眠る

私は物心ついた頃から眠ることが苦手だ。
眠ることが怖かった。
布団に潜り込んでから2時間は眠れないことが当たり前だった。

夜になると、両親の言い争う声が聞こえる。
マンションの薄い扉越しでは、会話の内容がほとんど聞こえてきていた。
両親が言い争う原因は決まって私のことだった。

母は私を愛せなかった。
父もまた同様だった。

両親は私の厄介な性質を互いに押し付け、罵り合っていた。

いい学校に入れてやったのに。
父は決まってそう言った。

私はそんなこと望んでいなかった。
両親の見栄で、私は幼稚園受験をしたのだ。

毎晩のように両親の言い争う声を聞いて、私は眠れない夜を過ごすことが当たり前になっていた。
母に抱きしめられて眠った記憶などない。

安心できる環境にいたことが人生で一度もない。
私は常に、両親と、彼らの態度や言葉による不安と恐怖に怯えながら暮らしていた。

私は、自分の人生を生きてきた実感がない。
両親につくられた、実態のない私を生きてきた、という感覚でいる。
今もそれは変わらない。

自分で何かを決めることが難しい。
なぜならば、自分で何かを決めることで、両親に叱責されるような恐怖に襲われるからだ。

36歳にもなって何を言っているのかと思われるかもしれない。
しかし、それが私という人間に染みついた感覚なのだから仕方がない。

今日もまた、眠れない夜がくる。

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