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物語食卓の風景・専業主婦のつぶやき④

 子育て真っ盛りの専業主婦、香奈子の生活を描くシリーズ第4回。マメなのかそうでないのか、なかなかめんどくさい夫、勝について前回香奈子はこんな風に思っていました。

 台所に入ってきた勝は何をしたでしょうか。料理のことを書いていたので、よかったらもう1回前も思い出してくださいね。

 外食で思いつくことがあるのか、勝はたまに料理を買って出ることがある。この間の日曜日は、「麻辣な」中華料理を食べて、花椒を効かせた蕎麦がおいしかったとかで、「麻辣焼きそばを食べたい!香奈子にも、つくってやるよ」と言い出した。

「子どもたちに、そんな激辛の焼きそばなんて食べさせられないでしょ!」と言ったら、「おれは大人用をつくるから、香奈子は咲良たちのをつくってやれよ」と言い出す。いつの間にか花椒も買ってきている。金曜日に取引先の人に連れて行ってもらった店の近くに、中国人がやっている食材店があって、「本物」の中華料理食材がたくさんあるんだそうだ。

「南京町の中華食材とはラインナップが違うんだよ。生活感があって、日本語がない調味料も売っているんだよ」と張り切る。南京町の食材店も、別に売っているものがにせもの、というわけじゃないんだけどな。日本語がないことが本物というのも、何か変だ。そのことを指摘すると、「いいんだよ。俺の中ではそれが本物の証だから」と訳の分からないことを言い出す。

 ともかく、日曜日のお昼は家族全員分が必要で、料理が面倒なので、半分でも勝がつくってくれたら助かる。ちょうどタマネギやニンジンもあるし。「でも、豚肉とピーマンがないよ」と言うと「じゃーん、羊肉を使います」とその食材店で買ってきた、という羊肉を冷凍庫から取り出す。何か夜中に台所でごそごそやっているな、と思ったらそれだったか。冷凍庫とは気づかなかった。「羊ってクセがない?咲良たち、食べるかしら?」「確かに。そこまでは気づかなかった」としょんぼりする。

 しょうがないので、私も冷凍庫を探すと、シーフードミックスの残りがあった。「じゃあ、あの子たちにはこれを使うわ。ピーマンだけ、ちょっと買いに走ってくれる?」「わかった」

 というわけで、勝が出かけようとしたところへ、テレビを観終わった咲良と萌絵がやってくる。「パパ、お出かけするの?咲良も行きたい」「萌絵もー!」と騒ぐ。「パパ、お買い物だよ!2人も一緒に行くか?」「うん!行くー」とはしゃぐ2人。「あなたたちが行くと遅くなるでしょ」と香奈子が言うのに「いやだ、行くー」と萌絵が騒ぎ出す。「お昼ご飯、遅くなってもいいの?」「いい!」と、こちらも言い出したら聞かない。

 どうせ、12時ぐらいになったら「お腹がすいた!」と騒ぎだすに決まっているのに、今も止めたら騒ぎ出しそうな2人である。2人そろって強情なところは、いったいどちらに似たんだか。これだから、勝が料理に関わってくるとめんどくさいのだ。私が1人で適当につくったら早いのに。それに、勝が台所に入ると、それもまた2人が手伝いたがるに決まってる。包丁や火を使うから危ないと言ってもきかない。

 ふだん、私が1人で料理するときは、忙しいと言ってあるし忙しそうなオーラも出ているのか、2人が寄ってくることはあまりない。咲良は萌絵が台所に近づかないように、萌絵の関心を引いてくれさえすることもある。そのほうが私が喜ぶと知っているのだ。しかし、遊ぶみたいに楽し気に料理する勝が台所に立つと、急に台所がディズニーランドっぽく見えるらしく、2人も料理したいと騒ぎ出すのだ。4年生になったところの咲良は、そろそろ料理に関心を持ちだしていて、実際教えてもいいかもしれない、とは思っている。でも、もうじき3歳になる萌絵は、何でも姉の真似をしたがるけど、料理なんてとんでもない。危なすぎる。

 ため息をつきながら、とりあえず香奈子はタマネギの準備を始める。どうやって娘たちを台所から締め出すか、その方法を考えながら。


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