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NEEDY GIRL OVERDOSEを遊んだら地下バンに通った17歳の夏を思い出した

NEEDY GIRL OVERDOSEを遊んだら、ありし日の自分を思い出した。あめちゃんはまるで17歳の時の自分のようだった。

特にこちらのあめちゃんの独白なんて17歳の頃自分が考えていたことの生き写しだ。


いや、ちがう。

わたしは断じてオーバードーズもリストカットもしなかったし、精神科に通いもしなかった、歳を取れば去っていく若き可愛さだけが取り柄だと、絶望もしなかった。
絵を描きサイトを作り小説を書き、若き承認欲求を、創作活動にぶつけていた。
だけど生きづらかった。あめちゃんのように、インターネット上で別の人格を作り自分ひとりだけではなく、類族するもの全て巻き込まなければ乾きは飢えはしなかった。わたしは創作活動、あめちゃんは配信、やり方は違えど乾きは何も違わないように思った。


17歳のあの頃、わたしは幼く、インターネットはまだアングラだった。
いいえ、ブログが出始めでmixiが始まりつつあって、HTMLをポチポチしなくても自己発信できるようになって、あの頃のインターネットは終わったと2chでは囁きあっていた、そんな懐かしい時代。
思春期のわたしは生きづらかった。家庭にも学校にも居場所はなく、東京に行けばすべてが変わると信じていた。
父子家庭、外国人の恋人を連れ込む父親にとって家を出ていくのが最高の親孝行と思えた。
地元の学校では好きなものを誰も分かち合ってくれないし、吃音を気味悪がるけれど、東京はきっとそんなことはないと思っていた。


手っ取り早く稼ぐため、居酒屋でバイトをはじめた。そこで出会った先輩は面白く、ヴィジュアル系バンドに詳しかった。バンギャルのわたしは喜んだ。運命と思った。学校では分かってくれない好きを、分かってくれる人に出会ったんだ、と。

今をときめく人気バンドの若き日の下積み時代……東京の地下にある小さなクラブハウスでの出来事を先輩は話してくれた。
羨ましかった。早くから地下のライブハウスに行けば、将来大きな存在になるバンドと友達になれる。そんなことが達成できたら、特別な存在になれるような気がした。
わたしもさっそく、東京の地下にある小さなライブハウスに行くことにした。
先輩も、青春時代を思い出すなぁ、と一緒についてきてくれることになった。


目黒鹿鳴館高田馬場AREA池袋CYBERに行った。
どのライブハウスも薄暗く、せまく、お手洗いは落書きでいっぱいだった。よく見ると、出演者であるバンド側と観客は同じお手洗いを使っているようだった。さらによく見ると、ライブエリアの外、観客が待機するロビースペースの向こう、カーテンで仕切られた先がバンドの待合室、楽屋のようだった。
観客である可愛らしい女の子が、手招きをされてカーテンの向こう側に消えていくのをよく見かけた。
それまではもっぱら、小さくてもZepp東京ぐらいの大きな規模のライブハウスしか行ったことがなかったから、観客とバンドの距離の近さに驚いた。
そして期待した、ここでならバンドをやってる特別な友達ができるかもしれない………………




やがてひとつのバンドを気に入って、彼らを追いかけていくことにした。
先輩に、出待ちや入り待ちをやろうよ、と誘われて楽屋側入り口にプレゼントを持って立ったこともあった。
先輩に、どのメンバーが好きなの?と聞かれて答えられないこともあった。全員好きだ、ライブの雰囲気が好きだ、と言ったら、誰が好きなのか決めないといけないよ、と言われた。
本命の人気バンドだって、誰が好きとか決めていたわけじゃなかった。曲やライブの雰囲気が好きだった……でも、地下でやってるまだ小さなバンドはそうじゃないのかもしれない、好きなバンドマンを決めるものなのかもしれない。わたしはテキトーにギターの人が良いと答えた。



バンドがライブ回数を重ねるごとにファンの知り合いが増えていって、気がつけば先輩はファンの子を牛耳るボスみたいな存在になっていた。
先輩はライブ前にファンミーティングを多く主催するようになり、入り待ち出待ちの管理をして、たぬき(バンギャル系の2ch)に入り浸り、戯れに気に入らないファンを潰したりしていた。
わたしも最初は、憧れだったファンミーティングに参加できて嬉しかったし、バンドマンに認知もされて楽しかったが………………だんだん…………


めんどーになってきて…………


とてつもなくめんどくさくなってきて…………


というか、本命バンドは別の人気メジャーバンドだし…………地元から東京に通うのはお金も時間
もかかるし…………絵も小説も書きたいし……(あと勉強もしなきゃだし……)…………

わたしは将来バンドマンがビッグになった時に友達でいたかっただけで……

特別な友達が欲しかった…………

人気バンドの友達がいるという特別な自分になりたかっただけで……

こんな…………

こんな…………縄張り争いや恋愛ごっこをしたかったわけじゃない!!!



自覚した途端にゾッとした。友達、だなんて何を馬鹿なことを。男性と女性なのだ。わたしはそんな気全然なくても女性なのだ。
恋愛する気はないのなら、先輩が作り上げたバンドマンと距離が近すぎるこんなコミュニティさっさと抜けて、元の人気メジャーバンドを遠くから眺める生活に戻るべきだ。
さもないと取り返しのつかないことになる。


…………入り待ち、出待ち、先輩と待った始発。
ファンミーティングで食べたなんの変哲もないスパゲッティ。
タバコの匂いがする地下のライブハウス。照明機材を操るエンジニアが見える。大きすぎる音響。スピーカーが近すぎるのだ。
演出もほとんどない、演奏とパフォーマンスだけのステージ。そこで、化粧をした特別な衣装の男が歌い、奏でている。
皆憧れをもっている、彼らが幼いときに見たバンドの姿を、俺もああなりたいと思って、ステージに立った。
ファンと入れ食いな恋愛をするためではなかったはず。

先輩は今やそれを助長している。
わたしもそうなるところだった。バンドマンである彼らの憧れを、食おうとするハニートラップで、グルーピーでいいのか?


わたしは違う。

違うが…………

わたしは愚かだった。
特別な自分になりたい、そのためにバンドマンの夢に乗っかろうとした。
有名なバンドマンの知り合いがいる、あの人気バンドの若き下積み時代を知っている。
それがなんだと言うんだろう。
わたしはそれが目当てだった。本当の好きは違うバンドだったのに!!
先輩は悪だが、わたしも愚かだったのだ…………



わたしは先輩に、もう地下バン通いは上がることを伝えた。それから徐々に先輩との仲は悪化して、最後にはバイトで稼いだ40万円騙し取られて関係は終わった。
愚かなわたしはバイトをはじめたきっかけの、上京資金を貯める、ということさえ達成できはしなかったのだ。

先輩が作り上げたファンコミュニティは結局、バンドのリーダーが19歳の女の子を孕ませたことで何もかもが崩壊したと聞いた。
あの頃、地下には無数のヴィジュアル系バンドがいて、そのひとつが女関係で消え去ろうとなにも話題にはならなかった。
19歳の女の子は、ファンミーティングで母親との関係に悩んでいると言っていた。彼女もまた、学校にも家庭にも居場所がなく、何かに自己承認をして欲しくてもがいている少女だった。




あの頃の地下には、ネットにはあめちゃんみたいな女の子がいっぱいいて、わたしもその一人だった。
わたしはそのうち、強い誰かに知ってもらうことで承認を得ることを諦めて、自分自身が強くなることにした。そして現在に至るが……
わたしはNEEDY GIRL OVERDOSEで、あの頃の少女を誠実に描写してくれたことを感謝している。
愚かな、あの頃のわたしが許されたような気がするからだった。


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