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【実況中継】オカンこの世を卒業するらしい #5最終回

「オカンと2人きりにしてくれ」

そんなドラマチックなことを言う弟であったが、なかなか病院に到着しなかった。

病院の外で待ってるのも寒いので、ロビーで待つ。
エントランスから弟が飛び込んできた。

「先行く?」
「いや、もう一緒に行こ」
「いいの?」
「うん、もう話ができるどころじゃないやろ」

いや、弟よ。
君は、いつも本当に、ギリギリになってから気づくんだよね。
知ってたけど。

そんな君が心配で、6年生だったわたしは、1年生の君の教室まで、いつも覗きに行ったものだよ。

結局ふたり一緒にエレベーターに乗り込んだ。

オカンの階に到着。
介護病棟に入るガラスドアの前で、チャイムを鳴らすと、看護師さんがバタバタとふたり走ってきてくれた。

「今でした」



「今でした?って?」
「今亡くなったってことや」
「あー!」

いや、弟よ。
本当に、君はいつも・・・(以下同文)
2021年1月4日(月)14:30のことだった。

オカンまだ柔らかくて、普通にあったかかった。
わたしは手が冷たかったから、あんまり触ったら寒がるような気がして、遠慮しながら触れた。
髪はなんども撫でた。

自分が泣くとは思ってなかったので、声が出てしまうのを、意外やなーと思ってるもう1人の自分がいた。

弟は、ふとんをめくってはかけ、めくってはかけて、何を確かめてるのだろうか。
意味わからん。

しばらくしたら、ロビーで待ってるよう言い渡された。

お着替えが終わったオカンは、ドラマに出てくるような部屋に横たわってて、簡単な祭壇にはお線香や蝋燭もあった。

たくさんの看護師さんが、入れ替わり立ち替わり見送りに来てくれた。
泣いてくれる人もいた。

名札を見ると、知ってる名前の人もちらほらいたけど、お会いするのは初めて。
お見舞い、制限されてたからね。
電話で何度も様子を知らせて下さっていた人たち。
毎日毎日、お世話くださった方たちと、やっとゆっくり会えた。

ありがとうございました。

これを書いてるのは、その2日後の1月6日です。
かなり迷いましたが、本日、弟と2人だけで、オカン葬儀をすることになりました。

葬儀社の方に聞いたところ、今の時期、ごく数人の家族だけで送るケースが多いそうです。
高齢の方は特に呼ばないほうがいいと。
会食も避けてくださいと。

なので、親族にもまだ連絡はいたしておりません。
連絡したら、お年寄りも遠方の方も、きっとがんばって来てくれちゃうから。

無理して来なくていいよって言ったって、
来てくれちゃうから!

知らせたい!
そりゃ一刻も早く。
伯父や叔母や従姉妹や、オカンの親しい人たちも、みんなまだ知らないわけです。

そのことが今はつらいです。
「葬儀をすべて終えてから、知らせたほうがええんや」
と喪主である弟の判断です。
(この判断はわたしも認めざるを得ない)

もし親族やオカンの友人知人の皆様、
これをご覧になることがあったとしたら、
本当にごめんなさいね。どうかご理解ください。

緊急事態宣言っていう言葉が、過去になったとき、あらためて、親族やみなさんに安心してお会いしたい。

オカンは歌が好きでした。
美空ひばりの「川の流れのように」
これを自分の歌だと思っていたようです。

あのイントロが聞こえてきた時は、オカン「和子ちゃん」のことを思い出してもらえたら嬉しいです。

なんやったら一緒に歌ってくれたらもっと喜ぶと思います。




おわり

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