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理想のキッチン検討会③少人数家族と海外のキッチン

 久々にオンライン座談会、「理想のキッチン検討会」を開催しました。これは、私の令和の台所改善運動の原点。また、参加者を見つけたら実施していきたいと思います。

 今回は、料理家の金子文恵さんが主催する「ふみえ食堂」にお招きいただき、参加した人たちが集まりました。金子さんとの出会いは、レシピ本編集者で「料理が仕事\ごきげん/Salon」を主宰する綛谷久美さんが第2回の理想のキッチン検討会を開催した折、参加してくださったこと。その後『クックパッドニュース』で連載していた「作家・阿古真理さんのキッチン探しストーリー第六編」に登場してくださいました。

 今回は、1人暮らしなど大人の少人数家族が集まりました。そして、海外滞在歴がある人が集まっていたので、彼女たちの見聞も交えつつ、キッチンの問題と工夫のポイントを話し合っています。

仲間と使えるシステムキッチン

 まずは自己紹介タイム。私も自己紹介したのち、IT企業勤務で薬膳料理家でもある石井りかさんのお話です。私が参加したふみえ食堂の会場提供者でもありました。ご自身が所有する注文住宅なので、1人暮らしで猫がいるそうですが、シェアを前提にしたキッチンです。料理教室やパーティもできる環境を求め、パナソニックの2列型ペニンシュラキッチンにしたそうです。

 背面収納の色とデザインを合わせたので、収納に見える冷蔵庫がステキです。冷蔵庫はコンロ前ですが、隣に玄関から直接入れる約2畳のパントリーがあるので、回遊動線でもある。対面キッチンが向き合う壁にも、ひいおじいさまが購入したステキな食器棚があります。

 「来客が多く、最近は終活で出てきた高級食器などをいただく機会が多いので、食器の収納が足りない」と石井さん。料理家に多い悩みですが、調味料の種類が多いので、コンロ横収納でも足りないそうです。「車輪つきの細い収納棚をオーダーで作り、通常はパントリーに入れておけば便利なのでは?」とご提案したところ、喜んでくださいました。

 キッチンの幅は2700ミリ、高さは背が高いお母様が使ってきたご実家と合わせて900ミリですが、石井さんは160センチ。高めですが、慣れているので不自由はないそうです。調理台の下は食洗機、3口ガスコンロの下はガスオーブン、背面収納には電子レンジもあります。「工夫点は、背面収納の引き出しの一つを、ゴミ箱入れにしたこと」。来客に目につかず、歩く際にも邪魔にならない点が気に入っているそうです。

イギリスはコンロが5口!

 次は金子さんのレシピ本も担当した、編集者の早草れい子さん。ご自身のプライベートは非公開ですが、以前イギリスに住んでいた折に見てきたキッチンをぜひ紹介したい、とご参加くださいました。

 現地の量販店で撮ってきた写真を元に、ガスが5口、下にオーブン、ディッシュウォーマー、料理などを入れておける保温機器が内蔵されたコンロが、日本円の20~40万円台で普通に売られているとのこと。4口が標準サイズで5口6口もあるのだそうです。日本とはコンロ環境がまるで違う。

イギリスの量販店にて

 うかがった友人宅では、「シンクに100度のお湯を入れられる蛇口があって、パスタをあっという間に茹でられるんですよ。インターネットで調べたら、そのメーカーは炭酸水が出る蛇口も売っていました」と早草さん。

 夢のような話、と驚くのはまだ早い。なんと、ふだんはカウンターに内蔵できるスタンド式コンセントもあるそうで、ブレンダーやミキサーを使うときに便利です。キッチン本体にコンセントをつけられなかったため、ブレンダーを使う際に困っている、という石井さんがうらやましがっていました。こうしたキッチンは、日本では『新建築住宅特集』2019年12月号で専門家の男性たちが語り合っていた「未来のキッチン」でした……。

ワンルームの極小キッチンで

 次は会社員の高野敦子さん。1人暮らしで以前は2口コンロを置ける部屋に住んでいたそうですが、取り壊しで立ち退きを余儀なくされ、現在は極小キッチンつきのワンルームにお住まいです。私が最も改善を必要とすると考えてきた、キッチンの実情をお話くださるのです!

 今回のメンバーは、皆料理好き。高野さんも例外ではありません。しかし、現在のキッチンは玄関から死角になっているものの、隠れた場所であることもあって窓から遠く暗い。換気扇は浴室などにつく小さなタイプで、ガスの1口コンロのみ。調理台はなくシンクは幅380×深さ160×奥行310ミリ、キッチン自体は幅830×高さ830×奥行470ミリしかないのです。シンクの上に3段の棚があって最下段は水切り棚になっています。

 コンロの横は2ドア冷蔵庫、その上に電子レンジを置いている高野さん。可動式のワゴンをキッチンの前に置き、その上や、通販で買った台をコンロに載せて、調理台スペースを確保しているとのことです。水道がレバー式で水とお湯の返還がラクなのが唯一の救い。換気扇がほとんど役に立たないのに、コンロ回りに金属板を貼って料理する前提になっているのが謎、とおっしゃいます。料理できない、と落胆しそうな空間でも、工夫して料理をきちんとされているのが素晴らしい。


調理台スペース問題を考える

 高野さんは朝にパン食、昼は仕事先で、夜も遅い日があるので、料理するのは基本週末。コンロが1口しかないので、電子レンジもかなり活用しています。

「料理する頻度は減らないですけど、買うときにカット野菜を買おうかな、と迷います」と高野さん、早草さんは「実家に住んでいたとき、調理台の半分を水切りかごが塞いでいるので、まな板を置くとスペースがなくなっていました」と共感します。

 私がキッチンの歴史を書く際、インターネットで公開されている、業界各社が実施したここ10年のキッチンアンケートを集めたところ、キッチンの3大悩みは、調理スペース不足、収納不足、そしてお手入れだとわかりました。

 石井さんが「高野さんを存じ上げているので、ちょっと質問です。お手製の鯛料理をイベントで差し入れてくださったことがありますが、どうやって調理されているのですか?」と聞き、高野さんは「台所を借りられるお友達がいます。そのときはハレとケのハレみたいに、広いキッチンで思い切り料理をさせていただいています。だから、私は恵まれていると思います」と返答。「よかったら高野さん、うちも使ってください」と石井さん。案外、料理好きたちは、こうした友人ネットワークに支えられているのでしょうか。

 このように不便なシングル用の部屋のキッチンをなくすために最低基準を決めたらどうか、と私は考えていましたが、業界事情を知る人に取材した折、それではキッチンなし物件が誕生するリスクがあると言われました

 日本は今のところ、キッチンレス物件はなさそうですが、シンガポールやバンコクにはそうした部屋があります。屋台文化に支えられているからとも言えるし、屋台が当てにされているとも言えるでしょう。

収納が足りない問題について

 再び高野さんに聞くと、「野菜が不足しがちなので、つい買っちゃって冷蔵庫に力づくで押し込んでいます。いつ食べられるかわからないので、日にちが経っても傷まないよう電子レンジでゆで、タッパーに詰めておくんです」とのこと。私も4半世紀前に1人暮らしをしたが、ニンジンやキュウリが冷蔵庫で溶けたことがあった。その話をすると高野さんもうなずき、「野菜って、冷蔵庫で育つんだって私も学習しました」と言ってくれました。

 早草さんが「ラッキョウや梅干しを漬けるので、ビンが溜まりますし、食器も好きなのでつい買ってしまい、収納はいつも足りないです」と言うのには、心からうなずきたいです。心を豊かにするモノを入れられるぐらい、空間にゆとりがあってもいいのでは?

 早草さんは「イギリスの冷蔵庫は冷凍室のほうが大きく、3、4段は冷凍庫です。週に1回の買い物で済ませる文化だから、冷凍庫が発達して冷蔵室が狭くなったのかもしれません。セカンド冷凍庫を買おうか、と思うこともありますが、置き場所がない」とも話します。

 私はセカンド野菜室が欲しいですが、たぶんそのニーズは少ないから商品化しないでしょうね

 石井さんは、「うちはもう1台冷蔵庫があって、ドリンク用です」とのこと。以前クックパッドの連載で取材した今野さん宅も、ワイン用とビール用の冷蔵庫がありました。石井さんの家には、16人もの来客がある場合があるそうで、来客が多い人や家族が多い人はドリンク用冷蔵庫は必要でしょう。こちらは商品がいくつかあります。

ヨーロッパの料理文化とキッチン

 早草さんによると、イギリスでは隠す収納を選んだ家庭を訪ねることが多かったそうです。「日本は主食、主菜って料理がバランスよく献立になっていますが、イギリスで訪ねた方々はふだん、1品料理のようでした。よくおいしくないって言われますが、私が招かれた方の料理はおいしかったです。あと、ふだんは出来合いのものを買う人も多そうです。ステーキパイなど、温めたらすぐできる冷凍食品はたくさん売っています」。

 もともとヨーロッパはオーブンに入れっぱなし、鍋で煮込むだけ、といった簡単な料理は多いイメージがあり、フランスでも総菜産業は発達しています。よく言われているように、日本人はけっこう手がかかる料理をこまめに作っているのでしょう。

 そこで、石井さんが実はドイツに住んでいたことがある、という話に。「当時は3口の電気コンロを使う日本人の家庭に滞在していました。日本食は作りにくかったようです。ドイツもイギリスと同じく、人を招いてもいいように全部収納している印象でした。友人宅にお邪魔した際、自作して冷凍していたオニオングラタンスープ1品でもてなされたことがあります」

 高野さんも、高校生のときに1カ月間イギリスの家庭にホームステイした経験があったそうで、「早草さんのお話で納得したのですが、共働きの家で1週間のメニューが決まっていました。台所は基本的に使わないのできれいですし、メニューも洗う手順も決まっているので、常にきれいでした。しかし、生活を楽しんでいて、週末に家族でパブに行き、食事をするという生活も新鮮でした」。

 日本人はもしかして、料理し過ぎなのでしょうか。にも拘わらず、料理環境は貧弱で、あまり料理しないヨーロッパの人たちは立派なキッチンを持っている……。

間取りと動線。冷蔵庫の位置について

 日本のキッチンは、賃貸でも使い勝手を良くカスタマイズできる場合と、スペース不足や動線の都合で改良の余地もない場合があります。そこで、冷蔵庫がキッチンの一番奥にしか置けないために、動線が悪く、同居している家族が調理中は飲み物も取りに入れない、ワンオペを前提にしたキッチンの問題について語り合いました。高名な建築家でキッチンを重視していた吉村順三とその弟子筋の建築家たちは、冷蔵庫は入り口近くに置き、買い物した食材を入れる、出して料理し始める動線に沿ったものを提案してきましたが、日本のキッチンは分譲マンションも含め、冷蔵庫が一番奥のレイアウトが珍しくないのです。

 コンロ前ですが出入り口近くに冷蔵庫を持つ石井さんは「今までお友達の家や自分が住んだところは、全部そうでした。風水で火と水を対面に置いてはいけない、冷蔵庫がコンロの向かいはよくない、と言われたことがあります。確かにそうですね」とうなずく。

 早草さんも「知人の家にも、冷蔵庫を開けたら人1人分しかスペースがないキッチンでコンロの前でした。確かに動線に反している、と私も今の話を聞いて思いました」と賛同。

 一方で、生活感を隠すために一番奥がいい、という考え方もあると話すと、高野さんが「うちのキッチンは玄関から見えないんです。生活感を嫌う間取りなのかもしれないです」と話す。

忘れられがちな、遊びの要素


 早草さんは、キッチンにテレビを置いていて作業中に見ているのだそう。「前の家が独立型のキッチンで、調理中にテレビが見られないことにフラストレーションを感じていたんです。締め切りに追われているとテレビを見る時間もないけど、調理中は楽しくやりたい」と話す早草さん。

 今は小型の薄型テレビもあれば、スマホでテレビやユーチューブなども見られます。確かにキッチンで楽しめたら、調理や後片付けも負担感が減るかもしれません。「今はコンテンツが充実していますが、キッチンの動線とはリンクしていないことが多いので、そういう可能性もメーカーさんが考えてくださるといいですよね」と早草さん。

 盛り上がっていると、石井さんが「すでに音楽を再生できるように、背面収納にタワースピーカーで古いiPhoneとiPodをつなげて、アゲアゲの音楽を聴いて気持ちよく料理しているときがあります」と言って、改めて画像をシェアしてくれました。

 私の理想のキッチン探しのきっかけは、港北ニュータウンのURで、踊れるぐらい広いキッチンに遭遇したことでした。私たちの収入で賃貸生活でも、使いやすくゆとりがあるキッチンは手に入るかもしれない……そう思えたからこそ、令和の台所改善運動は始められたし、懲りずにキッチンを探しつつ、日本の貧しいキッチン事情について掘り下げることができました。

それぞれの理想とまとめ

 早草さんは、パントリーがあるとすっきり暮らせそう、と言います。今は湿気対策を含めてブリキ缶を使っていてその数が多いそうです。高野さんは、狭さ問題より切実なのは、キッチンに自然光が入らないこと。確かに、自然光問題は重要です。間取りの都合上、窓を取れない部屋が出てきたり、建て込んでいるために日が射しこみにくい部屋も世の中には多いのです。天窓や縦長の細い窓でもあればいいのですが……。「片隅に追いやられて、柱に囲まれ鬱屈するようなスペースなんです。この部屋は台所が一番重要度が低い、生活感がない」という高野さんの思いは切実です。日本は憲法で「健康で文化的な最低限の生活」をする権利が保障されているはずなのに、そうした生活ができない部屋は本当に多く、その代表が、命を支えるに足りないかも、と思わせるキッチンが本当に多いことです。

 石井さんは今、天板の素材について興味があるそう。石井さん宅は白い人工大理石ですが、「鍋とかフライパンがこすれると、グレーになっちゃったりするんです」。早草さんも「うちも人工大理石で跡がつきやすい。シリコンマットを敷くようにしていますが、こまめに拭かないとシミになりやすく、洗剤跡もシミになっています」と話します。人大キッチンは、見た目は美しいがシミや傷はできやすい欠点があります。ステンレスは、管理がラクですが金属の冷たい雰囲気を嫌う人もいる。なかなか難しいです。

 今回も盛り上がった座談会。メンバーが変われば視点も変わり、新たな発見は多いのです。3名の皆さん、お忙しい中、時間を割いてお話しくださり、本当にありがとうございました! 座談会の全貌を知りたい方は、ぜひユーチューブの動画をご鑑賞ください。理想のキッチン検討会は今後も開催します。もし我こそは、という方がいらっしゃいましたら、くらし文化研究所までご連絡ください。
「理想のキッチン検討会」はユーチューブでも見られます。


過去のキッチン取材その他がアップされている、私のユーチューブのサイトはこちらです。

noteの「理想のキッチン」連載ページはこちらです。

くらし文化研究所のサイトはこちらです。

理想のキッチン検討会は、今後もまた開催する予定です。Coming Soon!

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