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【前編】12年ぶりの邂逅。私たちが紡いだキズナの行方

公益財団法人 日本イタリア会館の会報誌【Corrente(コレンテ)2024年2月号】に寄稿したコラムを加筆修正して公開します

http://italiakaikan.jp/culture/publish/img/Corrente399.pdf

始まりは1通のメッセージ

2023年12月。40歳目前のサッカーコーチに、クリスマスプレゼントは唐突に訪れた。

「アキさん、ご報告があります」

と1通のメッセージ。送り主は開校直後から7年間コーチとして働いてくれていた仲間の1人。現在は JFL(4部相当)・ヴィアティン三重のスタッフとして働いている。

「輝樹の獲得にゴーサインが出ました」

名前のあがった「輝樹」とは、折口輝樹さん、かつての教え子の1人だ。彼と私たちの出会いは2011年の開校イヤーにまで遡る。


あの少年の親はどこだ?

当時のテクニカルディレクターであったマッテオコーチが、小学4年生(10歳)だったこの少年の手足の長さに気づくやいなやこう言い放った。

「この子は今すぐにでもGK(ゴールキーパー)を始めるべきだ」

私たちとしてもまだプロジェクトのスタートを切ったばかり。子どもたちや親御さんの顔と名前がなかなか一致しない状況でありながら、「彼の親御さんを探そう」と一目散に駆けていく。

お母さんを発見して話をしてみると、地元のクラブでGKを始めたばかりとのこと。続いて現れた190cmオーバー長身のお父さんを見るや、イタリア人のトークに一層の熱がかかった。フィジカル面の成長の伸び代を見たからだ。

“Per favore, credetemi. Il portiere è il ruolo perfetto per vostro figlio.”
(どうか信じてください。ゴールキーパーこそご子息にとって最適なプレーロールです)

親御さんの口はあんぐり。明らかに圧倒されている。とても情熱的で熱烈なアプローチだった。

あらゆるアクションが手探りだった開校1年目

新たなGK像を探す旅の始まり

ほぼ時を同じくして、新たなスタッフが数名加わった。私よりも年輩で長身の男性が1人。彼こそ、前述のメッセージをくれた清水俊博さんだった。サッカー経験を聞いていく中でGK経験者であることを聞いてすぐに決めて伝えた。

「GKコースを一緒にやりましょう!」

と。

新たなサッカー文化を根付かせ始めたばかりの萌芽期。私を含めた日本人コーチ全員がACミランの育成哲学を体当たりで理解しながら、それに基づくトレーニングを日本の子どもたちに提供することだけで精一杯だった。

体験レッスンなどを複数回繰り返した後、2012 年から正式に当アカデミーのGKコースが開講。コーチ1人に教え子1人、マンツーマンレッスンからのスタートだった。

マンツーマンで始まったGKコース

課題は山積み

もちろん順風満帆だったわけもなく、すぐに壁にぶち当たった。まず、明確な指導教本がない。

私たちにとって明確だったのは、ACミランが求める「現代的なゴールキーパーを育成しよう」という曖昧なメッセージだけ。

これはGKコーチ経験のあるイタリアの友人に聞いて分かったのだが、ボール処理の手足の出し方などディテールが日本のそれと異なる部分が多く、「完全にイタリア・ACミラン流で教える」というのはなかなか困難な状況に陥った。

新たなアプローチに触れながら成長を見出す
トレーニングはこの困難と戦う日々だった

GK=手も足も使えるプレーヤー

日本初のACミランアカデミーという私たちの組織に、「前例」があった試しはない。

「前例がないなら作るしかない!」と思いながら毎日働いていた。

ということで、現代的なGK像とACミランの育成哲学とシンクロする1つのスタンダード

【手も足も使えるGKの育成】を柱に据えることになった。

サッカーとは足を使うチームスポーツ。そもそも足で物体を操るのは容易ではないし、広大なフィールドで、敵味方合わせて22人のプレーヤーが1つのボールを争う。他者(相手)の妨害をかい潜りつつ、他者(味方)の意図を汲みながらプレーする。故に、簡単にゴールは決まらない。

「自由度は高いくせに、簡素化できない」という点で、日本文化となかなか相性の悪い、酷なスポーツだといつも思っている。

フィールドプレーヤーは何かにつけて言い訳ができる。しかし、GKには責任転嫁できる他者がいない。 後ろを振り返ってもゴールネットがあるだけ。相手ストライカーに「もうちょっと優しく打ってくれよ」とは口が裂けても言えないのだから。

※バレーボール界の名伯楽、フリオ・ベラスコ(アルゼンチン出身)のスピーチには金言がいっぱい。ぜひご覧いただきたい

サッカーはミスと付き合っていくスポーツだ。しかし、残念ながらGKのミスは失点に直結することが多い。そこでミスを減らす努力をするために、コーチとプレーヤー、まさに二人三脚で徹底的にまずは基礎を磨いていった。

長くなりましたので【後編】に続きます!(後日公開予定)


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