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あの頃へ…8…いち大事

仮住まいしていた農村集落。
運動会が盛んな時期、まもなく子どもたちの地域内予選がある。幼いながらに、近所のお兄ちゃん、お姉ちゃんの走る姿に憧れた。
近くにある神社の境内には広い平地があるので、練習するには恰好の場所。

予想外の怪我

ある日曜日、地面に小石でトラックを描き、そこでバトンリレーの練習。本番さながらに夢中で走る。
私がコーナーにさしかかり、地面を思い切り蹴ると、初めて感じる違和感。二、三歩で足が止まる。
足元を見ると、茶色の瓶底の厚いかけらの尖り部分が足首内側に刺さっていた。
お兄ちゃんたちの後々の探検報告では、隅に石碑と石の台座があり、その周りにまだラベル付きの割れたビール瓶が散らばっていたので、前の晩、誰かが石碑に瓶を投げて割ったのだろうと話していた。

子どもたちの奮闘

吹き出す血を見て、背筋がぞくっとした。やってしまったなという後悔。
「大変だぁ、いっぱい血が出てる!」
子どもの誰かが指示をして、一緒にいた近所のお姉ちゃんがタオルで足首を縛り、私を背負った。少し小さなお兄ちゃんは自宅にいる母に伝令に走った。背中で揺られながら、痛むより先に、私は、心配かける両親になんて言おうか必死に考えている。

背負われて何段もの階段を降りる度、タオルの脇から小さな噴水のように血液が噴き出している。幼い弟が、砂場遊び用に持っていた可愛いミニバケツで、必死に横に付き私の血を受け止めている。離れないように、離れないように、顔をグシャグシャにして泣きながら受け止めている。
痛むし、気分も悪いが、この優しい光景に思わず笑顔になった。

母の応急手当て

神社から直ぐ近く(300m位?)の我が家までたどり着き、縁側に寝かせられると、元看護師の母が、ガラスの残骸を確認、消毒し、ガーゼ、包帯をした上から圧迫しながら、タクシーの到着を待った。
その間、幼馴染たちは、「だいじょうぶ?」「死なないよね?」「痛い?」と言いながら代わる代わる手を握って励ましてくれた。

父とタクシーで隣接市の病院へ向かい、直ぐに手術。足の内側にある太い血管をぶっつりと切ってしまったらしい。血管付近にはなかなか麻酔が効かないらしく、看護師さんたちに押さえられる、長い、長い時間、そこで初めて大泣きした。
子どもたちの奮闘のお陰もあり、術後は大事に至らなかった。
あの頃の必死な幼馴染と可愛い弟の顔を思い出しながら、幸せな気持ちになる。