見出し画像

【コーデ記録】ユニバーサルビーチプロジェクト

今回は今や日本全国あちこちに広がっている取り組みであるユニバーサルビーチプロジェクトについて社会課題解決コーディネーター目線での記録を書きながら、どんなことをコーディネートしてきたのかをお伝えできたらと思います。有料部分まで読むと9000文字と超長いので無料のところまでで十分ですよ(笑)


取り組みの概要

ユニバーサルビーチプロジェクトは2017年の夏から神戸市の須磨海水浴で始まりました。障がい者(主に車椅子ユーザー)を対象に海水浴を楽しもうというところから始まっており、車椅子ユーザーの木戸俊介くんを代表(ちなみに私は副代表)とするNPO法人として活動をしています。
今では北海道から沖縄まで日本各地でユニバーサルビーチの活動を広げており、活動内容も海水浴だけではなく、山登り、木登り、スキーなどのアウトドアアクティビティに広げ、畑作業などにもチャレンジして、さらに障がい者の就労支援事業も行っています。

で、ユニバーサルビーチってどういうことをどうやってしているの?ってことなんですが、詳しい内容はNPO法人soar(ソアー)が運営するウェブメディアが取材してくれて、とても気持ちが込められた素敵な記事にしてくれているのでそれを見てもらいたいです。

取り組みが始まった経緯

今回は、この取り組みが始まることになった経緯からお話します。
2016年、神戸市役所職員として市民の方が「こんなことをしたい」という相談に乗って壁打ちやコーディネートを始めまくっていた時期に、とある看護師から「助けて欲しい人がいる」と相談を受けました。それが木戸くんの事でした。彼は事故で脊髄を損傷し歩けなくなり車椅子ユーザーになり、再び歩くためにオーストラリアのバーレイビーチにリハビリ留学に行き、そこで本物のユニバーサルビーチに出会い、感動し、これを須磨海水浴場でやりたいと言っていました。同じタイミングで須磨海水浴場で海の家を経営する方たちからも木戸くんの活動に対するヘルプの要請が私にありました。
まだ、木戸くんとは会ったことなかったのですが、複数の方から相談があったのでとりあえず話を聞き、ユニバーサルビーチのことを知りました。

「これはやった方が良い」というのが私の第一印象でした。

コアメンバー集め

そこでヘルプを出してくれた看護師や海の家の経営者などに声を掛け、プロジェクトのキックオフを行いました。社会課題解決コーディネートの最初のステップであるコアメンバー集めで、必要なメンバーとしてライフセービングクラブの方などにも参画してもらい、また将来絶対に注目される取り組みになると思ったので、新聞記者にキックオフの時から記録係として入ってもらいました。
必要不可欠なコアメンバーやメディアを初期段階から巻き込んでおくこともとても重要です。(※下記、コーディネートのポイントその①「ビジョンを語る」でどうやって巻き込んでいくのかを記載しています。)

持続可能な取り組みにするために

次に、行ったのは資金集めです。ビーチマットを購入するのに130万必要だったのでクラウドファンディングで167人の方の協力を得て160万ほどの資金を集めることができました。

社会課題解決コーディネートとして資金はとても重要ですがより大事なのは取り組みの持続可能性です。クラウドファンディングは単に資金を集めるためのものではないと認識しておいた方が良いです。
コアメンバーも揃い、クラファンでビーチマットも購入し、これで車椅子でも砂浜を通って波打ち際までいけるようになりました。ところが、そこから先の手段がなかったのです。海水浴というからには海に入らないと意味がありません。普通の車椅子で海に入ることは錆とか劣化とかいろいろあって不可能です。
そこで、私と木戸くん、そして当時学校の教諭をやっていた古川さんで、約20万ずつ資金を出してフランス製の水陸両用アウトドア車椅子を購入し、講習も受け、これで海水浴のできる準備が揃いました。
これでユニバーサルビーチが実現可能になったので、2017年の夏から実施を開始しました。
そして、「実際にやってみたら、めちゃめちゃめちゃめちゃ良かった」んですw
(※下記コーディネートのポイントその②「ファン・サポーターをたくさんつくる」では仲間を集めるのに大切なこと、リスクなどについて記載しています。)

官民が連携する共創の形へ

良さを実感したらますます持続可能な取組にする必要があります。しかし、誰もが無料で楽しめる須磨海水浴場(公共空間)で、障がい者からお金を取って営業することはできません。そして私たちもそれを望んでいませんでした。「健常者は無償で海水浴ができるのだから、障がい者も無償で楽しめるようになるべきだ」と考えたからです。
「ダイバーシティ」とか「ソーシャルインクルージョン」と言われる取り組みは社会的マイノリティに対して当たり前のように一緒の社会生活が送れることが理想です。当事者ではなく社会がコストを負担するべきだと思います。(健常者も有償であるエンタメ体験などは、社会的マイノリティでももちろん有償であるべきと思っています)
社会課題解決コーディネートとしてはここで「官民連携」を考えました。行政に補助金などで助けてもらうのではなく、お互いにメリットのある組み方をしたかったのです。「行政にとってのメリットは」、「どやったら予算を付けてもらえるか」、「どうやったら持続的に協力体制を組めるか」を考えました。
その当時、神戸市は阪神淡路大震災以降行っていなかった須磨海岸の海岸環境整備事業を再開して遠浅のビーチにする工事が始まっていました。それに合わせて、海の家のクラブ化やアルコールが入っての喧嘩などちょっと治安が悪くなっている海水浴場を、年間を通して市民のだれもが安全に楽しめる場にしようという意図があり、国際環境認証である「ブルーフラッグ」を取得しようとしていました。

ブルーフラッグとは
ブルーフラッグとは、国際NGO FEE(国際環境教育基金)が実施するビーチ・マリーナ・観光用船舶を対象とした世界で最も歴史ある国際環境認証制度です。認証基準を達成すると取得でき、毎年の審査を通じて、ビーチやマリーナ等における持続可能な発展を目指しています。国内では2024年5月1日現在、14か所(ビーチ12か所、マリーナ2か所)がブルーフラッグ認証を取得しました。
ブルーフラッグは1985年にフランスで誕生し、2023年5月時点で、世界51か国、5,036か所が取得。特にヨーロッパでの認知度は高く、ブルーフラッグビーチは「きれいで安全で誰もが楽しめる優しいビーチ」として、多くの人々がバカンスに訪れます。ブルーフラッグを取得するためには地元自治体やビーチ、マリーナ・観光用船舶の管理・運営者等が中心となり、厳しい基準を達成することが求められます。多くの基準設定にもかかわらず世界中でブルーフラッグの掲揚が増えています。これはブルーフラッグを取得する過程で周辺地域の関係者が関与することにより、地域の経済的側面と環境的側面を両立させる持続可能な発展につながると高く評価された結果だと言えます。

一般社団法人日本ブルーフラッグ協会 https://blueflag-japan.org/blueflag/  

ブルーフラッグには「身体障がい者向けのアクセスと設備」という認証基準があり、この基準をクリアするために、市とユニバーサルビーチを共創できるのではないかと考え、官民連携のコーディネートを進めました。
(※下記コーディネートのポイントその③「官民Win-Winの連携」で、どうやればうまく自治体と組めるのかなどを記載しています。)

官民連携事業の成果

行政と連携して事業をすすめるために、ユニバーサルビーチの実施主体をNPO法人化しました。NPO法人須磨ユニバーサルビーチプロジェクトとして、須磨海岸の海水浴シーズンに神戸市が仮設で建設する「障がい者利便施設」(車椅子でも使えるシャワー・トイレがある施設)の運営に携わらせていただいています。シーズンの平日は車椅子ユーザーや高齢者、ベビーカーを推す家族、乳児を抱えたお母さんなどに声をかけ、着替えや授乳などに使ってもらうようにしています。土日祝日は、ボランティアが集まって朝からビーチマットを敷き、水陸両用車椅子を準備し、障がい者の予約を受けて海水浴サポートしながら一緒に楽しんでいます。

2023年の海水浴シーズンのユニバーサルビーチの日程

ユニバーサルの取組を須磨海水浴場で進めていった結果、2023年の北半球ブルーフラッグ認証を受けた海水浴場の中でアクセシビリティ部門で世界北半球で2位に選ばれました。もちろん日本では1位です。世界でもトップクラスのアクセスしやすいビーチの称号を得ることができました。

これは行政がバリアフリーの駐車場や園路やスロープを整備し、さらに常設の多目的トイレと、海水浴シーズン限定だが障がい者利便施設を整備したことに加え、私たちのNPOがボランティアを集め、ビーチマットと水陸両用車椅子を準備してすべての方に海水浴を提供することにチャレンジし続けている結果です。

さらに、須磨海水浴だけではなく、私たちはNPOとして日本全国の海水浴場をユニバーサルビーチにすべく出張でお試しユニバーサルビーチを行ったり、日本財団と組んで同じような取り組みを行える団体をつくり、そこにビーチマットや水陸両用車椅子を提供するなどしています。
今年の海水浴シーズンも全国あちこちから声をかけていただいています。
(出張ユニバーサルビーチの実績はは2022年8月時点で24都道府県30ビーチ)

全国の自治体や福祉関係の団体などから神戸に視察もたくさん来ており、市の施策も称賛いただいていますし、地元の高校大学などの教育機関や地元企業からユニバーサルビーチを題材にした授業や研修などの依頼もうけており、Win-Winな関係で成果が上がっていると実感しています。

さて、ずいぶん長い文章になってしましましたが、ここから下の有料部分では、コーディネートをする時のポイントをまとめて記載します。

ここから先は

4,886字 / 2画像

¥ 200

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

サポートいただいた時は、NPO、アスミーの活動やアートプロジェクトのために使わせていただきます。