす制御ができない野生の樹木であり、街路樹として「適切」ではなかったと述べていたとしています。アーバンツリーについての科学的および社会的理解は大幅に進歩しましたが、私たちは今でも樹木を「孤立したユニット」として扱い、植樹や管理をしています。

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<画像3>  都市の森林管理の20世紀モデルは21世紀も引き続き根強く残っている:ベルリンのミッテ地区の伐採された樹木を示す調査地図と写真

今や私たちは、都市の中で、樹木と人間が、豊かなエージェンシーのネットワークに組み込まれ、親密な相互の依存関係の中にあり、お互いに住みやすい場所を維持するために、相互に義務を担いあっていることを知っています。アーバンツリーを美的存在を超えたものとして認識し、都市をともに生きる仲間(co-inhabitants)として扱うことは、私たちの関係を注意深く観察し、お互いの生をサポートしあうための絡み合った相互の関係性を作っていくために良い影響をもたらすでしょう。アーバンツリーは、仲間であり、コミュニティであり、プロバイダーであり、専門的な証人であり、経済であり、データストーリーであり、そして老練で臨機の才がある私たちの祖先でもあるのです。それらは、土壌の質を再生し、ヒートアイランドの影響を減らし、食物と日陰を提供し、都市の生物多様性をサポートし、エネルギー使用を軽減してくれます。私たちのアーバンフォレストリー(都市植林)活動は、人類活動を木々と共に、木々を通して生きるプロセスに合わせていく方向で進められるべきです。

すでにいくつかの都市は、樹木の効果的なメンテナンスを促進するために、グリーンインフラストラクチャとしての樹木を意図的にその他のアーバンシステムと接続する形でのイノベーションに取り組み始めています。メルボルンは、2040年までに都市のキャノピーカバーを現在の22.5%から40%に倍増することを目的とした野心的なプログラムを進め、歩道に沿って浸透トレンチをインストールすることで、流れ出ていた水を街路樹を支える土壌システムへ戻すことで表層の水を管理・リサイクルし、都市の温度を下げようとしています。同様に、リオン都市圏(Greater Lyon Authority)は、雨水を集めることで、グリーンインフラストラクチャを活用した都市の冷却戦略を実現しています。 とりわけ、新しく植えられた樹木と既存の樹木の双方にセンサーを設置して、さまざまな成熟段階やさまざまな灌漑体制下で植生がもたらす冷却効果をモニター・定量化し、さらなるグリーンインフラストラクチャ開発のために制御されたデータを収集している点は注目に値します。

2018年、カーディフ評議会市は、250万ポンドを投資して「DŵrCymruWelsh Water」と「Natural Resources Wales」と提携して取り組んだ、都市領域をリデザインすることにより近隣の雨水を管理する革新的な計画である「Greener Grangetown(グランジタウンをもっとグリーンにしよう)」プロジェクトを完了しました。その管理方法は、8マイル以上に渡って雨水をポンプで汲み上げて海に放出する方法ではなく、ソフトなランドスケープ化によって雨水を集めてきれいにし、川に直接迂回させ、雨水保護のためにSuDS(Sustainable Drainage Systems:サステナブルな下水システム)の能力を効果的に使用するという手法であり、そのままウェールズの水管理会社に直接提供されています。レインガーデン、道路脇の樹木、その他のグリーンインフラストラクチャシステムを使用することで、合流式下水のオーバーフローを減少させ、廃水を処理施設に汲み上げるために使用されるエネルギー量も減少させることができました。これらすべてが「DŵrCymruWelshWater」に経済的な利益をもたらしています。同時に、大規模な公開協議プロセスを通じて開発されたこのプロジェクトは、歩行者用歩道や地域の果樹園が近隣地域と樹木との関係性を変えていくなど、さらなるメリットをもたらしています。現在、他の多くのステークホルダーや大学の参加も得て、このスキームのさらなる潜在的な利点を研究し始めています。例えば、グリーンインフラストラクチャの持つマイクロプラスチックを除去する能力を理解するための測定などです。

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<画像4>  カーディフのGreener Grangetown(グランジタウンをもっとグリーンに)プロジェクトは、雨水管理のための革新的なスキームを開発した

なぜ各地の自治体は、アーバンフォレストを促進するのに四苦八苦しているのか

私たちが現在も採用している19世紀から20世紀にかけて開発された旧来モデルは、アーバンツリーの会計、規制、資金集め、管理に関連する数々の障害を生み出してします。私たちはそれらの障害によって、自治体がアーバンフォレストの成長スピードを高めるために必要な公的資本を集め、市民の参加を高めていくことを妨げられていると考えています。

課題 1 : アーバンツリーが資産ではなくコストとして見なされてしまっている

今日、地方自治体のバランスシートや慣行の会計システムでは、樹木はコストとして計算されます。とりわけ、維持管理、保険の請求、伐採に予算を割り当てる必要があります。同時に、緊縮財政が過去30年にわたり経済を支配してきたことで、多くの街が予算削減に直面し、行政事業の質を下げてしまうことがわかっていても、コスト削減を余儀なくされています。

これにより、小さな樹種の植栽が好まれるようになり、その結果、街路樹の林冠被覆率と生態系サービスの減少を引き起こしています。また、都市の樹木を配置し、維持するために請負業者を選定する調達プロセスのなかで、多くの街の自治体は、支出を最小限に抑えた提案をする最低価格入札者にプロジェクトを委託するようになります。たとえば、樹木は古くなるほどメンテナンスが必要になるため、最低価格入札者は、コストの上昇を抑えるために、これらを若い苗木と頻繁に交換することを提案します。さらに心配なのは、ほとんどのプロの樹木担当官は、木材生産を増大させることを目的とした森林樹木モデルに基づいて伐採する最適なタイミングを決める慣行がある点です。つまり、実際のところ街路樹に関するガイダンスはほとんど存在せず、その研究もほとんどされていないのです。その結果、私たちのシステムは、都市林業の生態学的行動から得られる利益を促進し、享受するどころか、それがどんなものなのかを認識することもできていません。

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<画像 5>  樹木伐採のタイムスケールについての2つのアプローチ:A. 木材の大量生産を最適化するために、樹木を伐採して植え替えるのに最適な年齢が計画されている従来の森林管理に即したタイムスケール。 B. 樹木から得られる社会的および生態系の利益を最大化するために、樹木を伐採して植え替えるのに最適な年齢が計画されている最適なタイムスケール

イギリスでは、新しく植栽された森の何万本もの木が枯れてしまいましたーその多くは新しい高速鉄道網の建設のために古代からの森林が伐採され、新しく植え替えられた樹木でした。そうなってしまった元々の発端は、HS2(High Speed Two: イギリスの高速鉄道路線)がそうした昔からの森に水を行き渡らせるよりも若い樹木に植え替えた方がコストがかからないと主張したからでした。トルコでは、記録的な大量植栽プロジェクトの一環として植えられた1,100万本の苗木の最大90%が、わずか数か月後に枯れてしまったと言われています。 私たちの統計モデルによると、都市の樹木の50%は10年も持ちません。樹木の生態学的利益は実質的には50年後に始まるので、これは自治体にとってますます懸念されるべき課題のはずです。私たちは現在、欠陥のあるアーバンフォレストをつくり続けているのです。公共の樹木を負債ではなく資産として認識するように私たちの見方を変えることは、都市の環境のなかで木々が提供してくれる価値を維持したり高めたりするために重要なことになります。

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<画像 6>  よく行われているアーバンフォレストで樹木の利益がどう経年変化するかのチャート

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<画像 7>  樹木が植えられ、よく育つように管理されている場合に樹木がもたらす利益がどう経年変化するかのチャート

課題 2 : 成功指標がメンテナンスではなく植栽に偏っている

私たちの現在の目標設定には本質的な問題があります。成功の指標や定義において、植えるべき「樹木の数」だけにとらわれすぎているのです。この樹木の数という数値は、通常政治的マニフェストを通じて国レベルで導き出されるものであって、それぞれの地域の文脈にあった現実を反映していません。

ハックニー・ロンドン自治区のジョン・バーク評議員は、「樹木を何本植えたのかを話すことは、マニフェストの約束が現実的なものであることを一般の人々に伝えるには良い方法ですが、自然による炭素除去(carbon sequestration)の話をし始めることにつながりません。」と強く主張しています。彼は、アーバンフォレストを発展させる取り組みをこれまでとは違う方法で説明し始める必要があることを提案しています。たとえば「近隣地域で40%の樹冠被覆を実現している場合、地域での冷房や医療サービスに必要なエネルギー需要に大きな影響を与えることができる」といった伝え方です。では、私たちが最も費用効果の高い利益を享受するために、樹齢50年から200年の間のアーバンツリーを常に相応の量維持することを目標とした場合、どうなるのでしょうか。地域の自治体は、樹木を植えていく以上の成功の形があることを理解し始め、よりきめ細かく、気候科学にしっかり基づいた一連の異なる指標を検討する必要があります。カーディフの革新的な「Greener Grangetown(グランジタウンをより緑の地域へ)」プロジェクトの開発では、植樹の数値目標は設定されていませんでした。代わりに、実証段階において近隣地域が改善される範囲についてのレポートが作成されました。その結果、プロジェクトでは、コミュニティのプライド、アウトドア体験、水質、健康、福祉など、さまざまな指標とベネフィット(利益)が目標に組み込まれることになりました。

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<画像 8>  カーディフの「GreenerGrangetown(グランジタウンをより緑の地域へ)」グリーンインフラストラクチャプロジェクトの完了前後の持続可能な指標を示す研究

ドーナツ・エコノミーで知られるケイト・ラワースが指摘するように、私たちは「史上初めて、自然の寛大さと生命システムを自然本来の持つ指標で記述し、測定できるようになっていることを認識する必要があります[…]生態系の劣化を測定でき、土壌の質を測定できます。[ …]人間の健康状態、私たちの栄養状態、私たちの教育レベル、私たちの主観的な幸福のレベルも測定することができます。実際、私たちは生命そのものの観点から、人々と地球のウェルビーイング(幸福)を自然的および社会的指標を使って測定することができます。」

課題3 : 樹木の経済的利益を単純化しすぎている

樹木評価モデルが使われ始めた当初の目的は、公共の樹木が無断で傷つけられたり除去された場合に、地方自治体が適切なレベルの補償を達成するのをサポートするためでした。植樹の緊急性と財源の不足により、現在、樹木の金銭的価値を定量化する方法を提供するさまざまなツールが現れています。

ヘリウェルシステム」は、「個々の木や森林によって提供される視覚的快適性に金銭的価値」に重きを置いています。英国全土の当局によって広く採用されている「CAVAT」(Capital Asset Valuation of Amenity Trees: アメニティ(親水)樹林の資本資産評価)は、個々の樹木と樹木ストックを評価し、樹木の損傷または喪失に対する補償値を提供します。また、樹木を負債ではなく資産として管理するための「ビジネスケース」を作り出すための基礎となる、樹木の金銭的価値も提供します。最近では、USDAソフトウェアスイートである「i-Tree」が、大気質の改善、雨水管理、炭素隔離、炭素貯蔵などの環境機能のパフォーマンスを定量化し、標準的な生態系サービスアプローチで年間ごとの利益とトータルの総利益を評価しています。ニューヨーク市は、i-Treeプラットフォームを使用して、市の樹木からもたらされる生態系サービスを計算し、市内の樹木が、植樹と手入れに費やされる1ドルに対して5.6ドルの利益をもたらしていると結論づけ、「$1:5」として知られるモデルを開発しました。私たちのスマートコモンズで調査されているように、その価値の大部分は、他の市民的資産(civic assets)の場合と同様に、土地資産の価値を高められるところとのつながりからきています。

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<画像 9>  樹木を資産として評価するためのさまざまな方法論とその指標:(1)視覚的関連性、(2)市場価値、(3)アメニティ価値、および(4)生態系サービスに関連する総価値

とりわけ、上記の評価モデル郡は、都市樹木からもたらされるベネフィットを単純化しています。それは、ジェネリックな指標に依拠する場合(たとえば、Helliwellシステムは単一のツリー値に£127,590に制限して任意のポイントシステムを使用している)、固定されたパラメーターの平均値に依拠する場合(たとえば、CAVATの場合は樹木の幹のサイズに依拠している)、またはいくつものベネフィットを束ねる場合(たとえば、「$1:5」モデル)などがあります。カーディフ市の「Greener Grangetown」プロジェクトの話に戻ると、当局が行った評価調査で30年間で840万ポンドを超える利益の合計を見積もっていましたが、最終報告レポートによって政策が更新されることも資金配分に影響を与えることもありませんでした。それは、都市樹木によるサービスの受益者が誰なのかを決定すること(訳者注:つまり、受益者が市民であること)を可能にするほどの価値の転換が行われなかったからです。

都市の木々からもたらされるベネフィットを単純化したり、束ねたりすることは、当局が生態系サービスにお金を払うことでグリーンインフラストラクチャー事業の発展に投資できる財政的な受益者を巻き込んでいくことにも制約を与えてしまいます。同時に、私たちは複数の経済的受益者を想定したプロジェクトの開発を促進するための主要な資金調達メカニズムを持っていません。「GreenerGrangetown」の水道担当官であるイアン・ティザリントン氏は、次のように説明しています。「それは、このようなプロジェクトは特定の投資家の興味を引くような形で示されていないし(たとえば、洪水対策)、複数の受益者に向けられた対処であるので自治体は投資を得ることが難しくなってしまいます。なぜなら、理想的には投資家はプロジェクト全体に投資することを好むからです。こうして公共部門においては部門ごとの投資(silo funding)が行われているのです。

課題 4 : 私たちは中央集権化された人が作ったインフラストラクチャに意識がいってしまいがちである

私たちは、都市の文脈で樹木の存在に本来の意味で気づくのを忘れ続けていると言えます。森林生態学者のスザンヌ・シマールが指摘しているように、樹木は土壌に埋められた格子状の菌類のネットワークを通じてコミュニケートし、お互いに環境変化に関する警告をだしあい、親族を探し、近隣の植物に栄養を与えています。つまり、樹木たちはつながりに依存することで生き残っていることがわかっています。樹木は、全体として見た場合、数多くの生態学的サービスを提供する分散インフラストラクチャを形成する協調システムの一部なのです。

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<画像 10>  スザンヌ・シマールは、樹木が栄養分を交換し、地下の菌類のネットワークを介して競争し、コミュニケートすることを証明した

退屈な革命と関係性シフトが今こそ必要である

私たちは「退屈な革命」が必要であると主張します。それは、都市の樹木についての関係を管理し、契約を交わし、統治し、管理している、まさに官僚機構内での革命のことです。それと同時に、それぞれの「場所」と私たちの社会契約を構築し直すことで、アーバンフォレストリーに対する参加や共感を高めるために、人々の認識の社会文化的シフトが必要であると考えます。国際的に有名な植物神経生物学者であるステファノ・マンクソは、植物は進化的に劣っているといういまだに根強い見方があることを指摘し、「植物の世界は、常に第二位に置かれている」と書いています。たとえば、ノアの箱舟に植物は乗りません。樹木は人間や他の種にとって不可欠ですが、現在私たちはそれらに真っ当な評価を与えていません。私たちはそのことにほとんど気づいてもいません。しかし、今日急速に拡大している生態系の破局に内在する課題を克服するために、私たちはそれぞれの都市の樹木をもっと表舞台におし出していく必要があります。

70年代以降、環境保全金融のイノベーションとグリーンインフラストラクチャの指標が開発され、二酸化炭素排出量を相殺するための「REDD +」などの制度モデルや、増加する森林破壊や森林劣化に対処するための「terra0」や「GainForest」などの多数の新しいモデルも確立されています。しかし、自分たちとは遠いところにあるオフセットシステムが私たちの気候緊急事態の解決策であると考えるなら、私たちは自分自身をごまかしていると言えるでしょう。都市は気候危機の中心にあります。都市は、直接排出であれ消費ベースの排出であれ、環境汚染を引き起こす最大の張本人であるため、解決策を探らなければならないのは都市に住む私たちなのです。

最近のロンドンの環境戦略は、現在の市場ベースの考え方にもどづく高地や泥炭地での植林を支持している一方で、都市部や都市周辺部の植林が長期的にはより効果的である可能性があることを示しています。高地と泥炭地はすでに私たちの世界的な炭素貯蔵の貴重な管理人であり、さらなる植林がうまく行われないと有益ではなく有害になる可能性があります。都市部が排出源でありながら吸収源にもなるためには、都市という文脈の中でグリーンインフラストラクチャと自然保護をファイナンスしていくモデルをつくり出す必要があります。

しかし、私たち全員がそのプロセスに関与しない限り、ほとんど何も達成することができません。アムステルダムの持続可能性を担当する市議会議員であるフロアー・ゴードン氏は、アムステルダムの防雨プロジェクトの一環として次のように述べています。「分流式下水道の公共空間への適用と建設に関しては、自治体次第です。しかし、アムステルフェーンを耐候性にするためには、居住者や企業の協力も必要です。」 REDD+ はすでにこの教訓を学び、森に関わり、森の世話をすることができる人々を大事にすることにますます重点を置き始めています。「彼らは私たちの森が持つことができる最高の保護者です。コミュニティの積極的な参加なくして、効果的に森林を保護することはできません。」言い換えれば、私たちが必要としている革命は、文化の転換とたゆまない人間の努力、そして官僚的な変革であるべきなのです。

WHAT NEXT?

次の数週間で、このブログシリーズの第2部を掲載します。都市やコミュニティが豊かなアーバンフォレスト環境をつくり、テクノロジーの力も借りながら、それでいて深く人間らしい変化をとげて、グリーンインフラストラクチャー溢れる未来に向かっていくための組織的インフラストラクチャを作っていくモデルの概要(あるいはむしろ、私たちのすでに壊れたシステムの中でどのようにレバレッジポイントを作っていくかというわかりやすい組織化についての提案)を説明します。(*訳者注:すでに掲載されており、こちらが第2部のブログ記事です。こちらも後編として日本語記事として訳出しました。)

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<画像 11>  都市の森林をどのように評価するのか? 展示会、サマーセットハウス、2019年

これは、EIT Climate-KICの支援を受けて、Dark MatterLabsによって開発されたプロジェクトです。

Trees As Infrastructureは、Dark MatterLabs全体で取り組んでいる数多くの実験プロジェクトの1つです。 参加に興味がある場合、または詳細を知りたい場合は、@DarkMatterLabsまでお知らせください。

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参資料考(画像の出典)
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左図: 市の森林局の体制についてのCoxの提案, 1915. Laurie Davidson Cox, A Street Tree System for New York City, Borough of Manhattan: Report to Honorable Cabot, Commissioner of Parks, Boroughs of Manhattan and Richmond, New York City (Syracuse: Syracuse University, 1916)
右図: 樹医の活動を称揚している, Dermody Square, Queens, 1930. Courtesy NYC Municipal Archives
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左図: 樹木に関する土地台帳調査地図からの抜粋. 赤色部分: 伐採; 緑色部分: 登録された街路樹. Silvan Linden, Wildwuchs, or the worth of the Urban Wild, in Anna-Sophie Springer & Etienne Turpin (eds), The Word for World is still Forest (Berlin: K. Verlag and Haus der Kulturen der Welt, 2017), 170.
右図: ミッテ地区との境界から西側に臨んで見て、樹木が伐採されたところに番号をつけた写真. Silvan Linden, Wildwuchs, or the worth of the Urban Wild, in Anna-Sophie Springer & Etienne Turpin (eds), The Word for World is still Forest (Berlin: K. Verlag and Haus der Kulturen der Welt, 2017), 172–173.
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ツリーコンサルのFICFマネージングディレクターJeremy Barrell氏による最適化されたアーバンツリーの利益が時間につれてどのように変化していくのかを示した図; the missing part of the street tree cost benefit analysis equation, Institute of Chartered Foresters.
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Greener Grangetown, Sustainable Project Appraisal Routine (SPeAR) assessment, ARUP.
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左側は、30メートル区画のPluralis Genets and Douglas-fir 林のRhizopogonと言う菌類のトップダウンの空間的トポロジーを示したもの。 Suzanne Simardの研究により、森林が競争的なシステムであるだけでなく共同的なものであることが示された。実際、木々は栄養や防御シグナル、親類であるかどうかのシグナルを土中の菌類との共生関係ネットワーク(a mycorrhizal network)を通じてやりとりしている。 もっともネットワークの線がつながっている「マザーツリー」は同じ区画内の47の樹木とつながっている。Simmardの研究は、気候変動や害虫、皆伐が「マザーツリー」に影響を与え、その結果土中の菌類ネットワークに影響していることも示している。右側は、Douglas-fir 林のtree-mycorrhizal fungusのインタラクションネットワークのトポロジーを示したもの。ビジュアライゼーションをしたのは、Kevin J. Beiler, Suzanne Simard and Daniel M. Durall.
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私たちはどのようにアーバンフォレストを評価するのか?と言う問いは、私たちの街路樹との現在の関係と潜在的な未来の関係を問うプロトタイプの問いである。「コントーロールや依存」という関係から「共生や相互発展」という関係へ移行していくためにある問い。樹木は、人の繁栄にとって欠かせないが、現在の私たちは妥当な評価をしていないどころか、その存在を気にかけてもいない。
アーバンツリーがそれぞれの環境についてポジティブなシグナルだったり、ネガティブなシグナルを送っていることを元に考えると、私たちはアーバンツリーをどう評価していけばいいのだろうか?都市の意思決定プロセスに木々を取り入れるとどうなるのかを考え直してみてはどうだろうか?包括的なアーバンアフォレストレーション(都市森林化)をサポートすることは、それがそのままマインドシフトのツールにもなるということである。つまり、樹木を美的な飾りやコストとして見るのではなく、価値のある資産であり、樹木が人間や(動植物などの)ノンヒューマなアクターにもたらす複数の利益について認識(し、ビジュアルとしても表現)することである。そうすることが、人間やより広い生物多様性がより豊かに繁栄していくための条件となる。

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