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INSPIRATIONS: 自然とデザインをつないで考えるためのヒント 2月

自然とデザインをつないで考えるためのヒントをピックアップする「INSPIRATIONS」。新旧問わずに、デザイン、アート、ビジネス、環境活動、サイエンス等の領域を横断し、ACTANT FORESTメンバーそれぞれのリサーチに役立った、みなさんにお薦めしたい情報をご紹介します。

01:ソーラーパネルを戴く巨石のアミニズム

ストーン・サークル》(2018)は、ロンドンを拠点とするアーティスト、ハルーン・ミルザによる野外インスタレーション。ボールルーム・マーファからの委嘱でテキサス州マーファ郊外に設置された、9つの黒い大理石からなるモニュメントだ。英国ダービシャーの「ナイン・レディース」に着想を得たという本作。遺跡同様、巨石が円形に配されているが、うち8つにはLEDとスピーカーが精巧に埋め込まれ、また「マザー」ストーンと呼ばれる9つ目の石には矩形のソーラーパネルが取り付けられている。ここに蓄積された太陽エネルギーによって、巨石群は満月の夜ごとにサウンドと光の複雑なパターンを放つ装置となり、自らを作曲家と捉えるミルザの「ソーラー・シンフォニー」を奏でるという。このプロジェクトを機に、地域の人々のソーラー発電利用が30倍に増加したという思いがけない余波も生んでいるそうだが、荒野に佇む巨石のミニマルなありようと、人工的な機構がもたらす物語性は、現代の私たちにも、先史の人々が有していた自然との謎めいたつながりを感じとらせてくれることだろう。

02:公園に生息する動植物たちの民主主義

アートとテクノロジーを通じた社会変革に向けて活動するアート団体、ファーザーフィールド。1996年に設立され、現在はロンドン北部のフィンズベリーパーク内に拠点をおく彼らは、DIWO(Do It With Others)の理念に基づき、公園を訪れる市民やコミュニティを巻き込む様々なプロジェクトを展開している。現在進行中の「フィンズベリーパーク条約2025」も、そのひとつ。2022–23年にわたって実施されるLARP(ライブアクション・ロールプレイゲーム)で、参加者は、公園に生息するすべての生きものが自分たちの住環境や文化に対する平等な権利をもち、政治的行動を通じて相互種間民主主義(interspecies democracy)のための協定を結ぶというストーリーを演じる。人間はみな仮面を付けて、公園内の生物を代表する7種(犬、クワガタムシ、ハチ、ガン、草、リス、プラタナス)の外交団の一員となり、リアル/オンラインでの「集会」や「投票」などのイベントを経て、条約案の発表とともに開催される「相互種間フェスティバル」に向けて議論や計画を進めていく。人間同士が期待する自由や正義を、他の種として求め行動するプレイを通じて、人々が公園の内外に棲む生物への共感経路を開いていくことを目指しているという。フェスティバルは、来夏に開催予定。

03:都市の木々をトークン化するために

シティフォレストクレジッツ(CFC)は、大都市圏の森林や樹木に蓄積された炭素をトークン化して取引できるようにする評価基準を提供している。物理的な資産をトークン化するには、ブロックチェーン上で表現される必要がある。先日公開したnoteでReFiに関して述べたが、そのためには測定、定量化、報告、検証が重要となる。様々な森林保全活動に対する基準がある中で、CFCはアーバンフォレストに特化されたものだ。例えば、都市に新たに植樹された木を管理する基準では、26年間という期間が定められている。規約では、植樹するための土地所有や樹木の密度に関する条件、トラブルがあった際のクレジットの返還、モニタリング方法などが明文化されている。都市の木々を、ReFiのマーケットプレイスで取引できるようにする重要な基準だ。アーバンフォレストの目的は、樹木を通じて社会的、環境的な利益をもたらすことであり、伐採して木材として販売する林業とは異なる。炭素クレジットは、公的資金が不足する中、都市の木を収益化する貴重な方法になり得る。CFCが広まることで、アーバンフォレストを醸成する現場の人々にとって、少なくとも26年間の活動支援を得る基盤となるかもしれない。

04:種子も「オープンソース」に

種子には、小規模農家や育種家が地域の特性や需要に合わせて、各々の土地に合った作物をつくることができるよう品種改良を進めてきたという歴史がある。ところが近年、さまざまな形質・特性の作物の種子が、一部の国際大企業によって独占されているという懸念が広がっている。たとえば、レタスひとつとっても、今世界に存在するほとんどの形質・特性のレタスの種子は、バイエル(モンサント)などの大企業が特許を取得し、その所有権を独占しているという。2012年にはオックスファムの調べで、世界の上位4企業によって既存の種子取引の60%以上が占められていることも明らかになった。そういった懸念に呼応して、種子もソフトウェアコードのように「オープンソース」にしようという動きが存在する。2012年に設立されたオープンソース・シード・イニシアチブ(OSSI)もそのひとつだ。OSSIに誓約を立てた種子は、誰もが自由に使用、保存、再植、改良することができる。所有権のないオープンソースな種子が増えることで、小規模農家や育種家、園芸家が個々の土地に合わせた品種をつくりだし、種子の多様性が促進されることを目指す。ファーム・トゥ・テーブルならぬシード・トゥ・テーブル。次にサラダを食べるときには、その野菜の種はどこから来て誰に所有されているのか、あるいはされていないのか(独占されているのか?オープンなのか?)を考えてみるのもいいかもしれない。

05:ウッドワイドウェブは議論継続中

「ウッドワイドウェブ」とは、土壌中の菌類のネットワークによって樹木間で栄養分や情報がやり取りされ、森の成長が助けられているという考え方だ。1990年代からウッドワイドウェブの存在を示唆するいくつもの研究が発表され、研究者も非研究者も、このコンセプトに魅了されてきた。ピューリッツァー賞を受賞した小説『オーバーストーリー』もウッドワイドウェブに大きなインスピレーションを得ている文学作品だ。しかし、ニューヨークタイムズの記事では、ウッドワイドウェブの考え方が、研究者の間ではまだまだ議論継続であることが詳しく伝えられている。たとえば、ブリティッシュ・コロンビア大学の生物学者メラニー・ジョーンズらは、最近発表された研究のレビューで、菌類ネットワークを共有することで木がコミュニケーションを取ったり資源を交換したり、成長するのに役立つという証拠はほとんどないことを示したと主張している。また、ウッドワイドウェブの存在を示す論文の共著者でもあったジャスティン・カースト博士は、先ごろ北京で開催された国際菌根菌学会において(2022年8月に発表)、森林全体のネットワーク仮説に用いられている多くの論拠は、他の形での説明が可能であると主張した。つまり、ウッドワイドウェブを自明のことのように参照するには、まだ時期尚早のようだ。今後の研究と議論の進展を楽しみに待ちたい。記事は、森は「まだまだミステリアスでワンダフルな場所なんだ」と言う科学者の一言で締め括られている。

06:未来の実験場としての庭「ガーデン・フューチャーズ」展

バーゼル近郊にあるヴィトラ・デザイン・ミュージアムで、3月25日から「庭」を主題とする展覧会が開催される。人間と自然をつなぐ場として、さまざまな地域・時代の文化に深く根ざし、人々の理想や希望を映し出してきた「庭」。気候変動や生物多様性、食糧難、社会正義といった問題に直面する現代において、庭は単なる憩いの空間としてではなく、持続可能な未来を想像し、解決策を見出すための実験場として再び関心を集めている。展覧会では、理想郷としての庭、庭園デザインの政治・社会的背景、20世紀以降の先駆的な庭園プロジェクト、人新世における新たなアプローチといった補助線のもと、造園家たちのドローイングや、メディアインスタレーション、アート作品、家具や道具などの幅広い展示品を通じて、その歴史と未来を探るという。周囲の景観に開かれながらも閉ざされた空間のなかで、人は自然と共生しながら文化を育んできた。地球もまたひとつの庭であると捉えるなら、今そこにはどのような未来が投影されているのだろうか。展示はFormafantasmaによるデザインで、2024年にはロッテルダムのHet Nieuwe Instituutへ巡回予定。


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