好きな人ができたらどうする?(ブックレビュー『北欧に学ぶ好きな人ができたらどうする?』
アクロストンのブックレビュー!
私達は性の話が食べ物とか洋服と同じように身近な存在にならないかな、とよく思ってます。性の話は生活に密着したもの。だから隠したり、かしこまって真面目に習うのではなく、気軽に触れられるのが良いなあと。
これを叶えるために簡単な方法の一つは性に関する本をリビングに置くことです。
でもなかなかリビングに置きたい気持ちになる本は出会えません。
リアルさを追求されすぎて生々しいものや、かわいくないものが多いです。
そんな中、リビングに置きたくなる素敵な本を最近見つけました。
「北欧にまなぶ好きな人ができたら、どうする?」 (晶文社)です。
この本、良質な短編映画のように楽しめるだけじゃなく、性のことも学べる貴重な本です。
※ここからは少々のネタバレを含んでいます。
デンマークで書かれたマンガで、思春期 (主人公達の年齢は明記されてない)の女の子と男の子の恋愛もの。
この本、片側からはヴィオラ (女の子)視点、そして裏側からはストーム (男の子)視点でストーリーが進んでいき、真ん中で2人の物語がぶつかります。
(上がヴィオラ視点のストーリー側)
(こっちがストーム視点の側)
ヴィオラは自分に自信が無い女の子。
彼女の心情はヴィオラ編の冒頭によく表れてます。
「なんで急に悲しくなるんだろう、、。さっきまで楽しい気分だったのに」
彼女がストームのことを好きだと気付いた時のセリフ。臆病なために前へ進めません。 自分に自信が持てずストームに自分の心を打ち明けられない日々。
私がヴィオラ編で好きなのはお父さんに自分の悩みを相談するところ。明確な答えは出ないのですが、優しく示唆に富んだ言葉が綴られてます。
一方のストームのことがよく表れているのはこちら。
「たすけて!おれ、好きな子ができたみたい。でなきゃ、こんなに頭がヘンになるわけない。」
彼の心の声です。ヴィオラのことが好きであるにも関わらず、周りの目を気にしたりして自分の心に正直な行動が取れません。 途中で好きでもない子に接近したりして、自分を見失います。
この物語ではそんなヴィオラとストームがとことん悩みます。「そもそも恋愛ってなんだろう」、「相手のどこが好きなのだろう」、「自分は普通じゃないんじゃないか」、「脳の中ではどんなことが起きてるのだろう」。
こういった彼らの悩む過程のところで哲学、歴史、脳の仕組み、性の話をトピックスとして書かれています。
例えばストームが自分の性欲について考え出したところでは、恋愛を開始するのは何歳に多いか、恋人を作るのは何歳からかなどが書かれてます(数字はデンマークのですが)。ここでディープキスする年齢やオーガスムを体験する年齢まで盛り込んでるのが文化の違いを感じさせます。
ヴィオラが、ストームのどこにひかれてるのかと考え出すところでは、学校の課題授業で街中で「あなたは相手のどこにひかれて人を好きになりますか?」というアンケートを取りに行ったり (デンマークでは現実にこういう課題をやってるのでしょうか?だとしたらすごい!)。
友人や家族に相談し、知識的なことをつめこみ、また悩み、そして最後に2人の物語が合わさります。
このラストシーン、いまここで見せたいぐらい美しい。
感動を共有したいから、興味のある人早く読んで!
ちなみに学校の授業のシーンでコンドームの使い方を先生が教えており、「これによって妊娠の可能性が無くなり、性が解放された」とヴィオラやストーム達に教えています。
実際にはコンドームの避妊成功率は85から98%ですのでそこは間違ってますが、単なる避妊法とは教えず「性を解放した」と表現してるのが面白い。
また、このページはとにかく全ての人に読んでほしい!!私達も学校の授業などで毎回話すことです。(ストーム編のp56)
素敵な本で子供にも大人にもオススメなのですが、性教育の観点から一部気になる点があるので念のため記しておきます。
・男の子はこう、女の子はこう、というようなステレオタイプの表現が多いです。ジェンダーや性の多様性への配慮が足りないかな、と感じました。
・セックスについて授業で習っているシーンで人種差別的な表現が少し出てきます。男子が授業中に各国のセックスの様子をふざけて言っている場面なので、あくまでジョークとして描かれてはいます。
・各国の婚礼の形式について載っているところで、アフリカやカンボジアでは未婚女性が親の指示下で夫候補とセックスをする旨が紹介されていますが、実際はレイプの温床になっていることで問題になっています。
こういったことが性教育コンテンツに関わっているものとして気にはなりましたが、やっぱりこの本は私のオススメです。
妻・夫。二人とも医師。子どもに必要な性の知識を楽しく・ポップで・まじめなコンテンツにしてお届けします。 https://acrosstone.jimdofree.com https://www.facebook.com/acrosstone インスタグラム:@acrosstone