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金木犀の香りにようやく慣れてきた

働いていたオフィスは5階にあったが、その日、私は窓を開けて身を乗り出していた。会社の偉い人が「はやまるな!……と言ったほうがいいのかな? 外になにかあるのかい?」と気障に声をかけてきた。

「金木犀の香りがするもんで……」
「きみはなかなか風流なことを言うね」

そんな会話をおもいだす。


桜と同じぐらい、一斉に花が開く印象の金木犀。

今年もそんな季節がやってきた。
「いまはすっかり慣れて」香りをたどって花を探すようになった私だが、それはここ数年の話だ。

東京に引っ越してきた年、初めて金木犀の香りをかいで私は笑ってしまった。
「どこかのお宅、トイレの窓を開けっぱなしにしているな」
私にとってこの香りは、トイレの香りのイメージだった。むしろ花の匂いだということを知らなかった。

ところが、金木犀の香りでトイレをイメージするのはある一定以上の年齢のひとだけだそうだ。若者はトイレのイメージにはならないらしい……

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長野の中でも家が少ない田舎で育った私にとって、庭木はあまり縁がないものだった。どこからが庭の木でどこからが自然の木なのかよくわからないし、都会とは庭に植える木の種類が違う気がする。家のそばを歩くこともあまりなく、「お庭の木からいい香りがする」という経験はあまりない。

桐の花はいい香りがしたな。

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京都にも長く住んでいたが、京都は庭があまりない。住んでいた場所も、そんなに街中じゃなかったはずだが庭のイメージが無い。建物は小さめでぎっしり立っている。

(古い作りだと中庭があるが、住人以外は入れない。道沿いは建物の背中側である)

道に何かを置くことも少ない。生活感があまり無いことには気づいていた。

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東京は、今まで住んだ場所の中で一番緑の種類が豊富かもしれない。身近なところにある、という意味で。どの季節でも花が咲いているし。東京に来て初めて実物を見た花や木はたくさんある。

金木犀もそのうちのひとつなのだ。




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