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生きるためのキスが出来るのだろうか

7/13読了。
舞城王太郎『イキルキス』


ざっと感想

人生はままならない。
数え切れないほどのifを抱えて全ては必然として起こる。
正義とは、善とは。
なにもかもは主観でしかない。
ifを捨てられない。
それでも、自分が「これでいい」と思った道を突き進むしかないのだ。


全5篇の短編集。
うち2篇は書き下ろしで、その2篇がとても良かったのでざっとあらすじと感想など。

・アンフーアンフー

(あらすじ)
子供が寝ている間に、夢で起きたことを現実に持ち込んでしまう現象に悩む夫婦。
自分が昔作ったひんぽぽ様という手作りの神様を夫が見つけてしまったせいだと妻は言う。
子供を守るため、妻は夫の身体をひんぽぽ様に見立てて謎の現象は収まった。
しかしそれは果たして善なのか?妻は考え続けるのだった。

子供が溺れる夢を見て、すっかりびしょ濡れで口から水を吐き出す、でも夫婦の間で寝ていたはず…という謎の現象。日に日に子供の現象は悪化する。
多分実際にはあり得ることのない現象だ。

ただ目の前に不思議があるだけなのだ。不思議って言葉を見てみろよ。理由や理屈を想像することも議論することもできないって意味じゃないの?不思議を目の前にして僕が思考不能になっても当然ってことじゃないか?

この一連の流れで妻に「この現象についてどう思うか」を問われた夫のモノローグ。
これが妙に考えさせられるものがあって、割に舞城ワールドでは人が死んだと思ったら何やかんやして生き返ったりしがちなところがある。
超常現象や奇跡がまあまあ起こるのだ。

そこで気付いた。
人が死んだり傷ついたりするようすがいつも理不尽でそこに目が行きがちだが、どちらかというとその理不尽に対する主人公の哲学的モノローグが好きだなあと。
引用したモノローグもそう。「不思議」は「不思議」であって、その現象はただそこにある。そしてそれは主人公が何かを考えるためのトリガーなのだ。
それはたとえばこの話であれば善とは何なのか、犠牲は必要なのかというところになる。やはりそこにはifがある。もし子供を助けずにいたらこの現象がなにか世界を変える可能性だってあったと妻は言う。
でもあくまでifは現実を越えられない。それでも考えるのがきっと人の性なんだ。
生きている限り、考え、己の善を追求するしかないのだ。


・無駄口を数える。

(あらすじ)
「女の子っぽい行動」が面倒だなあと思う主人公。意思に反してクールと言われるがそれはただ己を守るために「女の子っぽい行動」を避けているだけだった。そんな彼女も結婚し子供をもうける。しかし遊びに来た友人が窓から子供を投げ捨ててしまう。

投げ捨てられた子供は外を歩いていた夫によってキャッチされる。
そう。また奇跡が起こる。

私はこの世に対して万理子が放り投げられる前と同じ信頼ができる。おかしな世界ではない。普通だし、普通のままだ。あれは私と万理子だけに起きた、特殊で、稀で、凄く小さな出来事なのだ。

ことが収まってからの主人公のモノローグ。
いや小さくねえよと突っ込みたくもなるだろうが、投げられた子供の死を確信して気を失って入院してついでにその間子供が生まれて幸せな夢まで見てしまってるので許してあげて欲しい。
その色々を越えた上でのモノローグだ。
どうしてこうも世界を受け入れられるのだろうか。

夫は言う。それが、多分「必然」だからなのだ。
そういうもんだから子供は助かった。そしてこんなことは簡単に起こりえないしきっともう起こらない。
ここでも必然かー。という感じである。この世界においては何もかも必然なのでそれはそうなのだが。

タイトルになっている「無駄口」というのは最後の方でかなりボディブローのごとく効いてくる。
「女の子っぽい行動」が面倒という最初の話はここに繋がってくるのだ。
子供を投げ捨てた友人はそれなりの刑罰が与えられたが、別の友人がわざわざ訪ねてきてそのときのことを問い詰めてくる。
主人公は「関係性が終わってるのに会話を続ける無駄の重苦しさ」からその友人を無言で家から追い出す。そのあとのモノローグ。

そして私は決して友達を失うのが平気なんじゃない。そのどうしようもなさを受け入れてるだけだ、と確認する。私には失いたくない大事な人がたくさんいる。ただ、私がどう考えてるか、どう感じているか、どう生きているかを誰にでも説明しなきゃいけないとは思っていないだけなのだ。

ああああああ……分かる……分かりすぎる…初めて舞城文学で共感したかもしれない……
自分が必要とすることしか説明したくないというか、必要以上に説明をしたくないというか、上手く言えないけどそういう葛藤とでもいうのだろうか。
誰にでも八方美人できるほど人間は強くない。
そしてそれで起こりえる人間関係の破綻は避けられないわけで、やっぱり受け入れていくことしかできないのだ。

なーーーんて考えながら、何か嫌だなあと思っていた昔の友人のLINEグループから無言で退室した。
謎に背中押されてしまった。まだばれてないので何も言われてないけどばれたら何か言われるんだろうなあ。
説明する気にもなれないんだけど。まさに。

まとめ

舞城王太郎はいいぞ。

あれ?
冗談は置いといて(いいぞは本気だけどね)、割と舞城王太郎初見の人にもオススメできるかもしれない一品です。
各話20分くらい(Kindleで出る奴曰く)なので非常に読みやすい。
人は死んだり理不尽な目に遭うけど一篇以外はなんとかなります。
このnoteで少しでも気になっていただけたらうれしいな!!

舞城王太郎はいいぞ!!!!(2回目)

短く話そうとしたけどあらすじ力が絶望的に足りなかった。てへぺろ。

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