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チャールズ・マンソンが殺したもの〜シリアルキラー展


 シリアル・キラー展を見に行きました。
(※そのため、今回はちょっと不謹慎かもしれない話が含まれます)


 なにかというと、シリアル・キラー……連続殺人鬼が描いた絵のコレクション展という悪趣味全開サブカルクソ女感マックス! 貴重な展示会である。
 主に、『地元の名士でありながらピエロの恰好で33名の少年を犯して殺した”キラー・クラウン”』ジョン・ゲイシーの作品を筆頭に、
 『殺した数は1000人と言われる流浪の殺人鬼、レクター博士のモデル』であるヘンリー・リー・ルーカスの自画像、
 絵じゃないけど、『黒髪長髪の美人ばかりをつけ狙ったIQ160のイケメン”オリジナル・シリアルキラー”』デッド・バンディの公文書
 『墓を暴き人を殺し、死体で数々の”作品”を作った”月夜の狂人””オリジナル・サイコ”』エド・ゲインの聖書と
 他にも色々貴重なものが200点ほど小さな画廊を飾っていた。
 (とくにエド・ゲインの聖書は彼にとって因縁深すぎて、えらいモン見た感すごかったなー)

 そんなものに取り囲まれたら、さぞかし異世界感すごいと思うだろうが、画廊は大盛況、人いっぱい。作品よりも閲覧者の方が臨場感あるレベル。幸か不幸か現実感バリバリ。気分はサンシャイン水族館(とっても安心)
 生きている人間の呼吸を前にしては、殺人鬼の闇も形無しである。
 閲覧者は主に、わたしのようなサブカルクソ女と、体格の良いメタラーが大半を占めていた。
 サブカルクソ女はともかく、なぜメタラーがいるのかと言えばひとつはポスターのメインビジュアルを飾っているこの作品のせいだろう。


 ジョン・ゲイシーが描いたピエロpogoの不気味なこの絵、もともとの所有者がkornのジョナサン・デイヴィス。
 ヘヴィロックの雄。今の情緒豊かなメタルを作ったバンドのひとつ。
 ええ、わたしも大好きです!


 とくにこのPVがめちゃくちゃよくってね………



 それで、もうひとつはきっとお前だろう。
 チャールズ・マンソン。アメリカの悪の象徴たる男よ。この男の作品も展示されているのだ。


 マリリン・マンソンはきっと皆さんご存じだと思う。
(そしてわたしはこのFightSongがめっちゃくちゃ好きです。大好きです)
 彼の名前は美しいものの象徴たるマリリン・モンローと、悪の象徴たるチャールズ・マンソンから取っている。マリリン・モンローはもう知っていると思うけど、チャールズ・マンソンはいったい誰か、ご存じだろうか?


 この男は殺人鬼である。そして卑怯にも、自ら手を下していない。それなのに死刑判決を受けた。でも、州の条例が変わって終身刑に変わった。
 まだ獄中で生きている。彼はいったい何をした?

 それについて語るためには、まずはヒッピーを持ち出さなくてはいけない。
 そう、この話はユースカルチャーが殺された話なんだ。


 ヒッピーについてはこのnoteで書いたのだけど、もともとはボヘミアン思想が変形したものである。
 ボヘミアン思想とは、まぁ、常識のとらわれず自由に生きようよ!的なものです。なんか色々書いてあるけど難しいんだ。ウィペディアで読んでください。
 そう、難しかった……自由に生きる、自然に帰り物質のない世界なら皆が自由なら誰も傷つかないだろう。ラブ&ピース……あなたに花を……

 そんなわけがない。

 そこにはやがてやってくる。はき違えた自由を携えた本物の悪が入り込んできて、純朴なものを染めてしまうのだ。


 チャールズ・マンソンは娼婦の子として生まれた。最初は名前もなかったし、誕生日もよくわからなかった。もう、完全に放置されてた。
 苗字もそのとき娼婦がテキトーに結婚してた男のもので、すぐにどこかに消えた。母親も強盗容疑で捕まってからは親戚の間を転々として、やがて犯罪を犯して生きていくことになった。人生の半分は刑務所にいた。
 出所したら時代はヒッピーのものだった。彼らはドラッグとフリーセックス思想で物質社会を捨て、法律のない新しい世界を目指していた。
 窮屈さを抱えていた若者が自由を叫んで足を踏み入れた。ヒッピー思想・ボヘミアニズムの深いところはわからないまま、ドラッグを食い誰でも彼でも交わって、現実から逃げていた。そんな風になってしまった娘を、マンソンは言葉巧みに集めていった。
 女が集まれば男も集まった。ろくでもない男たちだ。こうしてマンソン・ファミリーはできあがった。

 ヒッピーは終期、人里離れたところでコミューンを作り文明を捨て生活していたのだけど、マンソン・ファミリーもそうだった。
 やがて、マンソンは妄想を深めた。ビートルズの曲『ヘルター・スケルター』はやがて来る世界の終わりを告げている!……ずいぶんロックな予言だけど、彼はそれを信じ、そして実現させるためにファミリーみんなで殺人を犯していったのだった。
 ハリウッド女優シャロン・ステートも殺された。マリリン・モンローがハリウッドの美なら、チャールズ・マンソンはハリウッドの悪なのかもしれない。

 どのような殺し方で、何人殺したのかはこちらの殺人博物館で見ていただくとして、それはもう、虫唾が走る残虐な犯行だ。
 読めばわかる通り、彼はファミリーを支配していたし、黒人を差別していたし、女を所有物だと思っていた。そこにはヒッピー思想のカケラもなかった。
 ダメダメだ!真逆だ!邪悪……

 社会の規律のないところには、本当の悪が入り込んでくる。
「社会がなんだ! モラルがなんだ! 俺は自由に生きてやるぜ!」……
 チャールズ・マンソンはヒッピーの憧れを見事に叩き潰し、現実ってヤツをつきつけた。
 彼が殺したのは人間だけじゃない。ヒッピー思想もまた、殺したのだった。


 マンソンは本当は音楽家になりたくていくつか作品も残しているし、アートワークも残している。
 それは全然成功しなかったけれど、現在、数々のメタル系アーティストがカバーしたりアートワークを使いまわしている。
 それは、シリアルキラー展に集まった男性のほとんどがメタラーであることに関係しているだろう。彼はヒッピー思想を殺したが……メタルというジャンルに食べられた。ああ、こいつは全然文化なんか生んでないけど、殺人鬼でさえカルチャーは飲み込んでいく。
 あとサウス・パークにネタにされている。
 ヒッピーは思想は死んだけど文化はいまでもしっかり残っている(ヒッピー風お洋服かわいいよね)


 展示された絵はもはや、サブカルチャーの渦中にあった。
 わたしは、展示された数々の殺人鬼の絵を見ながら、文化の力の強さをまざまざと感じたのだった。

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