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歩くたわしが、しゃべった話
「こないだ、あそこをたわしが歩いていたわけよ」
ある日、沖縄の母の実家で縁側(掃き出し窓の縁)に座って庭を見ていたら、おばあちゃんが私にそういいながら隣に座った。
「えっ、たわしが?」
「たわしよ。あの辺をこう……こうしてちょこちょこたわしが歩いていたわけ」
「やだかあちゃん、またたわしの話?」
叔母は聞き飽きた様子で呆れて言う。「うちらはもうなんどもきいたけど、きいてあげてね」
ふんふん……とおばあちゃんの話を聞く。
「最初はなにごとか、悪いものじゃないか? とおもったけどね、たわしが近くにやってきたら、なにか言葉をしゃべっているわけよ」
「たわしがしゃべった!」
「たわしがこう……近くをあるいていくときによーく聞いてみたら、」
『キンパク……キンパク……』
「キンパク……としゃべっていたわけ」
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「キンパクとは金箔のことだと思う、金箔はいいものだから……いいもののことをしゃべっているたわしは、わるいものではないんだね。いいものに出会ったと思う」
おばあちゃんは「キンパク」としゃべるたわしに出会った。それ以上でもなくオチも特にない思い出話である。
おまけ1
「かあちゃんがキンパクってしゃべるたわしの話をしたでしょ。最近その話ばっかりするわけさ」
「たわしが歩いてこっちに来たのも面白いね」
「たわしは歩かないよねえ、夢でも見たのかね?」
「でもね……たわしのあとで、こんどは姉さんが『ペットボトルのフタが庭を歩いてる』っていうわけ」
「庭にいろいろなものが歩くね……」
「見に行ったらペットボトルのフタが歩いているわけよ!」
「実際にいた!?」
「ひっくりかえしたらヤドカリがはいっていたさ」
おまけ2
おばあちゃんがたわしをみた場所、私が3歳ぐらいの時に高速で走るタコを見かけて追いかけたけど見失った場所と同じなんだ。
やっぱり歩くたわしもいるかもしれない。
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