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ジェリー・フィッシュ

日本の夏は嫌いです。じめじめしていてなんとなく息苦しくて、なにより暑い。台風が過ぎ去ったことにより、どーにかこーにか(おばか)なって涼しくなってきました。さあさあ!ここからはこちらのターン!さようなら夏、おいでやす秋!皆さまおばんです、花袋です



今回は、雛倉さりえさんの『ジェリー・フィッシュ』を読みました

お願い、私の首を絞めて。もっときつく、私を貶めて――。クラゲ水槽の前で突然交わした、初めてのキス。夏の夜、廃墟と化した植物園での貪るようなセックス。真っ逆さまに、恋と性の狭間にころげ堕ちて行った私たちは、永遠を信じない振りして確かに信じていたんだ――。16 歳の圧倒的筆力が突きつける、瑞々しい恋、残酷な生と性。デビュー作でいきなり映画化の超問題作。

『ジェリー・フィッシュ』あらすじ

上記にもあるように、この作品は当時16歳だった作者によって描かれました

具体的な作家名は挙げませんが、高校生作家ってそこまで珍しくはないですし、いい意味でも悪い意味でも「あー高校生が書いたんだな」と思えるような内容や文章力だったりすることがほとんどでした

だけど、雛倉さんは今までの高校生作家とは明らかに違いました。なんだこの筆力は……

え、うそうそ、これほんとに16歳が書いたの?

そう疑わずにはいられないほど、残酷で美しい物語に、ふと目を閉じればすぐにでも映像が浮かんできそうな描写の嵐。圧倒されました。圧巻でした

ここまで美しい文章を書く作家は、きっと大人でもそう多くはいないでしょう。花袋も一応物書きとしてやっているので、尊敬すると同時に圧倒的な筆力を前に嫉妬さえも覚えてしまいます

雛倉さんは初読み作家さんでしたが一気にファンの階段を駆け上りました。もっとこの美しい文章を、表現を、物語を摂取したい。ストレートの紅茶に溶かして一滴残らず飲み干したい


作中で「さみしいものってきれいでしょう」という言葉が出てきますが、まさにその通りで、『ジェリー・フィッシュ』には終始、クラゲがたゆたうような優雅さと冬の朝のような冷たさが同居していました。何度でも浸っていたいこの物語、たいへん畏怖……


最後に、花袋が作中でいちばん好きだった文章を紹介させてください

彼女が答え、ふたたび静けさが訪れた。沈黙は、けれどもう不自然なものではなかった。わたしたちは辺りをみたしている静寂にたっぷりと浸り、それを触媒として、言葉ではなく呼気で繋がった。音はもう必要ではなく、ただ隣にいるだけでよかった。

『ジェリー・フィッシュ』15頁より引用

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